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借金してでも食いたいもの

掲載日:2026/04/03

ニコさまよりいただいたテーマ『貴方が借金してでも食いたいもの』で書きます


 ポスターの中の、眩しいその料理に目を奪われた。

 湯気を立てて、とんこつラーメンが私の食欲をそそる。


 食いたい──


 食いたい──!


 とろけるような白いスープにひたされたあの麺を、心ゆくまで啜りたい! トッピングのチャーシューはきっと香ばしく、あの肉厚でもやわらかく、私の情熱にしっかりと応えてくれるに違いない!


 でも、食えない……。


 一食150円以内にとどめないと、一ヶ月を乗り切れないのである。


 底辺職は辛い。大型トラック乗りといえば、昔は仕事はキツくてもがっぽり儲けられる仕事だったと聞く。

 しかし今は一日の運行時間も厳しく定められ、何より大手運送会社どうしの激しい運賃値下げ競争に巻き込まれ、運転手の給料は底辺職の言葉通りになってしまった。しかもうちの会社は定められた運行時間なんて無視して一日18時間走らされることもよくあるのに。


 何よりの敵が、昨今の物価高であった。


 とんこつラーメン 1,050円──


 きっちり私の一食に使える額の7倍である。これを食べてしまったら、今月6食は抜かないといけない。


 幸せそうで裕福そうな人々の行き交うサービスエリア内のフードコートで、私は途方に暮れた。そんな私に、背後から話しかけてくる声があった。


「お姉さん」


 自分にかけられた声とは思わず、私がとんこつラーメンの写真を見つめ続けていると、背中をちょんちょんされた。


「お姉さん、とんこつラーメンが食いたいんだね?」


 振り向くと、黒いスーツに黒いフェルトハットをかぶった怪しげなおじさんの、偽善者っぽい笑顔があった。でっぷりとした、背の低いおじさんだ。


 明らかに不審者だった。何も答えず私が逃げようとすると──


「私が1,050円、お姉さんに寄付しましょうか」


「ええっ!?」

 思わずよだれの糸を引くように振り返ってしまった。

「おごってくれるんですか!?」

 私はべつにかわいくはないが、彼の好みだったんだ? と、思いながら。


 これがナンパだとしても、とんこつラーメンが食えるなら、引っかかってもいい! 「仕事中ですので」とか言ってばっくれればいい。実際仕事中だし──


「おっと」

 するとおじさんは言い直した。

「寄付といいましたが、正しくはお貸しするのです。なぁに、奨学金のようなものですよ」


「しょ……、奨学金?」


「ええ、食べたあと、20年かけて返してもらえば、それでいいんです」


「20年!?」

 人でいっぱいのフードコートの中心で、思わず叫んでしまった。

「月々いくら返済すればいいの?」


「1,050を20年──240ヶ月で割ってごらんなさい」


 私は算数バカだった。

 指を折っている私におじさんが教えてくれた。


「一ヶ月4.375円ですが、利子がついて5円になります」


 毎月5円支払えば、あのとんこつラーメンが食える──


 明らかに怪しい話なのに、毎日おからばかり食べていた私は、その話に飛びついてしまった。




 あっという間に幸せな時間は過ぎ去ってしまった。

 これが一月5円を20年かけて支払う価値のある味かと思いながら、味わい、噛みしめながら、私はとんこつラーメンを平らげた。食べ終わった丼をちょっと舐めもした。

 それを向かいの席から面白そうにずっと眺めていたおじさんに、私はぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございました」

 お財布から5円玉を1枚、取り出した。

「じゃ、今日は5円でいいんですよね?」


「ホホホホ……」

 おじさんは顔を白くして、笑わせた。

「あなた大変なことをしてしまいましたね」


「えっ?」


「たった一杯のとんこつラーメンのために、あなたは人生を捨ててしまったのです」


「ええっ……!?」


 まさかリボルビング地獄にはまったのか? と思ったが、そうではなかった。

 おじさんはかぶっていたフェルトハットを脱ぐと、正体を現した。


 幽霊がつけているような白い三角巾に『び』と書いてあった。


 知ってる──


 見たことある! このキャラは──




 キ◯グボンビーだ!




 私は借金をしてとんこつラーメンにありついたその代わりに、貧乏神にとりつかれてしまったのだった。






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― 新着の感想 ―
取り上げて下さってありがとうございます しいな様の才能の底力を見せていただきました(;´Д`) やっぱあなたすげえです……参りました…… それにしても厳しいんですね……運転手の皆様に感謝です
黒スーツとハットというスタイルから「もしかしたら、あのセールスマン的な人なのだろうか…」と冷や冷やしていましたが、そちらでしたか。 しかし何事もなかった状態でも「一食150円以内にとどめないと、一ヶ月…
さぁ、これから、ブルジョワな一位にキングボンビーをなすりつけて、大逆転。ですね。 ラーメン食べたいですねぇ。 給料安いし。 ラーメン高いし。 血圧高いし。
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