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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
一章 終世
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第二話

「はいはいお前らちゅうもーく。 一応作戦会議なんだからよー、ちゃんと聞いてくれねえと困るんだよ」


 横で僕らのボスは言った。 今はお面を付けている。 どこかの祭りで買ったのか、どうにもこうにも子供っぽいお面だ。 耳は猫のようで、顔部分は犬。 そんな不安定なお面は、僕らの立場を表しているかのようにも見える。 そしてそんな不安定なお面を付けながらポチさんが向いている方向には、数人の仲間たち。 全員が異法使いで、全員が一度ポチさんにやられている。 そんなことを言う僕だって、やられている。 ここだけの話、僕らのボスであるポチさんは半端なく強い。 一度正面からやったときは、手も足も出なかった。


「ルイザ、お前は霧生(きりゅう)と行動しろ。 今は一連の騒動の所為で戦力が執行機関の各支部と本部に傾いている。 まぁ騒動自体は俺らの仕業だし、目的は戦力の傾けだし、うまく行ってるってことだな」


 ポチさんがこの「異端者」という組織を作ったのは、三年くらい前になる。 立ち上げた当初に居たのは、僕ともう一人だけ。 それが今ではかなりの規模の組織になれた。 それも全て、ポチさんのおかげなんだ。 僕たちにとってなくてはならない存在、ということになるね。


「んじゃ概要いくぞー。 天上(あまうえ)が上空から攻めんのに合わせて霧生グループは乗り込め。 人員はそっちに大半を割くから、しくじるんじゃねーぞ」


「はい」


「りょーかいりょーかい」


「上からねぇ……殺せんのかね、法使いのゴミどもを」


 最初に返事をしたのはルイザさん。 金髪ツインテールといういかにもなキャラを前面に出しているが、それが似合う性格を持った人である。 僕は結構慕ってて、年齢の所為もあってお姉さんって感じの女の人。 法使いが僕らに付けているランクで表すと、五位。 強いっちゃ強い感じ。 僕よりは弱いけどね。


 そして、軽い感じで答えたチャラい雰囲気の男が刀手と呼ばれているらしい、ランク四位の男、霧生さん。 最後に返事をしたのが、サディスト面が大いにある天上さん。 ランクは六位、空中からの偵察もできるから、欠かせない存在だ。


「天上は適当にカラス撒いておけば良いだろ? それとも嫌? だったら違うやり方にすっけど」


「ん、あーいや、別に良いわ。 言われた通りにすっからさ。 ただまぁ、カラスだと殺した手応えがねえから」


「そうか。 けど屋上にも人はいるだろうから、しっかり殺せると思うけどね。 ま、もし嫌だったら始める前に言ってくれよ」


 ポチさんの言葉に、天上さんは「おう」と返事をする。 基本的に突っ走る天上さんであるけど、ポチさんの言葉には特に反論もしない。 昔、義理があると天上さんは言っていたっけ。 きっと、それがポチさんとの繋がりになっているんだろう。


「ポチさん、僕は?」


 いつまでも名前を呼ばれず、ついに僕は自分から切り出した。 ポチ、というのはボスの愛称みたいなものだ。 僕がボスのお面を見て付けた名前だったけど、最初は「ペットみてえな名前だな」と反対されたっけ。 けど、ポチさんもポチさんで僕のことをぞんざいな言い方をしてくるから仕返しとして言っている。


「ロクか。 ロクは……能力が戦闘向きじゃねーからなぁ。 一辺倒ってのはあまり良い戦い方じゃないんだよ」


 ロク。 それが、僕の名前。 さっきはぞんざいな言い方と言ったけど、案外気に入っている。 ポチさんがそう呼んでくれるまで、僕は「それ」とか「あれ」とかしか言われたことがなかったから。 もちろん、そんな呼び方をした奴は全員殺した。 殺して、殺して、殺してきた。


「ああ、それならツツナ。 お前が付いて上から行け。 屋上は天上が抑えるから、四階くらいで良いか」


 地図を広げ、全五階の中の四階をポチさんは指差した。 それに反応したのは、ツツナと呼ばれた男の人。


「……了解。 ロク、それで良いか?」


 ツツナさんは、僕の方を見て言う。 ここでは、意識されないなんてことはない。 しっかりと僕の居場所があり、僕の存在意味がある。 それが嬉しいんだ。


「もちろん。 ツツナさんが付いてくれるなら、これ以上嬉しいことはないからね」


 ツツナさんは、異端者の中ではポチさんの次に強い。 僕の能力はアレだからアレとして、戦闘向きの霧生さんでも太刀打ちできないほどには強い。 そして、ツツナさんが太刀打ちできないのがポチさんということ。


「んで、後はまぁ適当にな。 ある程度殺って、したら機関から人員が割かれるだろうよ。 そうしたら俺が合図を出すから、全員俺のとこに集まれ。 主に天上に言ってるからなぁこれ」


「分かってますよって。 俺ぁ基本的に言うことは聞かないタイプだけど、ポチさんの命令は絶対って体で動いてるんでね」


「命令って言い方をすんじゃねーよ。 俺はお前らに協力してもらってんだ、んでそれに上も下もねー。 取り仕切るのに俺が一番向いてたってだけで、この中に俺以上に向いてる奴がいりゃそいつに任す。 ずっと言ってるだろ、これ」


 ……もう、何度も聞いたセリフ。 だから僕はポチさんが好きだ。 この中に居る誰一人として差別することなく、対等に接してくれる。 同時に、それが少し悲しかったりもするんだけど。


「おいロク、お前またなんか考えてんだろ。 そういうの全部分かるんだから、めんどくせーことは考えんな。 言っとくが、お前の能力は普通と違う。 だからこそ必要なんだよ、俺にとってな。 異法中の異法だ、お前のソレは」


「……ふふ。 うんうん、分かってるよ。 ありがとう、ポチさん」


 必要なときに必要なことを言ってくれ、そして僕を必要としてくれる。 ああ、いつかこの人と結ばれたいものだと、小さな体と小さな乙女心で想ったり、思わなかったり。 ともあれ、今は三日後の任務に集中しなきゃかなぁ。


「あーそれとさ、ロク。 お前法使いの中じゃ「狐女」とか言われてるらしいよ。 その面も変えた方が良いんじゃない?」


「良いの良いの、このお面はポチさんがくれた物だから。 これがなきゃ生きられないよ」


「……大袈裟だなぁ。 まとりあえず俺はそろそろ戻るから、いつもの頼む」


 ポチさんの言葉に、僕はポチさんの前へと立つ。 そして手を出し、その言葉を放つ。


「異法執行」


 その言葉こそ、僕らが異法という能力を使うときに放つ言葉だ。 異法は異なり、異常で、異質で、異端。 それがどうやら法使いの中では常套句らしいけど、僕もそれには同意だね。 だって、本当にひっくり返してしまうのだから。 何もかも、常識を全て覆してしまうから。


 彼らは知らない、僕たちの力を。 彼らは知らない、僕たちが何をするのかも。 彼らは知らない、何が紛れているのかも。


 さぁ、面白くなってきた。




「天上はうまくやっているようだな」


「そうだね、ツツナさん。 けど、ここを攻めてポチさんは何をしたいんだろう?」


 校舎の最上階からひとつ下の階、そこに僕とツツナさんは居た。 上が少し騒がしいことを考えるに、丁度天上さんが始めたくらいだろう。 つい数十秒前には、下で爆発音も聞こえてきたことだし、作戦はどうやら順調だ。 僕たちも僕たちで頑張らないと。


「……それすら分かっていないのか。 ポチは力の誇示をする。 俺たちの存在というのを世間へ知らせるために、今回のこれだ」


「世間へ? ふうん、でもそれって逆に追い込まれないかなぁ」


「……さぁな。 あいつの考えることは俺ですら分からん」


 廊下を歩き、僕とツツナさんは会話をする。 授業中? なのか分からないが、辺りは静まり返っている。 物音はせず、廊下には冷たい風が吹いていた。


 しかし、まずそれがおかしかった。 授業をしていたのなら、違和感しかない。 だって、授業をしていてあんな大きな音が聞こえたら、誰だって変に思う。 それに校舎自体が揺れたというのに、ここまで静まり返っているのは。


「法執行……!」


 横の扉が開き、声が聞こえた。 直後、何かが投げ付けられる。


「……ほう」


 ツツナさんが顔をそちらへ向け、声を漏らした。 同時くらいに僕も視線を向けると、そこには丁度指の長さほどの物体が飛んで来ている。


 あれは、ライター? 重さを足している……わけではないか。 普通の軽さのように飛んで来ているし。 ということは、なるほど。


「物騒だね、学校も」


 言い、僕は後ろへ飛んだ。 片足で地面を蹴り、前に向いていた体重をすぐさま後ろへ。 このくらいなら、異法でなくともどうにかなる。


 直後、そのライターは壁へと衝突する。 そして起きるのは、爆発だ。


 軽い小型爆弾並みの威力。 ライターは割れたとき、本当に小さく爆発している。 その火力を引き上げたというところかな。 直撃してたら大怪我だというのに、躊躇いがまったくないね。 どうやら殺すつもりでかかられているらしい。


「ツツナさーん、大丈夫ー?」


 煙の中に向け、僕は言う。 するとすぐに反応があった。


「わざわざ聞くな。 しかし、分断されたな」


 ツツナさんの言う通り、僕は後ろへ、ツツナさんは前だ。 その間には煙があり、崩れた壁が山となってしまっている。 それに横からの攻撃を考えると突っ込むのは危ないだろう。 この学校にいるのは雑魚ばかりだけど、中にはヤバイのも居るってポチさんは言っていたしね。 警戒するのに越したことはないってわけ。 僕もツツナさんも、かすり傷すら負うことはないだろうけどさ。


 さて。


「どんな奴かと思えばガキか。 お前、襲って来たってことは分かってるんだろうな」


 白の制服、生徒だ。 この四階にいるということは、最高学年かな。 それで、腕には生徒会という文字が入った腕章をしている。


 あー、ポチさんが言っていた奴らか。 生徒会の人たち。 結構な実力がある人しか入れないとかいう。


「こんにちは。 実はね、学校見学なんだけど迷子になっちゃって」


「そうかいそうかい。 そりゃ災難だったな。 災難ついでに殺してやるよ、異法使い……狐女」


「あれ、なーんだ、知ってたんだ」


 うーん……この感じ、めんどうだなぁ。 僕は戦いには不向きだというのに、早くツツナさん来てくれないかな。 てか、僕ってわりと有名になっちゃってるのかなぁ。 こんな普通の学生すら知ってるなんて。 どっちにしろ、ツツナさんが戻れば終わることだけどさ。


 が、そんな思いもむなしく、今だに上がっている煙の奥から声が聞こえてくる。


「ロク、別行動だ。 俺にもやることができた」


「……はぁー。 しっかり守ってくれなかったって、ポチさんに言いつけちゃうからね」


「問題ない。 こっちは、面白い相手だ」


 ……おお? ツツナさんが珍しいことを言ったね。 楽しそうな声は久し振りに聞いた気がする。 ツツナさんが面白いって言うほどの相手……誰だろう?


 ……あー、もしかしてあれかな。 ポチさんが言っていた一番強い奴。 名前は、なんだっけ? 確か、確か。


 (なぎ)。 と言ったっけ。


「余所見とは良い度胸だなガキ!」


「してないよ。 もーほんとになんでそんな殺気立つかなぁ。 ほら、そうなるとさ、そうなると――――――――僕も殺したくなっちゃうよ」


 飛んできたナイフを避け、僕は言う。


 うん、良い速度だ。 能力の強さも申し分ない。 これなら僕も、少しは楽しめるかな。


 気配を感じれるほど強い敵は、この階に二人。 下には十人以上。 その中でもずば抜けているのは、僕の目の前とツツナさんが対峙している相手か。 下の階にも突出しているのは数人いるみたいだけど……良いね、やっぱり運が良いや。 こっちはどうやら、当たりの方だったみたいだ。


『校舎内、全生徒にお知らせします。 ただ今、本校は異法使いと思われる者たちにより襲撃されています。 ある程度の法を使える者は速やかに侵入者を撃退してください。 繰り返します……』


 どうやら向こうもやる気みたいだし。 でも君たちはきっと言うんだろうね、襲撃されたから僕たちに攻撃したと。 でもさぁ、一番最初はどっちからだった? 一番最初、本当の本当に最初だよ。 異法使いだからと言って、法に背くと言って、異常だと異質だと異端だと言って。 僕たちを殺してきたのはどっちからだった? 良いよ、言わなくても。 僕はそれを知ってるし、分かってるから。 だからさぁ、だからね? あは。


 最初に仕掛けてきたのは君たちだ。 ならついつい殺しちゃっても、仕方ないよね。 何をされても、文句は言えないよね。

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