4話 手術室 : 異音と過去の記録
地下:手術室
23:40頃
「休憩を挟みました。これから地下に入ります」
【視聴中:856人】
『850人超えた』
『これは歴史的配信』
『記録しとけ』
『怖すぎる』
(階段を降りる。足音が反響する)
「……地下は、温度が低いですね」
(吐く息が白く見える)
『寒そうだな……』
『何度くらい?』
『地下だから当然冷えるだろうな』
「廊下が続いています。
左側に……手術室、と書いてあります」
『行くしかない!』
『開けろ!』
『チキんな!!』
『銀盾チャンスだぞwww』
(ドアノブに手をかける。一瞬ためらう)
「開けます」
(ドアを開ける。重い音)
――ギィィ…
「手術台が残ってます。
あと、器具棚、無影灯……」
(ライトで室内を照らす)
「かなり古い設備ですね。
昭和初期から中期のもの」
(手術台に近づく)
「ベルトが……残ってます」
『ベルト?固定用か?』
『拘束用?まあ、手術室だからか?』
『見た目不穏すぎる……』
「患者を固定するためのものですね。
手術中に動かないように」
(ベルトに触れようとした瞬間)
――カチ。
「!」
『今の音!』
『また来た!!』
『どこからだ?!』
「……器具棚の方、ですね」
(ライトを向けるが、何も動いていない)
『霧切の方向いてる……』
『じっと見てる感じ』
『怖いよ……』
「器具を確認します」
(棚に近づく。メス、鉗子、ノコギリ状の器具)
「これは……骨用のノコギリ、ですかね」
『整形外科用?』
『戦時中なら切断手術とか?』
『リアルすぎる』
「当時の外科手術では、
麻酔も抗生物質も十分じゃなかった」
(器具を指で示す。触れない)
「だから、速さが重要で――」
(その瞬間)
――ガシャァァン!!!
「!!」
『!!!』
『何!?』
『器具!!!』
(メスや鉗子が床に一斉に散乱)
「……落ちました」
『風は?』
『窓ないよね?』
『勝手に落ちたぞ!』
『全部一気に!!こんなことあるか?』
「器具を乗せる台に置いていたはずです……
少なくとも、窓は開いてないから、風では説明できません」
(霧切、初めて呼吸が乱れる。嫌な気配が部屋を満たす)
『ヤバくね?!』
『何かいるんじゃないか?』
『早く逃げろ!!』
——「ピコン!」
(霧切のスマホ画面上部に通知が滑り込む)
【通知】
『お知らせ! △△△カメラ⬜︎⬜︎店より』
撮影機材セール開催中!!
手ブレ補正強化モデル
――驚いても、カメラは揺らさない。
「…………ふ、……っ。」
(この前、俺が買えなかったヤツじゃないか?!もっと早くセールしろよ!こんな時に……!!)
(霧切は、その通知を、一瞬呆れたように見つめ、すぐに震える指でその通知をスワイプして消す。カメラが激しく揺れる)
『画面乱れてるよ!』
『ノイズ入った!カメラ大丈夫?』
『バグ?』
(霧切、カメラを確認する)
「……バッテリーは問題ないんですが、カメラも特には……」
『映像おかしくね?』
『音も割れてる』
『電磁波?』
「地下だから、電波状況は悪いかもしれません」
(画面が一瞬ブラックアウト。すぐ復帰)
『!今真っ暗になった』
『大丈夫?』
『配信切れるかと、マジでビビったw』
「すみません。機材トラブルかもしれません」
(だが霧切の表情に、初めて不安が見える)
(手術室奥のロッカーを開ける)
「記録が……」
(古い紙の束を取り出す)
「手術記録……昭和19年、20年。
患者番号はありますが、名前はない」
『番号だけ?』
『軍事機密じゃないか?それ……』
『人体実験では?』
「手術内容の欄に……」
(ページをめくる。手が少し震える)
「『実験的処置・第一段階』
『経過観察・症状悪化』
『第二段階実施・患者反応なし』」
『実験って書いてある!!』
『これヤバいやつだ!!』
『完全に人体実験じゃねぇかよ!』
「……断定はできません。
ただ、通常の治療記録とは……違います」
(沈黙)
「最後のページに……」
『何?』
『読んでくれ!』
「『全患者、転送完了』と」
『やっぱり転送』
『どこに?』
『地下のどこか?』
『転送ってなんだよ?』
「手術室が、もう一つあります」
『行くの?』
『まだ続けるの?』
『体調は?大丈夫か?』
「……確認します」
(隣の部屋のドアを開ける)
「こちらも手術室ですが……」
(ライトで照らす)
「手術台が、二台あります」
『二台?』
『同時に手術?』
『効率重視?』
「片方の手術台に……何か、残ってます」
『何?』
『見せて』
(近づく。ベッドシーツの上に、古いノート)
「……これも、日記です」
『また日記』
『患者の?』
『読んで』
「表紙に……『記録者:軍医○○』とあります」
『患者じゃなくて医者の?』
『内部告発?』
『これは貴重』
「『昭和20年3月。
上からの命令により、特殊処置を開始。
患者への説明は禁じられている』」
(霧切の声が少し震える)
「『3月15日。
実験は順調だが、患者の症状は改善せず。
むしろ悪化している者も』」
『やっぱり実験』
『医者も分かってた!』
『止められなかったのか……』
「『4月1日。
もう、これは医療ではない。
だが、従うしかない。
戦争が終われば――』」
(ページが破れている)
「……ここで、終わってます」
『その後は?』
『医者はどうなった?!』
『隠蔽された?』
(霧切、こめかみを押さえる)
「……少し、頭が痛いです」
『大丈夫?』
『無理すんな!』
『いや続けろ!!』
「大丈夫です。続けます」
(だが、歩き方が少し不安定になる)
『顔色悪いぞ!!』
『声震えてる……大丈夫?霧切さん?』
『無理してるな』
(手術室の奥、壁に手をつく)
「……耳鳴りもします」
『休憩した方がいい』
『限界では?』
『まだ行くのか?』
『怖えから、逃げるための演技か?』
「いえ、まだ……記録を残さないと」
(カメラが少し揺れる)
『カメラ揺れてる』
『手震えてる?』
『本当に大丈夫?』
『そろそろ、逃げ帰るんじゃね?www』
『スパチャ投げるから、もう少しがんばれ!!』
【視聴中:1,423人】
(霧切、カメラを見る)
「コメント欄、見えてます。
……心配してくれる方、ありがとうございます」
(少し間を置く)
「煽ってる方も、分かってます。
正直、怖いです。頭も痛い」
『確かに、怖えしメンタルやられるだろ』
『無理しないで……』
『俺たちが見てるから、心配すんな!!』
「でも、ここまで記録したなら、
最後まで残します」
『プロだな!応援するぜ!!』
『さすが!!』
『でも無理は…』
『お前は勇者だ!!行け!』
「これは……記録者としての、
僕なりの誠実さです」
「手術室の確認は終わりました。
次は……霊安室です」
『まだ行くの?』
『体調ヤバいのに?』
『がんばれ!!記録残せ!!』
『お前は伝説になるぞ!!』
『霊安室とかwめちゃくちゃヤベぇ!!』
(霧切、手術室のドアを出る)
「廊下の奥に、『霊安室』と書いてあります」
(足取りが少し重い)
「では、行きます」
【視聴中:1,423人】
『1,400人超えた!!やったぜ!霧切!!』
『お前は伝説の配信者になる!!』
『記録残せたら、お前有名になれるぞ!!』
『気をつけて!!』
――配信継続。
地下・手術室(23:30-00:10)
・開始:856人
・最高:1,423人
・視聴中 : 1,356人
・※「地下の手術室」がトレンド入り
【主なコメント】
【善意派】
無理しないで
体調優先して
命の方が大事
【煽り派】
は?ここまで来て?
チキンすぎwww
フォロワー50人の分際で
ビビってんじゃねーよ
逃げたら一生ネタにするわ
【野次馬派】
記録残せ
保存した
これは伝説になる
後で動画にまとめる




