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AtoZ短編集

惑星間通信

作者: 原雄一

 『研究の成果』に続く短編小説。今回も出来はあまりよくありません。

 ちょっとずつ矛盾している店等ありますが、温かい目で見守ってください。

 スイセーという星に通信文が届いた。もう一カ月も前から届いている。初めは意味のわからない言葉だったが、何度も聴いているうちに次第に分かってきた。次のような内容だ。


『私はヤンボセーという星の者です。住人は百人を少し超える程度の小さな星です。この通信が聞こえ、私たちの言葉が分かる方々がいるならば、返信をください』


 ヤンボセーという星に興味を持ったスイセーの人々は、通信に返信した。


『こちらはスイセーの者です。ヤンボセーの皆様、そちらの星に行ってみたいので、場所を教えていただけませんか』


 スイセーの人々は、ヤンボセーの言葉でそう送った。

 しかし、ヤンボセーからのメッセージが変わることはなかった。スイセーの人々は、星と星との距離が遠く、メッセージが届くのに時間がかかるのだろうと推測した。


     * * *


 ヤンボセーからメッセージを送っていたのはB氏だった。送り始めてからもう七十年ほど経つが、一向に返信はなかった。

 B氏はもう老人だった。年齢にして九十四歳。若かりし頃から宇宙にあこがれ、メッセージを送り続けてきたのだ。

 B氏は自分の死期が近いことを悟っていた。医者に宣告された余命は、持って二年というものだった。

 そしてとうとう、その日が来た。いつもメッセージを発信している丘に登る途中で、突然倒れたのであった。

 病院には、家族がすぐに集まった。そしてB氏は遺言を残し、家族の見守る中安らかに眠った。享年九十五歳だった。ついにB氏は、メッセージの返信を聞くことはなかった。


     * * *


 スイセーの人たちは首をかしげていた。ヤンボセーからの返信があまりにも遅いからだ。メッセージのことを知る者は、四十年の間にだいぶ減っていたが、それでも残った人々はヤンボセーからの返信を待ちわびていた。

 しかし、届くメッセージは以前と同じものばかりだった。


 それからさらに百年が経った。メッセージのことを知る者はすでに全員死に絶えた。そんな時だった。宇宙からある一件の通信文が届いた。


『こちらはヤンボセーですが、スイセーの方々、いきなりなんですか。ヤンボセーの言葉は確かに使えていますが、いきなりこちらの場所を訪ねるとは、無礼極まりない。我々は、住民は少ないがそれぞれが屈強で、強い兵器も持っている。あまり礼を欠かないほうが身のためです』


 スイセーの人々は、メッセージを知っていた者が遺した解読表を使って、この通信文を読み解いた。

 スイセーの人々はみな憤った。

「いきなり通信してきて偉そうな! しかもこちらには、場所を訪ねた記憶も記録もない。意味の分からない濡れ衣だ!」

「しかも向こうは『我々は強い』とか『身のためだ』とか偉そうなことを言っているぞ。冗談じゃない。こちらから戦争を仕掛けてやれ!」

 こういった意見が飛び交った。また、

「しかし、あちらがそう言っているのです。過去にそういった通信がなされていたのかもしれません。現に解読表が残っているのですし」

 という者もあった。そこで、この件の解決策として、下手に出つつ反論することで意見は一致した。そこでスイセーの人々が送ったメッセージは、こうだ。


『こちらはスイセーです。ヤンボセーの皆様、大変申し訳ありませんでした。しかし、こちらにはそういった記録が一切ありません。いまだに半信半疑なのですが、本当の話なのでしょうか。また、蛇足かと思いますが、こちらにも強力な軍隊があります。こちらから手を出すつもりはありませんが、そちらがその気ならいつでもお受けします』


     * * *


 ヤンボセーの人々も、スイセーと同じように腹を立てていた。

「まったく、いきなりこちらの星のありかを聞くとは、ぶしつけな」

「どうせ我々の星に攻め込んで、滅亡させるつもりなのだ! ふざけおって!」

 そこで先程のメッセージを送ったのである。

 しかし返信は来ない。人々はなおさら怒った。

「くそっ! 何なのだ奴らは! ふざけおって!」

 こういった意見もあったが、

「ふん、どうせ俺たちのメッセージにビビったのさ」

 というような意見のほうが多数で、そのおかげで人々はこのことを忘れていき、またその者たちも死に絶えた。

 ところが、メッセージを送ってから百四十年後、スイセーから先程の挑戦的なメッセージが届いた。もちろん、その原因を知る者はいない。

 ヤンボセーの人々は怒り狂った。

「我々が何をしたというのだ! 意味が分からん!」

「あっちの言うとおり、攻め込んでやれ」

 ヤンボセーの人々は、それぞれ宇宙船に乗りこみ、メッセージを発信してからスイセーを目指し出発した。スイセーの場所は、逆探知により分かっていた。

 メッセージの内容は、以下のようなものだった。


『こちらはヤンボセーだが、スイセー側の言うことの意味が分からない。今からそちらに攻めに行く。覚悟していろ』


 しかし、威勢良く宇宙に飛び出したまではよかったが、通信の音が往復百四十年、つまり片道七十年かかる道のりを、音より遅い宇宙船でたどり着けるわけもなく、みな途中で朽ち果ててしまった。


     * * *


 それから七十年後、技術が進歩し、光の速さで進める宇宙船が、スイセーで開発された。ちょうどその頃、ヤンボセーがこれから攻め込んでくるという内容のメッセージが届いた。

 スイセーの人々は、七十年前のヤンボセー以上に怒り、それならばこちらも攻めてやろうと、宇宙船に乗りこんで宇宙に出かけた。

 あわてたヤンボセー側も、スイセー艦隊に攻撃した。

 そうして両星の艦隊は滅び、また、両星の生物もいつしかいなくなった。


 余談ではあるが、B氏の遺言は『何があっても争うな』というもので、最後の言葉は『私の言葉は、結局誰にも届かなかった……』であった。

 そう、B氏の言葉は、遺言さえも届かなかったのである。

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