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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
四章 会遇
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第二十二話

「疲れたなぁ」


 俺は一人呟き、夜空を眺める。 異端者のアジト、その屋上から眺める景色は意外とお気に入りだったりもした。 地区を見渡せる場所であり、俺が俺としてここに居るという実感も湧いてくる。 存在が不安定とも言える俺たち異法使いは、そんなことで一喜一憂するのだ。


 俺が法者によって魔術使いの城へ飛ばされたあの日、出会ったのは法使いとエリザだった。 法使いの方はいつか出会ったラムと呼ばれる奴に、相当の使い手が二人。 加えて凪であり、エリザに捕まりかけたところで見つけることができた。


 エリザには借りという形で話を付けた。 その借りというのも二つあって、一つは俺の代わりに凪心加を排除したというものと、今この場で法使いたちを見逃すというもの。 いつか返さなければいけない借りを一番作りたくない奴に作らせてしまったというわけ。


 ……ま、これに関してはあまり心配はしていない。 基本馬鹿なあいつのことだ、どうせしょうもないことに使うに決まっているし、いざとなれば反故にしちゃえばいいだけだし。 俺に借りを作らせようとするその姿勢がどれだけ愚かか教えてやってもいい。


 ともあれ、これで必要な物は落ちずに済んだ。 俺の目的を成し遂げるためには凪の存在は最重要となってくる。 最初は別に凪でなくとも良かったけれど、今となっては凪以外あり得ないほどに。


 兄を魔術使いに殺され、親友の正体は異法使いで、自分自身は努力を怠らない名家の天才――――――――物語の主人公を象るには打って付けだ。


「ポチさん」


 不意に後ろから声がかかる。 俺が振り向くと、そこに立っていたのはロクだった。 既に体調も元に戻り、異法も問題なく使えているロクだが、捕まってからの記憶は全て吹っ飛んでしまっているらしい。


「ロクか。 どうした?」


「ポチさんと話してあげようと思って。 暇でしょ?」


 ……なんで上から目線なんだろうなぁこいつは。 人を常に暇人みたいな言い方は心底止めて欲しいよ。 まぁ暇なんだけど。


「そりゃ有難い。 皆は?」


「霧生さんと天上さんがどっちが腕相撲強いかで盛り上がってる」


「あいつらまたかよ。 で、ロクはその空気から逃げてきたわけだ」


 しょっちゅうあることだが、全員が集まると大体こんな感じになるのが恒例だ。 霧生と天上は毎回揉め、それを見て皆が盛り上がる。 ロクはそういう空気が苦手で逃げてくるのがお決まりと言っても良い。


「ルイザの異法も戻ったし、ロクも無事に帰ってきた。 今回はちょっと危なかったけどな」


「全部ポチさんのおかげだよ」


 景色を眺める俺にロクは言う。 それはどうだかと思いつつ、俺は真横にやって来たロクへと視線を向けた。


「けれど甘くは考えられない。 勿論法者の存在もだけど、お前とツツナを倒したゼウスって奴も気になるしな」


「うん、そうだね。 結構厄介な法かも」


 現状、俺の次に強いのはツツナだ。 ロクが例の状態になれば別の話だが……問題は、ゼウスという奴はその状態のロクを倒したということ。 何より厄介なのは二度も戦いをしながらゼウスの法が一切不明だということか。


 ツツナ曰く、そこまで強い奴ではないものの、気付けば負けていたという。 そういう奴が恐らく一番厄介なのは間違いない。


 戦力はこれ以上ないくらいに揃った。 後はやり方次第……俺の選択次第というわけ。 駒をどう進めるか、どうやってあの法者の首を落とすか、そのやり方は一歩間違えればこっちが全滅し兼ねないほどに慎重に進めなければならない。


 だからこそ期間を置く必要がある。 そして時期を見る必要がある。 ここから先はより慎重に物事を進めなければなるまい。


「ロク、みんなに俺から話があるって伝えてくれ。 今日は全員集まってるし、丁度いい」


「珍しいね、改まって話だなんて」


 俺の言葉にロクは言うと、すぐさま室内へと戻って行った。 ロクの言うように俺がわざわざみんなに話をするのは珍しいことだ。 大体はそのときいる奴らに話して、後は伝言ゲームよろしく伝わっていく感じだしね。


 さて、俺が伝えるのは至極簡単なことだ。 異端者としてのこと、俺たち異法使いとしてのこと、それらに関わってくることでもある。 この数年、異端者という組織は当初からしてみれば考えられない力を持ったと思っても驕りではないだろう。 強力な異法を持つ奴らが何人も加わったし、その異法自体も力を増している。 執行機関と真正面から殺り合える戦力は整ったと言っても過言ではない。


 だからこそ、今でなければいけないことを伝えよう。




「よ。 揃ってるな」


 俺が階下に降りると、そこには全員の顔があった。 全員が全員、似たようで別々の想いを持ってここに居る。


「どうしたんだよポチさん、改まって」


 最初に口を開いたのはリン姉だ。 腕組みをし、首を傾げながら言う。


「の前に。 みんな、この前は悪かった。 頭に血が上って冷静じゃなかった」


 俺が言うのは、ロクを救出するときの流れのこと。 結果的には法者の存在、ロクの状態もあって正解だったと言えるが、それが分かっていない段階での強行は冷静な判断の下に行われたことではない。 全員が集まったとき、真っ先に俺が言うべき言葉はこれだろう。


「謝んじゃねーよポチさん。 確かにいらついたけどな」


「天上、超心配してたからね、ロクのこと」


「……うるせえぞクソビッチ」


「はぁ!? 私がクソビッチならあんたはなに!? このクソヤンキー!!」


 喧嘩を始めるのはいつものこと。 天上は基本的に口が悪いが仲間思いで、自身の想いを実直にぶつけてくる奴だ。 俺に対しても引くことは滅多にせず、今のように素直な気持ちを嘘偽りなく伝えてくる。 そっちの方が、俺は気が楽だ。


 で、ルイザ。 ルイザは異端者の中でも一番俺をボスとして慕っている。 他の奴らがどこか距離のない接し方をしてくるのに対し、俺のことを上に立つ人間として接してくるのはルイザだ。 だから俺の言葉には従うし与えられた仕事も着実にこなしてくれる。


「まーまー、イライラすると肌が荒れるよルイザっち……ってなになにその拳、待って俺っち今酷いこと言った!?」


 いつもふざけた様子で場を和まさてくれるのは、霧生。 女好きの霧生は実のところ異端者の女子面子全員から嫌われているのだが、本人は知らない。 たまにお悩み相談をされる俺の身にもなって欲しいところだけど……結構良い男だと思うんだけどなぁ、俺は。


「アタシとしちゃポチさんが頭下げるってめっちゃ貴重な場面見れて面白いな」


「鈴、きっと後で怒られる」


 それで、仲が良いのはリン姉妹だ。 名前は同じでも性格は真反対、いざというときに頼りになる姉妹という認識を俺はしている。 頭の回転がえらく早いリン妹に、反射神経と運動神経が抜群のリン姉のコンビは末恐ろしい。


「それよりポチさんよ、次の休みっていつなわけ? オレ積みゲーやらねえとなんだけど」


「は、ハコレ……そんなこと言ったらポチさん怒るって……や、やめなよ」


 こちらもこちらで性格が真反対の奴ら。 こいつらの異法は相性が抜群で、カクレの扉で孤立した奴をハコレの異法で仕留めるというものだ。 共に頭脳明晰、こと電子上での物事ならば右に出る者は居ない。 ただ問題は、ハコレの怠惰な性格とカクレの臆病な性格くらいだろうか。


「ポチさん、それで話って? この人たちの相手をしてたら日が暮れちゃうよ」


 そう俺に進言したのはロク。 こいつとはツツナの次に長い付き合いで、長年様々な異法を見てきた俺でも飛び抜けた異法の持ち主である奴だ。 そしてロクは……あいつとどこか、似ている。


「……」


 最後に。 黙って俺の言葉を待つのはツツナだ。 一番長い付き合いの奴で、一番俺と因縁深い男でもある。 何を考えているのか分からない奴でもあるけど、もっとも異端者という組織を保っている奴でもある。 全幅の信頼をってほどでもないが、もしも仮に俺が死んだとしたら後を受け継ぐのはこいつしかいないだろう。


 ……ま、そんなことを言えばツツナは「お前以外はあり得ない」というんだけどね。


「ああ、悪い」


 にしても、本当につくづく馬鹿な奴らだ。 俺の勝手な行動を窘めないし、既に忘れている雰囲気さえ見せるなんて。 俺には勿体無いくらいの仲間たちだ。 だからこそ、俺もそろそろ腹を括る頃合いなのかもな。


「今日は、全員に話がある。 それを話す前に、お前らには予め一つ覚えておいて欲しいことがある」


 俺が切り出すと、先ほどまで騒がしかった面々は全員が黙り、俺の方へと視線を向けた。


 外から差し込む日差しはなくなった。 丁度、雲でもかかったのだろうか。 暗い部屋の中、俺は話を続ける。


「もしも迷ったら好きにしてもらって構わない。 もしも俺に不満があったら離れてくれて構わない」


「……どういうこと? ポチさん」


 たまらずロクが口を開く。 そんなロクに一度視線を向けたあと、俺は再び全員に視線を向けて口を開く。


「簡潔明瞭に言おう。 俺の話を聞いてから、異端者を抜けてくれても構わないってことだ」


 俺の言葉に誰も何も言わない。 ただ、全員が全員顔色を変えたのは分かった。 ツツナでさえ、不審な顔をしていた。


「俺の、過去の話をしよう」


 最近、寒さが増してきた。 朝起きるのが億劫になるほどに寒い日は増えていた。 冬というのが俺は好きだ。 人の温もりを感じられるから。


 なんてことを言えば、俺という人間を知っている奴らは鼻で笑うだろう。 お前がそれを言うかって、声を揃えて。 けれど、俺は本来そういう人間だった気がする。


 変わったのは、あの日から。 法使い、そして異法使いという立場の違いを明確に認識したあの日からだ。


 今から十年ほど前の話をしよう。 俺はまだ小学生で、荏菜とも同じ家で暮らしていた頃の話。 俺には、幼馴染が三人居た。


 一人は刈谷島。 一人はコクリコ。 そしてもう一人は……音葉雫。


 俺がポチになった話。 そして、この世界を殺すと決めた物語を語らせてもらおう。

以上で第四章、終わりとなります。

次回投下は夏中に予定しております。

内容のメインは矢斬戌亥の過去話となりまして、少年時代の話となります。


また、時間置きまして小話の方を後日投下致します。


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