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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
一章 終世
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第四話

 アタシは駒。 それは分かってて、だからアタシはポチさんの言う通りにしか動かない。 あ、いや、あともう一人、アタシの妹である(りん)の言うことは聞くことにしている。 そりゃもう、超絶可愛いアタシの妹ちゃんだしね。 マジで可愛いよ? ビビるよ?


(りん)、霧生さんたちと天上さんは始めたみたい」


「おうおうおう、分かってるって倫ちゃん。 んだったら、アタシたちもおっ始めようか! 人殺し!」


「……元気良いね。 そんなに嬉しいの?」


「そりゃーそうでしょ! だってこんなの久し振りじゃん? てか初めてじゃん? みんなでの作戦ってさぁー、こうなんていうか、ここに来るものがあんだよ!」


 言い、アタシは自身の胸に拳を当てる。 そうだそうだ、なんかこう、ワクワク? みたいなね。 そんな感じが超するんだ。 ワクワクドキドキってやつ。 もう恋だね、これは恋! アタシの初恋!


「そう。 けど、油断はしないでね。 中には強いのもいるかもしれないから」


「とーぜん! アタシはいつだって超本気! マジでね、超本気。 本気って書いてマジだから、マジで超本気(マジ)


「なら良いけど」


 アタシとその妹、倫が現在いるのは校舎の二階だ。 一階の裏口から入ってきたアタシたちともう一人だったけど、そのもう一人はいつの間にかどっかに行ってしまった。 たぶん、アタシが走ったせいかもしれない。 けどまぁ、大丈夫でしょ。 たぶんね。


 しっかし、人が居ない居ない。 どうやら最初の天上さんの攻撃で、ある程度危険を察知した奴らは逃げてしまったようだ。 アタシと倫は基本的にタイマン向けだから、大多数で逃げてる奴らを攻撃するのには不向きなんだよね。 まぁ、それも別に天上さん並に戦闘狂ではないし、良いんだけどさ。 そんなことよりほらアレだ。 こういう作戦! っていうのが嬉しいんだよアタシは。 ポチさんが取り仕切って大きいことをするなんて初めてでさ! そりゃ小さい指示はたまーにあったけど、基本的には自由な組織だしね。 まぁそれは今でもそうなんだけど。 今日だってほら、サボりが一名居るし。


「教員、生徒は合わせて八百。 結構でかい校舎だから、逃げ口もたくさんあるのかもね。 まだ中に結構いると思うけど……上かな。 もっと」


「八百もいんの!? うっひゃあ……アタシが言ってた学校とか百もいなかったよ?」


「だって、それは異法使いのだから。 規模が違うんだよ、わたしたちと法使いは」


「うーん、良く分からないけどなるほどね。 とりあえずあれっしょ? 上にまだ居るってことっしょ?」


「そういうこと」


「おっけい! んじゃあ上へ! ほら行くよ倫!」


「またそうやって走るんだから……」


 だって、だってだよ? つっよい奴が居るかもなんて聞いたら、興奮するに決まってるじゃんか。 アタシが知ってる強い奴は結構いるけど、それも全部仲間側だしね。 ツツナさんに、ロクでしょ? それで霧生さんに天上さんにルイザさんに……うん、とりあえずアタシの仲間は全部強い! で、ポチさんはヤバイ! そういうこと! アタシも一応ポチさんとタイマンは張ったことがあるし、倫と協力して挑んだこともあった。 でも、負けちまったんだよなぁ。


「鈴、止まって」


「ん……っと。 おいおいなんだよ倫。 このままがばーって上に行っておっしゃーって殺るところじゃねーの?」


「敵」


 倫の言葉に、アタシは再度視線を前へと向けた。 すると、そこには一人の男が立っていた。 ありゃ、さっきまで居なかったはずなんだけど、どういうこった?


「ここの生徒じゃないな、君たち。 異法使いか?」


「おう、そうだけどあんたは? って聞く必要ねーかこれ」


 アタシは笑って、拳を構える。 立ちはだかるということはイコール敵だ。 上へ通じる階段を塞ぐように、その男は立っている。 倫曰く、この校舎は不思議な構造らしい。 階段の設置場所が全て違うのだ。 一箇所にあるのは一層分だけ上がる階段のみ。 そしてもう一箇所にあるのは一層分下がる階段のみ。 ひとつの階段は上りきったら降りられない。 ひとつの階段は降りたら上れない。 そういう風に法の力によって、進むことしかできないという。 そういう、特殊な法が使われ、特殊な構造になっているとのこと。 これは倫の推察だけど、恐らくは有事の際に対応しやすくするためらしい。 その有事ってのが自然災害とかではなく、人的な災害ってのは言うまでもないことだろうけど。 そして対応ってのが、避難のしやすさではなく、撃退のしやすさを優先しているんだ。


 その場合、不利になるのは侵入者側。 事実、アタシたちは見事に仲間とはぐれちまったし……ああそれはアタシが走ったせいか? まぁでも結果的にこうして待ち伏せされたのだとしたら、やっぱり不利なのはアタシたちってことなんだろうさ。


「私は法使いだよ。 この学校の、教師をやっている者だ。 君たちは、敵と認識しても良いのかね」


 三十代、くらいかな? ツツナさんよりも上っぽいし、そんなところだろう。 そんで、教師をやってるってことはつえーはず! よっし、良いじゃん良いじゃん。 なんだか更に楽しくなってきちゃった。


「もっちろん! アタシは鈴、でこっちは倫だ。 ああ、名前同じだったっけそういや。 んーそうだなぁ……あ! アタシはスズのリンで、こっちは不倫のリン! おっけぇ?」


「その例えやめて。 怒るよ」


「あはは! 悪い悪い!」


 だって、他に良いたとえがないんだから仕方なくね? 文句を言うならアタシじゃなく、名前を付けた親を恨め! ってね。 とりあえずアタシに対してのはとばっちりじゃん?


「私は赤城。 下は、良いか。 元気の良い子と、頭が良さそうな子だ。 私の教え子ならと思うと勿体ない」


「赤城? んー」


 その名前に少し覚えがあり、アタシは頭を捻る。 すると、すぐ後ろで倫が呟いた。


「赤城風夜(ふうや)という生徒会長さんが確かいたはず。 その人の父親かな」


「よくご存知で」


 雰囲気が、変わったか? おお、なんだ。 ポチさんめ、この学校では凪って奴が一番強いとか言っておきながら、こっちの方が強そうじゃね? 情報集めきれなかったのかなぁ? ま、あんま時間もなかったみたいだし仕方ないっちゃ仕方ないか。 その程度の誤差、問題じゃないしね。


「話は終わり? んじゃ、まずは挨拶! 異法執行ッ!」


 アタシは言い、踏み込む。 拳を構え、一瞬の動作で男との距離を詰めた。 そして、そのまま男に拳を放つ。 腰を落とし、正確に体の中心を撃ち抜く。 狙うは腹部、当たれば終わり。


「ん」


 男はその拳を防ごうとし、寸前で回避に切り替えた。 その咄嗟の反応にも驚きだけど、何より避けたのは正解だね。


 拳はそのまま、壁へと命中する。 そして、壁が破壊される。 文字通り、バラバラに。


「……殴った物を破壊する異法、かな? 当たったら痛そうだ」


「あはは! 一発目でバレたらつまんねーじゃん! まーだからなんだって話なんだけどさ」


 正確に言えば少し違うらしいけど。 倫とかポチさんが言うには、殴り付けた物を分子レベルで崩壊させる異法……とのこと。 まぁでも難しい話なんて分からないし、ぶん殴れば壊れるって認識をアタシはしているわけだ。 てか、それで良くねって思うし。 分子とか良く分からないんだって。


「鈴、後ろへ三歩」


「おう」


 戦闘時、基本的に倫はアタシの背中に掴まって隠れている。 ペアでの行動はもう慣れたもので、倫の方もそうだろう。 アタシが戦い、倫が指揮を取る。 それが一番やりやすく、アタシたちのベストでもある。 何より、倫の異法はこういうときに最大の力を発揮するんだしね。


 そして、アタシは倫の言葉通りに三歩後ろへ。 直後、上空から()が落ちてきた。 その紙は氷柱のような形状を取っており、床へと突き刺さる。


 ……法、かな。 まぁ法だろうな。 でもなんの法だろう? 紙に対する法だから……切れ味とか、そんなところ?


「鈴、男の横を抜けて廊下に出て。 ここは場所がちょっと悪いから」


「うっひぃ……みたいだね」


 倫の言葉に、上を見上げる。 そこにあったのは、無数の紙細工だ。 先ほどの氷柱の形状から、鳥の形や犬の形、そんな紙細工が無数にある。 そして、今にもそれは動き出しそうだ。 否、動き出した。


「しっかり捕まっとけよ、倫」


「うん」


 倫に一声かけ、アタシは再度地面を蹴る。 すると、その次の瞬間にはアタシが通ろうとした道に紙が落ちてきた。 氷柱の紙細工は地面へと突き刺さり、犬の形の紙細工はアタシたちを追ってくる。 鳥の紙細工はアタシたちを貫こうと。 へぇ……面白い法だ。


「下には降りられない。 もう、壁は作ったんだ」


 男を躱し、廊下へと飛び出た。 その前方にはいつの間に作ったのか、紙の壁。 そして後ろには、男が居る。 逃げることはできないってわけね。 逃げるつもりもないんだけどさ。


「氷柱は落ちて、犬は襲って、鳥は飛び、壁は立ちはだかる。 あなたの法はそんなところ」


 背中に捕まる倫は言う。 倫はもう、敵の法に気付いたみたい。


「……優秀な子だ。 私の法はその通り。 命を与える法だ。 その命は、物事の常識に沿って強化され行われる。 君が今、言ったようにね」


「分が悪そう」


 無論、アタシたちの。 一発殴れればそれでもう勝ちは決まるが、それまでが問題ってことだ。 ぶっちゃけ、アタシは異法使いとしての力はそこまでない。 アタシの異法より強い法や異法をぶつけられたら、ぶち壊すことはできないんだ。 たとえば、アタシの異法であの紙の壁を殴ったところで、ダメージは与えられても一発で破壊するのは無理だろうね。 能力使いとしての力は、あっちのが上だから。


「大人しく捕まれば、命までは取らない。 機関が君たちをどうするかは、知らないがね」


「悪いなおっさん、生憎アタシは不自由が嫌いなんだ。 だから、捕まる気は毛頭ない。 へへ、だから」


 アタシは、異法使いだ。 倫も、異法使いだ。 何を正しいと思うかなんて、そんなのは自分で決めることだ。 少なくとも、アタシは法律とか正義とか正しいことに興味はねぇ。 そりゃ、正面からぶん殴って壊していくのが一番分かりやすいんだけどな。


 そこが、きっと違いなんだとも思う。 いいや、元々は一緒か。 一緒だけど、異なっていったんだ。


「倫、右の教室。 殴って」


「了解っと!」


 アタシは言われた通り、右手にあった教室のドアをぶん殴る。 すると、派手な音と共にドアは破壊された。 そして。


「い、いやぁああああああ!!」


 ああ、そういうことか。 倫の狙い、分かっちゃった。 つくづく思うけど、ほんっと、性格悪い妹だなぁ。


「君は……廊下へ出るなッ! 中に入れ!!」


 一人、残ってたんだ。 この教室に、生徒が。 そして生徒は怯えて、足をもつれさせながらもう一つあった扉から廊下へと飛び出ていく。 丁度、アタシと教師に挟まれるように。


「行くぜ」


 構え、地を蹴る。 ここまで来たら、狙いは聞かなくてもアタシにだって分かる。 生徒を殺そう。 迷うことなんて何もねえ。 方法、手段はどんなのでも良い。 一番大事なのは結果なんだよ。


「ッ!」


 視界に捉えた、アタシの拳の射程圏内に入った。 逃げる生徒は、アタシに気付いていない。 ただただ前を見て、逃げている。


 背中から攻撃するのは趣味じゃないけど、嫌いではない。 アタシが求めるのは勝ちだけで、負けには生憎興味はない。 必要だったら、手段は選ばない。


「馬鹿が」


 そして、生徒とアタシの間に男は立ちはだかった。 法を使う暇はなかったのか、それすら倫は理解して、この手を選んだんだろうな。 せめてこの生徒を見捨てれば、あんたは死ぬことなかったってのに。


「じゃあな、楽しかったよ」


 アタシは躊躇せず、男に右拳を叩き込む。 直後、男の体は破壊された。 血が飛び散り、アタシと倫を赤く染め上げる。 そのまま、アタシは更に一歩踏み込み、左拳を振り抜いた。 男が助けようとした生徒は、無残にも死んだ。


 一瞬で、人が死ぬ。 それがアタシの持った力で、だからアタシはそれを迷うことなく使う。 全部はきっと、ポチさんのためってことになるんだろうよ。


「十二時三十八分。 うん、ピッタリだね。 コンマでピッタリ」


「ねえ倫、その終わったあとに時間確かめるのやめてくんない? なんかこうさー、爽快感っていうか、達成感的なあれ? なくなっちまうんだって」


「わたしは予定通りっていう達成感があるけど」


「アタシはないの! なんかもうなるべくしてなったみたいじゃん!」


「……違うの?」


「……あーもう良い! 良い良い! ちゃっちゃ上へ行くぞ!」


 あの男は、アタシよりも多分強かった。 倫とアタシで正面から今みたいにやれば、それこそ同じくらいにはなってたかもしれないけどね。


 でも、違いはあったんだ。 人を殺したことがあるかないかの、違いが。 たったそれだけで、あの男は死んだ。


「っし」


 アタシは既に何か分からなくなってしまった二つのモノに手を合わせ、上へと向かっていく。 せめてもの礼儀、あんたは強かったよ。 けど、アタシのが強かった。 そんだけだ。

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