圧制を敷く異能強者に対して異能弱者が逆転無双する。
「今日から俺は、フォーステリトリーか」
俺は29歳の男。名は上之 仗という。そんでもって、定期ステータス更新のために朝からわざわざ管理塔まで来た後。
今まで俺は管理塔の検査員から不明確な存在で物珍しく思われたことで特例で優遇を受け悠々自適に暮らせていた。
「名残惜しいな。次はいつピザが食べられるだろうか」
管理塔から私物をほとんど没収された。今はキャリーバックとバックパックに入る程度の荷物しか所持を許されていない。
そして。
「ここが今日から住む、俺の家か」
そこには二階建てのボロアパートがあるのだった。
ここまで車で送ってきたくれた、検査員が言う。
「じゃあな、劣等種。せいぜいあがきな」
「ははは」
俺の乾いた笑いがボロアパート前で響いた。
検査員の態度の手のひら返しが妙に効いた。
◇◆◇
次の日の夕方。
ドガーン!! バキバキ!! きゃっきゃ。
閉じた窓越しに外から声や怒号が聞こえる。この家は遮音機能が弱いらしい。
声の主はこの家の近くのパワーテリトリーの高校の学生達だろう。
おそらく校庭で異能を用いた戦闘訓練をしている。
何かが大きな音を立ててぶつかる音、青年たちの黄色い声、教師らしき女性の悲鳴。
ところでこの世界には17段階のテリトリーレベルという種族の概念がある。そこでは1~8のパワーテリトリーレベルか9~17のフォーステリトリーレベルとして分けられる。若い数字ほど、強力な異能力者であることを意味する。
今まで俺はテリトリーレベルが不明だがテリトリーがパワーテリトリーだった。今はテリトリーレベルが不明なフォーステリトリー。レベルが不明なのは変わりないがテリトリーがフォーステリトリー――いわゆる劣等種。差別や偏見に加えて生活に管理塔から制限を受け異能力も弱い、生きずらい存在だ。
一方、パワーテリトリーはいわゆる優等種で、管理塔から彼らは己の異能力の有益な価値を認められ優遇されている、ざっくり言うと彼らには未来がある。またなぜテリトリーの違いで優遇されたり制限を受けなくちゃいけないのかは……この手の疑問を持っていると管理塔から言論統制とか義務教育をさせられるので、うかつにこういうことをあんまり言うべきではない……。
「大変そうだなぁ」
もっとも俺がこれからどうやって生計を立てるかのほうが大変な問題だった。
「俺があのパワーテリトリーの教師だった頃は良かったな。彼らは今も元気にしているだろうか。
「止めてー!! 体育倉庫めちゃくちゃにしないでー!! 私怒られちゃうからー!!」
「きゃっきゃ!」
俺が受け持っていた生徒と女性教師が元気に黄色い声を上げていた。
そのへんにしといてやってくれ。女性教師がかわいそうだ。
四畳半のボロ部屋であぐらをかきつつ、外から聞こえる怒号と悲鳴をBGMにしつつ、俺は今後の生計をどのようにたてるか思考を巡らせた。
◇◆◇
引っ越してから二日目。
「とりあえず、強奪しかないな」
結論が出た。フォーステリトリーに降格してから教師をクビになり、数日分の食料しかない状態で、半ば路頭に迷っていたが、色々と我慢ならなかった。
「管理塔め……パワーテリトリーだったころは良くしてもらったが、今のこの処遇は許せないな。というか、管理塔の采配で俺の処遇の是非が決まることが気に食わん。何様のつもりだ」
よくわからない怒りに燃えていた。カルシウム不足なのかもしれない。
「そうと決まれば、仲間を集めないとな」
俺は立ち上がり四畳半から外に出てすぐお隣さんの家のインターホンを押した。
「はい?」
柔和な感じ女性が出てくる。
「あの~ ちょっとテッペン獲りに行きませんか?」
「はい!?」
「あ、すいません間違えました。ちょっと管理塔を倒しに行きませんか?」
「はいぃ!?」
こうしてなんだかんだあってフォーステリトリーの柔和さんが仲間になった。それから手当たり次第に声をかけ仲間を増やした。
俺は集まった仲間に向かって再度言う。
「手始めに朱団高校のパワーテリトリー生徒を取り込もうぜ!」
朱団高校とはフォーステリトリーのボロ四畳半に引っ越した次の日に、外から窓越しに黄色い声を届けてきた元凶だ。ここを崩すことで、数年単位の資源が手に入るし、そこのパワーテリトリーを一時的にでもダウンさせられれば、管理塔に一石を投じることにつながって俺の溜飲が下がるし、女性教師をいじめる彼らから彼女を解放することができる。
「決戦の日が楽しみだぜ」
◇◆◇
俺の異能。それは他者の異能を強化弱体化ないしランダムで制限する能力だ。
前者の弱体化と後者のランダム異能制限の異能のおかげで以前担当していたクラスの生徒の異能を制限して彼らの野放図な異能の使いをある程度抑えられていた。
そして今回の決戦。
というか強襲と制圧だがこの時は異能をフル活用して臨んだ。こうして難なく、朱団高校を管理下に置くことに成功した。
◇◆◇
柔和さんが言う。
「朱団高校、奪取できちゃましたね。まさか本当にやるとは……それに、あの戦況を鑑みてどこに何の異能を使うか瞬時に割り振る姿、まさに神業でとってもかっこ良かったですよ!」
「教師をやっていたら誰でもできる」
「そうかな~?」
俺はおもむろに跳躍して、校舎の外に掲げられた朱団高校の校旗を引きちぎる。
「この校舎は我々のものだ!」
歓声が上がる。
「我々は管理塔を討伐して制限を破壊する!」
再度歓声が上がる。
「我々の名は、力の旋律だ!」
世界の支配者を打倒する戦いは、まだ始まったばかりだ。
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