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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
二章 変革
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第五話

「エリザ様、どうやら法使いが動いたようです」


 わたしの元に、ローブを纏った男がやって来て、言った。 頬に魔術刻印を入れた男、そしてわたしに直接謁見できる子。 そんなのは限られていて、ごく僅かしかいない。 この魔術使いの国とも言えるZ地区は、わたしの国だ。 強い者が上に立ち、弱い者は使われる。 そういう分かりやすい仕組みにしたのもわたしで、その殆どを支配したのもまた、わたし。 逆らう者は従わせ、従わない者は滅ぼした。 その良い例がライム率いる反エリザと呼ばれる者たち。 未だに、亡き君主に忠義を誓うお馬鹿さんたちね。


「あらそう。 血気盛んね、法使いたちも。 それよりジェローム、異法使いのワンちゃんの方は? わたしさぁ、早くあの子を連れてきて欲しいんだけど? 前から言ってるよね?」


「それが、どうやら今現在、法使いの襲撃を受けている模様です。 矢斬(やぎり)戌亥(いぬい)が率いている『異端者』は別行動を取っており、当の矢斬戌亥は現在、X地区にて正体不明の二名の異法使いと共に法使いと戦闘を行っております」


「別行動? ふうん……何かありそうね、それは。 それで別行動っていうのは? 具体的に教えて」


 それを敢えて選ぶメリットはなんだろう? それにジェロームが「襲撃を受けている」と言った以上、今現在もそれは進行中ということ。 そこが一番の疑問点かも。 けど、今は一旦置いておこうかな。


「はっ。 残る異端者は全員がB地区へと向かっているとの情報が入ってきております。 どうやら、目的はロイス・アリモンテの殺害かと。 端々しか盗聴することはできませんでしたが、そのような会話が行われておりました」


「ロイスちゃん! うふふ、そっかそっか。 あの子、そんなとこに居るのね」


 ロイス・アリモンテ。 かつて、今目の前に居るジェロームと同じく、わたしと謁見できた数少ない人物だ。 わたしとしてもそれなりに、小指の先ほどには信用していたんだけど、裏切ってくれた子。 俗に言うライムが起こした反乱に乗じて、あろうことかわたしの側近を三名殺害し、逃げていった。 躾を失敗してしまった良い例かな。


「可哀想にねぇ、法使いの手先になっちゃうなんて。 あんな能なしたちのどこが良いんだろ?」


「……失礼ながら、私には分かり兼ねますね。 裏切り者の考えも、私たち魔術使いを偏見の目で見る法使いの考えも」


「でしょうね。 良かったわね、ジェローム。 今もしも適当な考えで物を言っていたら殺しちゃってたわ。 うふふ、命拾いーよかったね」


 わたしとしてもそれは良かったかも。 だって、ジェロームはそれなりに使える子だからね。 少なくとも、今現在わたし側の魔術使いとしては、五本指に入るくらいかな。


 とは言っても、考えが行き違ったらそこまでのこと。 わたしにとって必要なのは、わたしと完全に思考もやり方も気持ちも、全てが同じ子だけだから。 その点で言えば、きっとあのワンちゃんはわたしと近い位置にある。 異法使いの中でもずば抜けた能力に、知性もある。 ああ、考えたら考えるほどペットにしたくなってきちゃう。


「ねぇジェローム。 わたしね、とーってもワンちゃんが欲しいの。 あなたや他の魔術使いみたいな中途半端なペットじゃなくて、もっと有能なワンちゃんが。 だから、どうすれば良いと思う?」


「……私が、エリザ様の立場だったら、ということですか?」


「うん、そうそう。 あなただったらこの場面、どうする?」


「私でしたら……そうですね」


 ジェロームはそこで少々考え込んだ。 あと数秒、黙っていたら殺してしまおう。 (しらず)ちゃんにご飯もあげないといけないからね。 あの子もそろそろお腹を空かせている頃だろうし。


「B地区へ行き、まずはロイスの殺害かと」


「……へぇ。 わたしがわざわざ、法使いが暮らしている地区の汚い空気を吸ってまで?」


 座っていた王座から降り、わたしは跪くジェロームのことを見下ろす。 ジェロームは平静を装っているように見えたけど、僅かに動揺したのが見て伺えた。 そうそう、そういうこと。 わたしが動くということは、そういうことでしょ。 身を持って知ればいい。


「……お言葉ですがエリザ様、エリザ様が捕獲対象としている矢斬戌亥ですが、正直なところ私たちでは不可能と思われます。 もちろん、エリザ様が直々にとなれば話は変わってきますが……私たちだけの力では不可能です。 となれば、手法を変えるというのも一興かと」


「手法をねぇ。 それはつまり、わたしがワンちゃんにとって有益になることをすれば良いってことなのかな? わたしが、ワンちゃんの為になることをすれば良いってことなのかな? それこそ、ペットみたいに」


「仰る通りです。 さすれば、矢斬戌亥もエリザ様に対しての考えを変える可能性もあります。 そちらの方が、エリザ様にとっても楽にことが進むのではないでしょうか?」


「なるほど、ね!」


 わたしは言って、ジェロームの頭を踏みつけた。 ジェロームは抵抗することなく、その顔を床へと押し付けられることを受け入れる。 どうやら、こっちのペットは躾の効果が中々出ているかもしれない。


「わたしに動けと、あなたはそう言うのね? わたしに尻尾を振れと」


「……はい、その通りです」


「うふふ」


 ああ、なんて面白くて愉快なんだろう。 これほどまでに馬鹿にされたことはきっとない。 要するにジェロームはわたしに対して「いつまでも城に引き篭もっているな」と言っているのだ。 言葉は違えど、それと同義だ。 笑えてきてしまう。 わたしに対してそう言えるのは、この子だけかもしれない。


「うふふ、ふふ! 最っ高ね! 最高の答えよ、ジェローム。 だからこれはそのご褒美、わたしに踏まれるのは光栄でしょう?」


「はっ。 光栄でございます」


「良い子。 大好きよ」


 言って、わたしは足を退けた。


 まさに、ジェロームの言う通りだ。 あのワンちゃんを捕らえろとは言っても、結局今の今まで失敗続きで成功した試しがない。 向かわせた魔術使いは帰って来ないか、手ぶらで帰ってくるかの二通り。 前者は恐らく殺されて、後者はわたしが不ちゃんの晩御飯にしてきた。 なら、もうどうするかなんて分かりきったことじゃないの。 この魔術使いたちはゴミ同然、いくら強いと言われる者でも、わたしからすればただのゴミにしか見えやしない。 だったら、わたしが動けば良いという単純明快な答えというわけ。


「ジェローム、城を出る準備をしなさい。 B地区へ行くわよ。 それと、クラレディとギルにも同じことを伝えておきなさい。 ああ、それと……不ちゃんも連れて行こうかしら」


「畏まりました。 エリザ様、すぐにお召し物をご用意致します」


「いいわよそんなの。 だって、うふふ。 今から殺しに行くのよ? 沢山殺すかもしれないのにオシャレなんて馬鹿みたいじゃない。 簡単なローブで良いわ」


 わたしは口元を押さえて笑う。 たまにこういう面白いことを言うから、ジェロームのことは気に入っているのよね。


「はっ!」


 ああ、楽しくなってきちゃった。 もっと早く動いていれば良かったかなぁ? まぁでも結果としては同じことになってたんじゃないかな。 どのみち、実力行使でいくにしても取り入るにしても、魔術使いを取り仕切るわたしが動かなければならなかったしね。 けど、法使いの生活地区かぁ……病気にならなければいいけど。


 B地区へ行っているのは、あのワンちゃんのお仲間さんたち。 その子たちにはあまり興味はないけど、顔くらいは見ておいても良いかな。 もしも邪魔になるようなら、殺してしまっても構わないし。 あくまでもわたしが欲しいのはワンちゃん本人であって、そのお仲間さんたちじゃないしね。


 当然、ロイスちゃんは見つけ次第殺してしまおう。 その場で殺すのも勿体ないから、お城へ持ち帰って遊んでから。 楽しみ楽しみ。 興奮してきちゃう。 人をいたぶるのって、どうしてこうも楽しいんだろう?


「何年振りかしら、法使いの地区へ行くのは」


 長く、巨大な城内を歩き、わたしは一人で呟く。 この城内には人は殆どいない。 入れるのはわたしが許可した僅かな人数だけで、それすらも用事がなければ立ち入ることは許していない。 そんな誰一人としていない城に住むわたしは、この生活にはそれなりに満足はしていた。


 この城から見える景色は、中々に美しいもの。 見下ろせば雪化粧が施された城下町があり、そこで多くの魔術使いは暮らしている。 賑やかな様子はこの城まで届きそうで、それでも決して届かない。 あの魔術使いたちも、わたしが死ねと命じれば死ぬしかない。 わたしはそんな絶対の力を持っている。 絶望を与える魔女と呼ばれた、わたしには。 北部地方にあるZ地区は、一年中雪に覆われている。 最初は寒かったけど、今となってはそんな寒さも感じない。 だって、うふふ、魔術使いの中でもっとも強いわたしが寒さに負けるなんて、心底馬鹿らしいと思わない?


 こんなわたしでも、元は法使いの地区で暮らしていたんだ。 全員があの生活区域で生まれ、そして別々の道を進んで行った。 法使い、異法使い、そしてわたしたち魔術使い。 元々同じ人間で、元々同じ仲間だった人たち。 それらの目的は異なっているのよね。 むしろそこから、ズレていってると言っちゃって良いかも。


 法使いは、異法使いと魔術使いの排除が念頭にある。 そして異法使いは、法使いの排除が念頭にある。


 なら、わたしたちはなんだろう? うーん、そうね。


 わたしたちの目的は、支配すること。 法使いも異法使いも、全員わたしのペットにすること。 そうすれば、わたしはきっと満足する。 今のこの物足りない毎日、退屈な毎日から解放されるのが、わたしの望みだ。 そしてわたしの望みこそ、魔術使い側の望みといえる。 支配しているのはわたしなんだから、わたしの意思を尊重するのは当たり前でしょう?


「……んー、影で笑う子も気になるわね」


 そこまで考えたところで、その答えに行き着いた。 そもそも、あのワンちゃんが異法を使えない状態で法使いの強者と対峙するような真似をするだろうか? いくら助っ人がいたとしても、少し妙な話だとわたしは思う。


 聞けばどうやら、その手際はまるで予測をしていたかのようだったとの話。 予測を出来た、つまり分かっていた。 何を? 決まっている、ワンちゃんの動きをだ。 なるほど、少し見えてきたかも。


「あの子、まーた妙なことをしているのね。 うふふ、しっかり殺しておくべきだったかな」


 わたしが数年前、会った子。 世間は知らない存在で、その姿を見たのはごく僅かな人間だろう。


 法者……そう呼ばれるその人物を。 そして同時に、わたしが生まれてたった一度だけ、少しの恐怖を感じた子。




「エリザ様、準備が整いました」


「おっけー。 それじゃあ行きましょうか。 不ちゃぁん、調子はどーう?」


 城門の前に立ち、わたしは揃った魔術使いたちに言う。 そして、最後に不ちゃんの方へと顔を向けた。 あらあら、少し痩せちゃったかしら。


「良好で……うっ!」


「嘘は良くないわね、うふふ」


 わたしは嘘が大っ嫌いなの。 だから、串刺し。 不ちゃんの周りに出した剣は、すぐさま不ちゃんの体を貫いた。 一本二本三本四本、丁度両手と両足に。


「良かったわね、不ちゃん。 不死のおかげであなたは死なない。 けど、次に嘘を吐いたら本当に殺しちゃうかも。 気を付けましょうね?」


「……はい」


 また随分と暗くなっちゃって。 一体何がそうさせたのかしら? わたしは毎日毎日、優しくしてあげてるのに。 わたしは元気な不ちゃんが好きなのになぁ。 ああ、うふふふ。 かわいそう。 でも、この子の心はまだ生きている。 だから、わたしはまだ遊んであげる。


「エリザ様、時間があまりありません。 急がねば、異端者共に先を行かれるかと」


「ん、そうね。 行きましょうか」


 ついつい、玩具とペットで遊んでしまう悪い癖は直さないと。 けど、楽しければそれで良いとも思えちゃうのよね。 だからこそ、あのワンちゃんがどうしようもないほど欲しいんだけど。


 あの子なら、わたしを思いっきり楽しませてくれるから。 あの子なら、わたしのことも分かってくれそうな気がするから。 だって、ほら……あの子は。


「魔術執行」


 ジェロームが言い、巨大な門に手をかざす。 すると、巨大な門はゆっくりと開き始めた。


 わたしが言いつけておいた魔術結界、それを解くことができるのもまた少数の魔術使い。 Z地区を覆うほどの結界はジェローム、クラレディ、ギルの三人がかりでようやくかけられるほど。 わたしのお気に入りのペットたち。


「不ちゃん、良く見ておきなさい。 あなたのような落ちこぼれじゃなくて、これがちゃんとした魔術使いの在り方よ。 でもあなたは可愛いから、わたしがもっと可愛がってあげたいから、特別に今回の外遊に突き合わせてあげてるの。 分かってる?」


「はい、エリザ様。 有難きお言葉です」


「うふふ、素直でよろしい」


 今度の言葉は、心からのものだった。 だからわたしは満足して、笑う。 わたしが笑えば、それを見た人は幸せになる。 そういう決まりで、そういうルール。 もしも破ったら、死んで償ってもらう。


「開いたわね。 ここからならB地区は近いから、丁度B地区で異端者と鉢合わせするように行きましょうか」


「はっ!」


 ああ、そういえば思い出したことがひとつ。


 不ちゃんが法使いの地区へ赴いたとき、わたしが付けておいた使い魔が面白いことを言っていたっけ。


「うふふ」


 いけないいけない、これは内緒のお話。 不ちゃんが仲良くなったっていう法使い、名前は確か……数多(あまた)と言ったかしら。


 そのときの罰、そういえばまだしていなかったっけ。 なら、こうしよう。 その法使いは見つけ次第、処刑ということで。

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