第十九話
……っと危ない! 意識をそのまま失うところだった。 セーフ、私判断で超セーフ。
「ああああ! シット! 服が汚れたじゃねえかゴミ野郎。 と私は怒り狂う。 よって刑を執行」
攻撃を受けた。 私はそう理解した。 そして怒った。 アングリー、アングリーだ。 オーケイ、私はサイレント的にアングリった。
「ガキが、なに言ってんのか聞こえませーん。 法執行」
男は小石を蹴り飛ばす。 その石は風を切り、私の下へと一直線。 速度強化の法か、その分野に関しては中々筋があるのかもしれない。
「ふ、ふ、ふ。 魔術執行。 空間構成物質を否定シマス」
だが問題なし。 その程度の法、私の魔術の前にはゴミなのである。 得意分野とは違う魔術でも十分なり。
思い、私は手をかざす。 目の前まで飛んできた石ころは――――――――停止した。
「……なんだ?」
「なんでしょう? 答えは簡潔明瞭、空気密度を高めたのだ。 そして青年よ、貴様が二で私が零だ」
「あ? 二に零?」
なんだ、可哀想に。 そんな単純な計算もできないなんて論外じゃあないか。 ほんと、超単純なことなのに。 たとえば、そうだ。 ボールでもなんでも良い、ある程度硬さのある物体を上に投げたとしよう。 それが一で、その物体はそのまま重力に従って落ちてくる。 自分がその場から動かなければ、当然そのボールは自分へと命中する。 これで差し引き零、つまり元ある形へと戻ったわけだ。 至極単純なこのシステムを知らないとは、可哀想な人。
「いえす。 青年は二回私に攻撃し、私は零回攻撃している。 よって今から二つ分だけの攻撃を執行シマス。 魔術執行、人体発火を肯定シマス」
「ん……うわ、あ、ぐぁああああああああああああ!」
萌えー、と私は頭の中で呟いた。 萌え燃え萌え。 ふ、ふ、ふ。 よく燃える男だこと。 冬が近いこの時期、あなたも焚き火は如何でしょうか。
「暑い? それとも熱いですか?」
「た、たすけ……」
「暑くて熱いのだな、了解。 私は心優しき巫女魔術師。 助けを求められたら助けよう、感謝せよ。 そしてこれで差し引き零だ」
言って、私はその場に倒れた男の頭を踏み潰した。 生からの開放、死は魂の昇華を持って召される。 アーメン、来世はもっと頑張れチルドレン。
「やばーい、やってしまった。 超ニュースになっとる」
その日の夜、私は対象の女にストーキング行為を行ったあと、根城にしたホテルで休んでいた。 すると、付けていたテレビから昼間の青年のニュースがやっていたのである。 見出しは『人体発火事件、魔術使いの仕業か!?』となっており、そのニュース内では一連に起きていると言われている法使いに対する殺人事件との関連性も述べられていた。 いやいや、超違うから。 私が殺したのはたった一人のみ、オーケィ? そんな見知らぬ奴がやった罪を私にかぶせるでない、燃やすぞちくしょうめ。
……はてさてどうしよう。 つーかよぉあいつら未だに連絡なしかよ! マジどこで油売ってんだぶっ殺すぞクソ使い魔どもめ。
「矢斬戌亥、それに思念を向けていた女……幸ヶ谷小牧。 そして矢斬戌亥を求めるエリザっち。 あ、エリザ様……まいないしエリザっちで良いか。 魔術使いが法使いに一体なんの用なのかね。 おや」
私がベッドに体を投げ出した丁度そのとき。 部屋の中に気配を感じる。 それも、二人。
「……申し訳ありません不様ッ! 連絡が遅れ、途絶えていたことをお詫び致します!」
「ごめんなさいぃ」
ラングドック、そしてコルシカ。 私が魔術を使い現界させている二人の使い魔だ。 ラングドックの方は義理人情に重く、魔術使いというよりかは騎士と言った方が正だろう。 反対にコルシカの方は見た目も中身も子供らしい。 ふわふわした喋り方の子供だ。 背が私よりも高いのに対抗心を燃やしているが、背の高さは魔術でどうにかなるものじゃない。 悲しきかな……。
「いえすぷろぶれむ」
「……はて、どういう意味ですか?」
私の達者な英語が理解できないとは馬鹿な奴め。 目を細めて答えを乞うラングドックに向け、私は自信たっぷりで答えてやる。
「ノープロブレムの反対、イエスプロブレム。 分かりやすく言うと問題あり。 お前ら死ぬか? 死にたいか?」
ふ、ふ、ふ。 どうだこの英語能力は。 驚いただろう、そうだろう。 そんな顔で私はラングドックを見る。 横に居るコルシカは既に眠そうにしていた。
「……お言葉ですが不様、ノープロブレムの反対はイエスプロブレムではないと思います」
「えマジで? そうなの? コルシカ」
「たぶんねぇ。 それより不様ぁ、わたしたちを殺しちゃうんですかぁ?」
首を傾げ、コルシカは言う。 その言葉で何かがぷつんと切れた。 必死に、必死に堪えていた物が決壊していく。 怒り、殺意、そんな感情はとっくに超えていて、私は。
泣いた。
「……うう、こ、殺すわけないでしょ! どんだけ、どれだけ私が寂しかったと思ってるのぉ! ばか、ばかばかばかばかばかッ! コルシカとランクドックのばーか!!」
「……申し訳ありません、不様。 もう離れはしませんので、どうかお気を確かに」
ラングドックは言い、私の背中をさする。 大きな手と落ち着く声。 それを数分続けられ、私はどうやら落ち着いた。
理由をその後に尋ねると、どうやら二人は私のために情報を集めていたらしい。 それに集中しすぎた所為で連絡がおろそかになったというわけだ。 ううむ、それだけの気配りがあったならさっさと言えよ馬鹿どもめ。
それから、私は二人が集めた情報を頭に入れる。 その情報には最近、矢斬戌亥が機関の人間に連れ回されているというのがあった。 どうやら最近発生したという『第一学園襲撃事件』が深く関わっているとのことだが……まぁそれは関係なっしんぐ。 というわけで、私がする行動は決まりだな。
「私は明日、幸ヶ谷という女を尾行する。 二人は敵戦力の確認を含め、接触なり。 連れ去れる状況ならば矢斬を誘拐なう。 おーけぃ?」
「……不様、まさかビビっておられますか?」
「断じてビビってないわアホっ! だってあれじゃん、もしも敵の中にエリザっちみたいな超ヤバイの居たらマズイだろぉ……? だから事前調査が必要なのだっ! お前ら、ちゃんと予防線は張るように! 私の許可なく死んだら本当に許さないもん!」
私は叫ぶように言い、ベッドの中へと潜り込む。
……おやすみマイフレンド。 戻ってきてくれてありがとう。 しーゆー、ねくすとたいむ。




