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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
一章 終世
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第十七話

「それで僕を呼んだわけ? 矢斬さん」


「うんそうそう。 てかそんな怒らないでよロク……ああ違った、今はなんだっけ?」


「アリス。 アリス・アークライト。 そろそろ覚えて欲しいけど」


「ごめんごめん、アリス。 それよりさーあ、どうやらこの前君たちが俺の学校襲撃した所為で、なんか俺が疑われちゃってるんだよね。 彼ら結構鋭いよ、気を付けた方が良いって君のお仲間にも伝えといてね」


 夜の十二時を回った頃、俺は一人の少女と会う約束をしていた。 アリス・アークライト。 日常生活を送る上での名前と姿。 その正体は先日、俺たちの学校である法執行第一学園を襲撃した『異端者』のナンバースリー。 ハッキリ言おう、あの凪心加(しんか)という男の読みは、半分ほどは当たっていた。 俺、矢斬戌亥は異端者の一員ではないが、通じているところがあるんだ。 通じていると言っても、俺とこうして話すのはアリスだけだけど。 先の話、俺がいじめられていた異法使いを助けたという話……ストーカーとはきっと全く関係ない。 いかにもな理由を付けるためのでっち上げに過ぎなかったからね。 けど、その異法使いが居たのは事実だ。 この目の前の異法使いの少女こそ、そのとき助けた少女なのだから。


 それから紆余曲折あり、今目の前に居る小さな女の子は異法使いの集まり、異端者に属している。 対する俺は法使い、奇妙な顔合わせと言えるだろうね。


「そういえばアリス、法使いの俺と会うの嫌じゃないの?」


「嫌。 早くポチさん帰ってきてくれないかな……」


「あはは、俺も随分嫌われたねぇ。 俺よりボスの方がよっぽどお好みかい? ま良いんだけどさ、それよりアリス……折り入って相談があるんだ。 俺の周りをうろちょろしている蝿のこと、何か知ってる?」


 辺りは既に真っ暗で、街頭がない路地裏だった。 そこでアリスは今は珍しい円筒型のゴミ箱の上へ座り、足をぶらぶらとしながら俺の質問に「うん」と答える。 知ってるというならば話は早い、早急にとまではいかないけど、手を打つことにしよう。


「そっか、それじゃあ質問続けるね。 そいつは敵か味方か、どっち? 俺視点の話じゃなくて、アリス視点から見ての話だよ」


「答えはどっちも。 僕とか矢斬さんの行動次第かな、多分ね。 僕があの人を攻撃すれば敵になるし、矢斬さんが手を加えれば味方になるかもしれない。 現状ではどっち付かずって感じだよ。 法使い、異法使い、はたまた本来いるべき魔術使い、そのどれにも属す可能性がある」


「なるほど。 ということは魔術使いってわけか。 うーん……それじゃ俺はアリスにこうお願いしとく、もしも見かけたら攻撃しちゃって良いよってね」


 アリスは俺の言葉に首を傾げると、ぶらぶらとさせていた足を止めた。 そして両手をゴミ箱の蓋に付き、そこから飛び降りる。 そのまま俺の前で止まると、今度はアリスが質問をしてくる。


「どうして? 僕が何もしなければ、矢斬さんにとって良い動きをしてくれるかもしれないのに。 困ってるんでしょ? 機関の奴に目を付けられて。 都合良く使ってこその矢斬さんだと思うよ、僕は」


「困ってはいるけど迷惑はしてないよ。 それにほら、アリスが先に見つけるか俺が先に見つけるか、そっちの方が面白いじゃん。 どっちに転んだとしても、それは世界の選択で予め決まっていたものってことだしさ。 なるようになるってこと」


 さて、こうして一人の命は運任せとなった。 運任せというか世界任せ。 アリスが先に見つければ、間違いなくそいつは死ぬ。 俺が先に見つければ、そいつは生きられるだろう。 これはある種のゲームで、暇で暇で死にそうな俺にとっての遊び。 だから精々楽しませてもらうとしよう、束の間の休日ってやつを。


 ああ、このゲームを用意してくれた小牧さんには感謝感激だ。 誰かを引っ張ってきてくれてありがとうとね。 しっかし、問題はどうして小牧さんだったのかってことだけど。 その対象は凪でも良かったはずなんだよねぇ。 これが唯一引っかかることで、そして多分一番の核心的部分なんだろうよ。 だから敢えて置いておこう。 そこには触れず、とりあえずは駒を進めてみよう。 アリスというクイーンと、俺というポーンを動かしたキング。 そのキングは一体誰なのか、ここでひとつ予想を立てておく。


 最有力候補は、機関に関わっている人間。 魔術使いとなればそれも少し疑わしいけど、それはやっぱり少しでしかない。 魔術使いは変わり者が多く、同時に仲間意識は高かったりする。 その仲間を守るため、機関に取り行った人間も少なくはない。 それがプライドがある異法使いとは異なる点だね。 それを卑怯と捉えるのが法使い。 臆病者だと捉えるのが異法使い。 それなら俺は。


 うーん……そうだね。


 全てを知っている誰か、の仕業といったところだろうか。 可能性としてあることのひとつだ。 その俺を探している魔術使いですら気付かない間に、そう仕向けられていたという可能性。 これが真であれば、恐ろしい奴もいたものだと俺は賞賛してやろう。


 そして魔術使いは一番先が読めない駒、とでも評して置こうか。 奇想天外、奇抜にして奇妙、そういう動きを見せる駒だ。 将棋なら桂馬、チェスなら変則チェスで例えるのが分かりやすい。 変則チェスのフェアリー駒、ナイトライダーってところかな。 一番、キングに取って奇襲を受けやすい危険な駒。 そんな立ち位置なのが彼ら魔術使いだ。 だからこそ、予想を上回る結果を出せるのも彼らが一番可能性が高い。 この場合のそれは、操っている何者かの予想を上回る結果、だ。


「それより矢斬さん、そのお願いは分かったから、僕からもひとつお願いがあるんだけど」


「ん? なに? 無理難題じゃなきゃ引き受けるよ、頼み事を聞いてもらったし」


「お腹が空いた。 ご飯奢って」


「……それは基本的には無理難題な方だけど、まぁ良いよ。 年下にご飯を奢ってあげないほど、俺は非情て薄情な人間じゃないからね。 最後に食べたのはちなみにいつでなに?」


「今日の朝で食パンの耳。 だからもうぺこぺこなんだ」


「お金持つかなぁ……ま最悪俺が飯抜きで良いか。 それじゃ行こう、腹が減っては戦ができぬ、体調は万全にしておかないと」


「……矢斬さんは僕たちにも優しいから、そういう部分は好きだよ。 他は嫌いだけど」


 そんな言葉を聞き、俺はまた笑う。 最近、実に笑うことが増えてきている。 それが話が進んでいることを実感させ、俺はワクワクしてくるんだ。 この先一体どんな世界になっていくのか、どんな話になっていくのか、俺はいつまで傍観者で居られるのか。 楽しみで楽しみで仕方ない。 もしかしたら、今日が大手を振るって街を歩ける最後になるかもしれないし。


 明日は誰にも分かりやしない。 だからこそ、俺は今日が大好きで、同時に明日も大好きなんだ。 逆に過去は好きじゃない。 過ぎ去ったことなんて、本当に心底どうでも良い。 この前の一件、俺が異端者の一員じゃないかと心加さんに疑われていたことだって、もうどーでも良いや。 俺は今日、明日、そういう未来が好きなのだから。

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