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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
二章 変革
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第六話

「――――。 ――、――――――」


「分かってるよ」


「――――?」


「分かってるって。 間違えていることなんて」


「……なのに、どうして続けるの?」


「また面白い質問だね。 答えるならこうだよ。 だって、俺は異法使いだから。 お前と同じ異法使いだからさ、お前の願いは俺が必ず果たしてやる」


 その昔、誰かと会った。 俺はまだ幼くて、けれど世界の殆どを理解していて。


 あいつは俺のことを悲しそうに見ていたっけ。 懐かしいな、昔のことは。 本当に、嫌になっちまうくらいに。




「矢斬ッ!」


「っと」


 ミラージュの左腕が俺を捕らえるその瞬間、上から声が響く。 咄嗟に反応し、俺は声とほぼ同時に後ろへと跳んだ。 直後、ミラージュの頭上から刈谷島が攻撃を加える。 ギロチンのような剣、刻歯剣(こくばけん)での一撃だ。 鈍い音が辺りに響き、地面が揺れる。 その威力は地を割るほどのもの。


 法武器と呼ばれる物があるように、異法使いにしか扱えない武器も存在する。 異法武器、それらは限りなく法武器に近い武器。 法武器が回路を宿しているように、異法武器もまた回路を宿している。 しかし、法武器が所持者の回路と繋がるのに反し、異法武器は完全に独立した回路を宿しているんだ。 それはどういう意味か、分かりやすく説明すると、異法武器もまた一人の異法使いということ。 その武器特有の能力を宿し、武器単体である程度の攻撃力を持つことができる。 使用者の回路に依存されない武器、それが異法武器。


 法武器は結局、所持者の法と回路に依存する部分が大きい。 使う者が使えば最大級の威力を持つことができるが、選ばれた者しか使えないのが法武器。 凪が持っていたルーエと呼ばれる法武器も、凪の時間の法を使ったものだしね。 だが、異法武器は完全に別物の異法を持つ。 そして、一定の強さを誰でも扱うことができる。


「油断するとは、お前らしくもないな」


「別に油断していたわけじゃないよ。 ただ、刈谷島さんが手を貸してくれるとは思っていなかっただけだね」


 刈谷島の目の前には、潰れたミラージュ。 文字通り、押し潰されたように地面と一体化している。


 これが、刈谷島の持つ異法武器、刻歯剣の力。 加重と呼ばれる異法だ。 斬り付けた物体の重量を上げる異法。 それこそ、法使いのような能力の武器。 現象を捻じ曲げず、強化している。 誰がどう見ても、それは法使いの力でしかない。


 法使いが扱う法武器は異法のような力を持ち、異法使いが扱う異法武器は法使いのような力を持つ。 なんとも、皮肉なものだよね。


「貴様に死なれては困るだけだ、矢斬。 私とコクリコが貴様を殺すまで、死なれては困る」


「あはは、それだと俺は一生死なないことになるけど。 まぁ、期待してるよ」


 複雑な、俺と刈谷島の関係。 そこにはツツナも絡んでくるし、ひと言で言い表すのは難しい。 俺は根っからの異法使いだけど、コクリコと刈谷島は違うしね。


 彼も彼女も、元々は()使()()なんだ。 それは俺がロクの力によって法使いになるのとはわけが違う。 あいつの力は異法使いに使えば法使いとして偽ることはできるけど、逆は無理だしね。 生まれながらにしての法使い、彼らはそういう存在だ。


「提案致しまス。 矢斬、刈谷島、拠点ヲ変えたほうガ良いかト」


「って言っても、あの戦艦が恐らく俺たちを監視しているんじゃないかな。 上空から監視して、ミラージュに指示を出している。 ああいや、ミラージュの隊長機に……かな」


 空を見上げながら俺は言う。 制空権ってのはやっぱり大事だなぁ。 天上が居ればそれこそ楽なんだけどね。 いくら俺でも、空を飛ぶ異法は持っていないから。 あの浮遊戦艦を落とすのが一番早いんだけど、ここからじゃコクリコの異法も届かない。 何より、バリアがどうしても邪魔になってくる。


「ならばどうする。 それにあのミラージュとやら、一体どういう原理だ?」


「それについては大体分かったよ。 ミラージュには多分、種類がある。 予想だけど三種だね」


「三種?」


 刈谷島の問いに、俺は右手を突き出した。 そして、指を一本伸ばし、言う。


「物理攻撃無効型。 一番最初の機体がそれだ。 俺が撃った拳銃の弾と、水を弾いた原理ってこと。 これはどっちかって言うと法使いの能力に偏らせて作られた機体かな。 超撥水加工をして、法使いの力でそれを限界まで引き上げてるんだ」


「それだけで物理を防ぐと? ふっ」


 鼻で笑う刈谷島。 それを見て、俺は続ける。


「だから偏らせてって言ったじゃん。 当然、魔術も絡んできてる。 またややこしかったけど、それも大体分かったよ」


 魔術使いの力、それは現象を起こすこと。 ミラージュの機体には超撥水加工がしてあり、それを法使いの現象を正しい方向へと進ませる力で高めている。 しかし、それだけでは銃弾のような速度も重さもあるものを弾くなんて不可能に近い。 だが、そこに魔術を加えるとそれが可能になる。


「限りなく小さい面積に、水を発生させている。 空気によって極限まで密度を高めた水をね。 それが攻撃が当たる直前に起こされていて、小さな爆発のように見えるんだ。 その爆発、更に水が発生したことによる撥水効果。 そこから加えて、法使いの現象強化。 膨大な抵抗が生まれるはずだ。 摩擦抵抗もかなり減少させられている。 ないとまではいかないけど、ほぼそれに近い形だね」


「……とても信じられんな、そんな技術は。 あいつらが、貴様らとの戦いを始めたたった一年と少しで作り上げたというのか?」


「まさか。 あいつらはずっと隠れて作り続けてきたんだよ。 俺たち異法使いを完全に消し去るために。 俺たちの出現がそれに大義名分を与えて、研究の速度が上がったってだけの話。 遅かれ早かれ、こうなっていたさ」


「はっ。 法使いらしいな、実に」


 法使いの考えなんて、そんなものだ。 あいつらの頭には如何に自分が上に立ち、俺たち弱者を殺し、優越感を味わうかに全てがある。 くだらないね、そんなのは。 けど、同時に面白いとも思えてしまう。


 本気で、心の底から。 自分たちが強者だと思い込んでいるのなら、これほど笑えることはきっとない。 一体いつから喰らう側だと思い込んでいた? 一体いつから搾り取る側だと思い込んでいた? 世界ってのは結局、食うか食われるかだ。 弱い者は食われて、強い者は食う。 それは否定しないよ。 けどね。


「駒も打ち筋も理解した。 このゲームはもう負けない」


 躊躇した時点で負けだ。 一瞬でも手を抜いた時点で負けだ。 だってそれは弱い者に対してすることで、強い者にすることじゃあないからさ。 本当に強い者ってのは、ただただ他者を蹂躙するだけなんだぜ。




 俺が指示したのは、簡単なこと。 監視をしているのは宙に浮かんでいるあの戦艦と考えて間違いない。 上空からの監視のおかげで、俺たちの位置を正確に割り出している。 そして、多数いるミラージュを動かしている奴はこのバリアの中に居る。 バリア内のどこかから、細かな制御は行っているということだ。


 理由は簡単。 ミラージュの通信機能はおよそX地区の大きさと同程度しか届かない。 もしもそれより広範囲であるのなら、わざわざ見える位置に輸送艦を持ってくる必要がないからだ。 当然、この地区に居る異端者は俺だけということを相手さんも理解しているはず。 その場合、バリア外部からの攻撃も想定しなければいけない。 なのに、目立つ位置にミラージュの輸送艦は存在している。 地区のギリギリ、その位置に。 つまり、そうしなければいけない理由があったということ。


 浮遊戦艦は地区の外だ。 輸送艦は全部で三隻、地区を取り囲むように配置されている。 一番遠いのは俺を基準に考えて、十二時の方角。 対する浮遊戦艦は六時。 距離からして、あの位置では通信は働かない。 となると当然AI制御もできないだろう。


 よって、このバリア内に指示を出している機体が居る。 そいつを突き止めて殺せば、ミラージュは機能しなくなる。 AIは積んでいるだろうから動きはするが、機能しなくなるんだ。 決まった動きしか取れないのならば、最早それは相手にすらならないしね。


 ミラージュの種類も既に割り出している。物理に対する無効化、そして異法に対する無効化。 あとひとつは、魔術に対する無効化ってところかな。 それほどの技術を搭載したミラージュでも、頭を叩けばガラクタだ。


「矢斬、騙してはいないカ?」


「えー、まだ言うのそれ。 騙してないってば……疑い深い人って、自分のことすら疑っちゃうからねぇ。 コクリコも気を付けた方が良いよ」


「了解。 しかシ、貴様ガ言っタ作戦にハ欠点があル」


「詰めのこと? まぁ、そっちは心配要らないかな。 刈谷島さんとコクリコが仕事してくれれば、問題は何一つないさ」


「……」


 刈谷島はその隊長機の元へ行かせた。 場所は分かっていたからね。 そして恐らく、このバリアを張っているのもその機体だ。 半端ではないエネルギー量のバリア、それを使うには相当な装備が必要になってくる。 だとしたら、その機体は俊敏に動けるってことはない。 つまり、バリアを張った地点からは動けない。


 ドーム状に張られたバリア。 もうあとは単純に考えるだけだ。 その中心に行けば、そいつと遭遇することは容易だろう。 見た目では分からないかもしれないが、そいつは居るはず。


「来たよ」


「了解」


 そこまで思考したところで、目の前にミラージュが現れた。 どうやら、俺の出番はもっと後になってきそうかなぁ。


「異法執行ス」


 コクリコは左手をかざし、言葉を放つ。 そして、透明な密度の弾をミラージュ目掛けて撃ち込んだ。


「対象認識。 排除対象」


「対異法みたいだ。 コクリコ」


「面倒ダ」


 その弾はミラージュに当たる寸前、完全に逸らされた。 いくつかは廃墟に辺り、風穴を開ける。 逸らされる際に威力は相当殺されているはずなのに、ありゃまともに食らったら即死だ。 見れば見るほど、異端者に欲しい子だよ。 コクリコの力は何かと便利でもあるし。


「捕まレ。 走るゾ」


「りょーかい。 っていってもそんなに速度出さないでね。 今はほら、法使いで体力ないからさ」


「死んだらそのときはそのときダ」


「そんな死に方、ちょっとやだなぁ……」


 と俺が言うも、コクリコは一切手加減せずに加速する。 俺を背負っているというのに相当な速度で、相変わらず普段から鍛えているのかな。


「あっちはそろそろ当たるころかな。 コクリコ、手筈通りに頼むよ。 この状況を突破するのは容易じゃないからね」


「……」


「ありゃ。 もしかしてなんか怒ってる? 刈谷島さんが一番危ない立ち位置だから?」


 俺の作戦は、ひとつ。 そのためには刈谷島がミラージュの隊長機を引きつけておくのが最重要となってくる。 あの隊長機は恐らく、全てのミラージュの位置を把握し、そしてこの地区内への配備も行っている。 作戦はひとつだが、ミラージュの挙動と地区に張られたバリアを止める方法は二つある。 ひとつは、隊長機の破壊。 統制しているであろう隊長機が倒されれば、アンテナの役割も同時に終わる。 となれば、当然ミラージュ各機の動きも、張られているバリアも解ける。 そしてもうひとつは、あのバリアの遮断性能を上回る攻撃での破壊だ。 後者に関して言えば、異法使いの俺ならば可能。 だが、この中に居てはロクの異法も届かず、同時に俺が異法使いへと切り替えられることもない。


 つまり、俺が仕掛けた作戦はあの隊長機の破壊。 刈谷島がそれに成功するのに賭けてもいるし、そのための誘導が俺とコクリコの役割なのだ。

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