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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
二章 変革
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第七話

「法執行」


 私は呟き、細身の刀剣を構える。 目の前に居る男は生半可な相手ではない。 強者独特の雰囲気を持ち合わせている。 それにあの男の武器、巨大なギロチンのようなあれも危険だ。 一見して分かる異様な形状、つまり異法武器だと捉えるのが妥当といったところか。 異法武器を持つ異法使いと戦うのは初めてだが、逆にそれが優位に立てるかもしれない。 油断もなくなるおかげでな。


 対する私の武器は、なんの変哲もないただの刀剣。 細く、扱いやすさを重視したもので、とてもあのギロチン剣を受け止められそうにはない。 中世のレイピアのような細剣だ。


 と、あの男は考えているだろう。


「実戦は久し振りだな。 それも、法使い相手のものは」


「なら、私のほうが不利かもしれない。 私は生憎、異法使いとの実戦は皆無だ」


「ほお……とてもじゃないがそうは見えんが。 しかし、嘘を吐くような人間にも見えない」


「それはどうも。 そしてそう見えないと言うのならば、その身で感じれば良い」


 私は言い、地を蹴る。 男との距離は一瞬で縮まった。 法使いが基本とする身体能力の強化、私自身対して強い力を持っていないが、それでも異法使いに比べればかなりの速さになる。 その速さで私は男の真横に立ち、そして剣を横へ薙ぎ払う。


「本部の中佐ともなれば、さすがに手強い」


 男は動じない。 やはり、相当手強そうだ。 私の速度に一切遅れることなく、男は剣を横にし、私の剣を防ぐ。 だが。


「私の剣を受けては駄目だぞ、異法使い」


 直後、男の体がギロチン剣もろとも、後方へと吹き飛んだ。 そのままの勢いで男の体は瓦礫の山へと衝突する。


 受け切れない剣、それが私の攻撃。 受けた瞬間、何者だろうと私の剣は吹き飛ばす。


「これが私の法だ。 触れたものを問答無用で吹き飛ばす。 衝撃を受けたときの運動ベクトルの強化、それが私の執行する法だ、異法使い」


「……やってくれるじゃないか、法使い。 だからこその軽い剣というわけか」


 ……耐えられた、か。 普通の相手ならば、今ので軽く戦闘不能までには持っていける威力だったはずだ。 しかし、タフだな。 男の体は瓦礫に突っ込み、それだけでかなりのダメージだとは思うが……さすがに他の者たちとは違う。


「打ち合った瞬間に終わる。 だから、実戦は久し振りというわけか。 なるほど、嘘ではないな」


 それどころか、男は笑っていた。 苦痛に顔を歪めることなく、平然と立ち上がった。 そして再度、ギロチン剣を構えている。


「果たしていつまで持つかな、異法使いよ」


 言い放ち、私は距離を詰める。 単純な話、私の剣は防ぐことはできない。 この剣に触れた瞬間、問答無用で吹き飛ばしは発生する。 たとえその衝撃がごく僅かであろうが、その分法の威力を上げれば良い。 よって、この攻撃を防ぐことは不可能だ。


「……速度は見破ったぞ、法使い」


「なに?」


 仕掛けた攻撃は防げない。 だが、男の行動は単純なものだ。 受け止めてはならない攻撃を避けた。 たったそれだけのことを男はしたのだ。


 ……私としても、それは有効な手だということは理解している。 というよりも、私の法に対する対策はそれしか存在しない。 だが、たった一回の攻撃を見ただけで動きに追いつかれただと? あり得ない。 異法使いが、これほどの力を持っているだと?


 異端者の連中は例外なく全て危険だとは聞いている。 しかし……こいつは十人からなる異端者のメンバーではない。 それがこれほどまでとは。


「無駄だッ! 私の法は防げないッ!!」


 避けられ、私は剣を途中で止めることはしない。 軽い剣、そして法での身体能力強化のおかげもあり、全力で振り下ろしていたとしても、それを途中で止めるのは容易いことだ。 しかし、敢えて私はその選択を取らない。


「む」


 男は気付いたのか、声を漏らす。 だが、手遅れだ。


 私の剣はそのまま、地面へと吸い込まれる。 その剣が地面に触れた直後、起きるのは……爆発だ。


 逃げ場をなくした運動ベクトルは、その物体を破壊する。 内部からの動きによって、行き場をなくしたそれは増幅し、破裂する。


「……ッ」


 低い音と共に、地面に穴が空いた。 その際の衝撃はその場に居た私と異法使いの男にも当然及ぶ。 私の場合は法での退避が容易だ。 地を蹴り、後方へ飛んだ私自身に法を執行すれば良い。 だが、その力を持ち合わせていない異法使いは別である。


 衝撃の方向に流されるように私は飛ぶ。 そして男はその衝撃をまともに食らう。 避けられた際の対策は練っておく、当然だろう? 異法使いよ。


「言ったはずだ、私の法は防げないと!」


「く……さすがに痛いな。 防げば飛ばされ、避けても無駄、か」


 男はそれでも倒れない。 衝撃は爆弾にも匹敵するものであったが……この異法使い、とんでもなくタフだ。 攻撃に対応できる異法、狐女の完全逆転や矢斬の得体の知れない異法を持ち合わせているわけではない。 ただ単にその肉体だけで、攻撃を耐え抜いたのだ。 それこそ法使い同様、異法使いも鍛錬によって能力を強化することはできる。 だが、それにしても……この男の強さは、異法使いのそれではなく、まるで法使いのように見えてしまう。


「仕方あるまい」


 男は言い、ギロチン剣を地面へと突き刺す。 軽い動作で、たったそれだけで剣が刺さるとは思えなかった。 しかし、不思議なことにその剣は深く、深く突き刺さる。


「俺は自分の異法が好きではない」


「……何?」


「正面からやり合うのが好きなのだ。 正々堂々、そういうやり方であるべきだ。 決闘というものはな。 それが正しき姿だよ」


 ……なんだ?


 この男、異法使い……で間違いはないはずだ。


 法使い、異法使い、魔術使い。 それぞれの考え方は絶対的に異なっている。 しかし、ひとつだけ共通して思っていることがあるのだ。 それが、自分の能力に対する信念というもの。 法使いならば正しさを信じ、異法使いならば間違いを信じ、魔術使いならば発生を信じる。 ある種の誇りを持ち、三者は存在している。 そしてその誇りがあるからこそ、分かり合えることがない。


 しかし、この男からはそれが感じられない。 自分自身の力、異法に対する信念が感じられないのだ。 ましてや、法使いのような正しさを信じている……だと。


「法使い、刈谷島という名を聞いたことがあるか」


「刈谷島……? 待て、まさか」


 聞いたことのある名だった。 かつて、私たち執行機関の目下の敵であった男の名だ。 異法使いの刈谷島、それはあまりにも有名な名前だ。 つい三年ほど前までは良く聞く名前で、執行機関ほぼ全員で捕獲任務が随時行われていた。 だが、成果は上げられていない。 結果、刈谷島は自然的に消えていった。 ある日、唐突に現れることがなくなったのだ。 そんな刈谷島であるが、唯一、データとして残っているのは。


 巨大なギロチンのような剣を使う……ということ。


「お前はまさか……首切りか」


「懐かしい呼び名だな」


 間違いない……のか。 この男がそうだとするならば、余計に負けるわけにはいかなくなった。 同時に、捕縛する必要性も出たということになる。


「巷では、首切りと死女神と呼ばれていたな」


 首切り、そして死女神。 ということは。


 あの女がその片割れか。 一時期、全地区を震撼させた二人の殺し屋だ。 首切り刈谷島、死女神コクリコ、その二人が請け負うのは殺人依頼のみ。 そして、その依頼は例を見ないほどに特殊だ。


 二人の殺し屋が設定した、請け負う為の条件と報酬について。 この二人の殺し屋は、報酬設定をなしとしたのだ。


 だが、その反面。 請け負う為の条件をひとつだけ決めた。 それこそが、二人が異法使いということを表しているともいえる。


 法使いからの依頼のみ受け付け、同時に法使いに対する殺人依頼のみを受ける。 という、たったひとつの条件だ。


 この条件の所為もあり、地区全体は一時期パニックにも陥った。 誰が誰を依頼し、次に誰が殺されるのか。 そういう不安感、人間不信、それらが蔓延し、精神を病むものさえ現れる始末だったのだ。


「俺の異法は、結局そういうもの向きでしかない。 正々堂々できないのは悔やまれるが、やはり法に対抗するには異法を使うしかないようだ」


 男は言う。 そして、目を瞑り、言った。


「異法――――――――執行」


 次の瞬間、それは消えた。 何もかもが、消し去られた。

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