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異法使いのポチ  作者: 枚方赤太
三章 神罰
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第二九話

 終わり良ければ全て良し。 そういう言葉は、終わったあとに付け加えるとなんだか一件落着したようにも感じる。 だが、それは後付けの言葉でしかないのは、考えればすぐに分かることだ。 終わりが良かったからこそ、終わり良ければ全て良しと言えるのだから、当然だろう。


「さぁて帰るか。 上に戻ったら、当面の目的は戦馬に斬られた箇所の修復だ」


「……申し訳ありません、ボス」


 施設を脱出した俺は、天上と霧生と合流した。 そこへは既にルイザもやって来ていて、俺が仕掛けた異法によって崩壊していく施設を眺めながら、俺たち四人は横に並ぶ。


「気にするな。 俺の采配ミスもあったんだからさ。 まぁけど……」


 ルイザは人一倍、仕事に対する責任感が強い。 それはルイザの過去があったからこそで、仕事というのを一種の生きる目的とこいつはしている。 だから、気休めの言葉なんて意味がないな。


「申し訳なさを感じるなら、取り返せ。 戦場については俺がやるけど、他のことでな。 異法が使えなくても、ルイザにしかできないことは沢山あるよ」


「……はい!」


 その言葉が効いたのか、横目でルイザの横顔を見ると、ほんの少しだけ笑っているように見えた。


 解決すればそれで良い。 仮にも、ルイザや異端者のメンバーは俺の部下だ。 ならば、その部下の尻拭いをするのは俺の役目。 ルイザには別のことで頑張ってもらえば良いと思っているし、それで問題はない。


「んでポチさん、キグの奴はどうすんの? なーんか知ってそうだったけど」


「ああ、聞くよ。 ロクかツツナにそれは任せる。 多分、機関とは別の何かだろうな」


「別の?」


 天上、霧生から聞いた話。 キグが言っていた言葉を思い返す。 明らかに本来の能力を超えた異法と、法者に出会ったという意味。 そして、新たに現れた二人の人間。 十二法の二人……リンドウと、シグレ。


 しかし、あの二人は少々特殊だと考えるのが良いか。 一応は法使いに分類されるのだろうが、シグレは魔術を行使してみせたし、リンドウは異常な耐久性を持っている。 それに、アレスの言葉を信じるならば、通称は十二神の名をなぞって名前を言うはず。 だというのに、あいつらはそれをしなかった。 十二法からもまた、浮いていると言っても良いか。


 繋がりがあるとするならば、そこだ。 LRIという研究機関、リンドウにシグレ、そして死んだはずのキグ。 ここが繋がっているとするなら、法使いにはまた別の機関があると考えて良い。


「ま、とにかく帰ってみんなと話そう。 リン妹の意見も聞きたいしね」


「もう二度と来たくねぇな、こんなとこ」


 俺の言葉に、天上がそう口を開く。 それに対して答えたのは、霧生だった。


「マジで? 俺っちはまた来たいと思ったけど。 だってほら、異法使いの俺っちでも満足できる待遇だし?」


「そりゃあいつが居たからだろ。 あのガキが」


 シロのことか。 天上のその声を聞き、俺は既に崩壊し、瓦礫の山と化した施設に目を向ける。 やっぱり、法使いとは仲良くなれないのかなぁ、俺。


「ボス、帰り道ついでに、聞きたいことがあります」


「ん? 歩きながらでもできる話なら良いけど」


 俺は言い、歩き始める。 それを見た三人もまた、歩き始めた。 天上も霧生も、俺の行動については何一つ尋ねることはしない。 が、ルイザはその辺りは別のようだった。


「ボスは、どうしてあの二人を? 最初からそのつもりだったんですか?」


「最初からって言われると、そうなるのかな。 まぁ、あいつが法を使おうとしなければ、殺そうともしなかったよ」


 シロの法は、神同等の力を行使できる法。 自然の摂理、物の道理、それらを本人の意向によって、強制的に変えることすら可能な法だ。 その力を神と言わず、他になんと言えば良いか。


 だが、所詮は人間で人の子でしかない。 神の力を人が使うとするならば、それは罰となって返ってくる。 それが、神罰。 本当の神が与える、神の力。


「……だとすれば、それを行ったボスは、神ということですか」


「え? あっはは、まさか。 なーんか宗教くさい話になってきちゃったね。 もっと簡単に言うと、ただ勝ち目のない戦いを事前に潰したってだけだよ」


 俺が言うと、ルイザは無表情で「そうですか」と言った。 そして、思わずというように、続ける。


「……もしも、もしも私がシロと同じ力を持っていて、同じように力を使おうとすれば、ボスは私を殺しますか?」


「おい、ルイザ」


 その声に反応したのは、天上。 少々怒っているようにも思える声色だ。 だが、ルイザの質問ももっともだと、思う。 それが気になるのはきっと、仕方のないことか。


「いいよ。 ルイザ、今の質問だけど、それに答えるだけの考えを俺は持っていないよ。 お前はお前で、それだけでしかないからさ。 もしもだとか、仮にだとか、そういう可能性の話は想像が付かないな。 ルイザが持つ異法はひとつで、それにお前は俺が法を使うなと言えば使わないでしょ?」


「それも、そうですね。 申し訳ありません、変な質問をして」


 ルイザは足を止め、俺に頭を下げる。 それを見た俺も足を止め、ルイザの肩に手を置いた。


「気にするな。 それにさ、ルイザはシロのことを気の毒に思っているかもしれないけど、あいつは満足して死んでいったよ」


「……そう、なんですか?」


「ああ」


 シロが最後に言った言葉。 あいつは、俺に「ありがとう」と言ったんだ。 そして次に「殺してくれ」と、言ったんだ。 元からシロは、死ぬ気だった。 大体のことには想像がついていて、予想がついていて、それでも否定したかったから、知らない振りをしていただけ。 八雲のしていること、八雲が俺に感じていることも、あいつは恐らく気付いていた。


 その上で、この話を簡単に終わらせられる方法を選んだ。 LRIという研究機関に捕らわれ、実験材料とされた二人には、未来がない。 LRIに復讐することだけが生き方で、幸せになる方法は存在しない。 だからシロは俺を呼び、施設へと侵入し、そこで死ぬことを望んだ。


「……もしもワタシを殺さなければならなくなったら、迷わず殺してください、か。 今更ながらだなぁ、ほんっとに」


 あれが、法だ。 あれこそが、シロが使った法。 そして二回目のは、ハッタリに過ぎない。 それをすることで、俺にシロを殺させた。 そして怒り狂った八雲も、殺させた。 まったく随分な置き土産をしてくれるもんだ、あいつ。


 だがまぁ、アースガルドという閉鎖空間で偽りの幸せを掴むことよりも、目的を果たし、ある意味で満足した中で死ぬことを選んだあいつを咎めることは出来やしない。 それもまた、ある種の強さなのだから。


 シロは、自分自身を八雲の足枷だと思っていたのだろうか? その足枷を外し、八雲に自由に生きて欲しかったのかもしれない。 しかし、八雲はそれでもシロを愛した。 シロを殺した俺を殺そうと、自身を壊した。 それが唯一、シロの想定外だったのかもしれないね。


 ま、死んでしまった二人のことをいつまでも考えていたって仕方がない。 俺の方は思わぬ収穫があったことだし、満足するとしよう。




 それから、俺たちは地上へと帰る。 そして、帰ったその瞬間に異変を感じた。 遥か遠く、異法地区で起きている異変に。 雨が強く降っていて、そんな視界の悪さでも視認できるほどのものだ。


「ポチさん、あれは」


「……急ぐぞ、万が一があり得る」


 霧生の言葉に俺は返す。 異法地区で、戦闘が行われている。 この地点から目を凝らし、ようやく視認できるほどのものだが……魔術使い、法使いもか? どうやら俺が居ないタイミングを狙ってきたか。


 しかし、状況は最悪だ。


 やがて、俺たちはV地区へと辿り着く。 その頃には既に魔術使いも法使いも撤退しており、辺りには雨の匂いに混じり、血の匂いが充満していた。 もっとも多いのは、魔術使いの死体と異法使いの死体で、法使いのものは見当たらない。 だが、傷口が魔術使い、異法使いが同一のもの。 ということは、二つは同じ敵を相手にしていたってことだろうか。


 その場合、もっとも考えられるのは異法使いの裏切り。 俺らに対して良い感情を抱いていない異法使いが居るのは知っていたけど……結構な数だな。 こういう戦法を取るのが得意なのは魔術使いか。 ってなると、結託したのは魔術使いと異法使いか? でもそうなると、法使いの関連性が謎となってしまう。 まさか法使いが、多くの魔術使いと仲良くするとは思えない。 それに、エリザがこの動きを予知できないはずがない。 だとすれば、この場にいた法使いは別で動いていた。 その目的は。


「……ポチさん、居たぞ!」


 魔術を打ち込まれたのか、地区には炎が広がっている。 ここまでされてしまえば、満足に暮らすことも難しい。 元々荒れた地区だが、暮らせないほどではなかったのにね。 そんな中で散策させていた天上から声がかかり、俺はそちらに向かっていく。


「ツツナか」


「……ポチか。 すまない」


 ツツナは壁にもたれかかるように座っており、傷が見える。 ツツナを倒すほどの相手……一体誰だ?


「みんなは?」


「……あっちだ」


 顎でツツナはある箇所を指す。 そこには言った通り、異端者のメンバーが居た。 リン姉妹に、ハコレとカクレ……あれ。


「ロクは?」


「……」


 ツツナは俺の問いに、顔を伏せた。 俺は次に、リン姉妹へ尋ねた。 が、返ってくる答えはツツナと同じようなもの。 ハコレに聞いても、カクレに聞いても、同じだった。


「……ポチ、落ち着いて聞け。 ロクは十二法の一人、ゼウスという奴が連れ去った。 殺さなかったということは、生きているということだ。 目的は、あるはずだ」


「……なるほどね」


 もしも、神というものが実在するならば。 これが、俺に与えられた神罰だろうよ。


 ツツナを倒した奴も、そのゼウスという奴か。 ならば、ロクを助けなければならない。


「ルイザ、悪い。 優先事項ができた」


「構いません。 私も、そっちの方を優先してくれると助かります」


 さて、上等だな。 そろそろ動きも欲しかった頃だし丁度良い。 あいつなら早々に死ぬことだってないはず。 ならば対象を殺そう。 勇敢にも、果敢にも、俺の仲間に手を出した愚か者を。

以上で第三章、終わりとなります。

次回もまた1~2ヶ月ほど空いての投稿になりますが、良ければお付き合いお願い致します。


次回はロクの救出と凪正楠がメインのお話となります。

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