第3話 この調子ならば、どんどん強くなれる気がしますわ
周囲を観察しながら、私はぷにぷにと前進しておりました。幸い、今のところ敵対するモンスターは姿を見せませんわ。このダンジョン、整然としている割には随分と静かで、モンスターがいる気配すらしませんの。
(ふむ、まさかモンスターも私を恐れて姿を隠しているのかしら?)
そんなことはないと分かっていますけれど、何もいない静けさがかえって落ち着かないものですわね。それでも、この異様な空間を抜け出すために、ひたすら前に進むしかありませんのよ。
と、突然床に何か違和感を感じましたの。下に広がる模様――ええと、まさかこれ、魔法陣ではありませんこと?
(これは……何かの罠かしら?)
一瞬ためらいましたけれど、気が付いたときには既に遅く、魔法陣が青白い光を放ち始めましたの。
(きゃっ!)
私の体――このスライムの姿ごと、ふわりと浮かび上がり、次の瞬間には眩い光が視界を埋め尽くしました。
……どれくらい時間が経ったのかしら? 気が付くと、私は別の場所に転移していましたの。
(ここは……!)
目の前に広がるのは、岩肌むき出しの粗雑な洞窟。先ほどの整然としたダンジョンとは打って変わって、荒々しい自然の空間が広がっていますわ。足元には土や砂利が散らばり、壁にはひび割れた岩石が剥き出しのまま。天井には湿った苔のようなものが生えています。
この場所、見覚えがありますわ。
(そうですわ、これは……かつて私が挑戦した初級ダンジョンの入り口にそっくりですわね!)
まだ学院に通っていた頃、冒険者志願の貴族たちが実技訓練で訪れるような場所。それほど危険ではないものの、初心者には手応えがある、いわば訓練用のダンジョンですわね。
(ふふっ、これならば安心ですわ。)
その頃の私には余裕で突破できる場所でしたし、今のこのスライムの姿でも、ここならば弱いモンスターしか出てこないはずですわ。きっと危険はありませんことよ。
(さあ、ここからが本番ですわね。この洞窟の奥には、何かしら面白いものがあるに違いありませんわ!)
*
洞窟の中を進んでいると、ふと気が付きましたの。壁際に何か小さな動きが――あら、あれは虫ではありませんこと?
そう、岩肌にしがみついているのは、巨大なムカデのような生き物。大きさは人の手のひらほどもあり、足をカサカサと動かしてこちらに向かってきましたわ。
(……ふむ、これは試してみる価値がありますわね。)
スライムとしての体を持つ私にとって、今や何かを“食べる”という行為は非常にシンプルですの。柔らかい体を伸ばして、目の前の物体を包み込むだけ――ほら、あっという間にそのムカデも私の中に取り込まれてしまいましたわ!
(……これで終わり? なんだか味気ありませんことね。)
私の体内に取り込まれたムカデは、まるで溶けていくように形を失い、完全に消化されていきました。その瞬間、頭の中に新しい感覚が生まれましたの。
スキルを獲得しました!
【毒耐性(小)】:弱い毒に耐性を持つ。
【足音感知】:近くを歩く生物の足音を感知できる。
(まあ、これは面白いですわね!)
このスライムの体には、どうやら取り込んだものから能力を得る特性があるようですのね。ムカデ程度でこれならば、もっと強い生き物を吸収すれば、より強力なスキルが手に入りそうですわ!
さらに、何かが変わったような気がしましたの。体の内部が微かに暖かくなり、力が湧いてくる感覚――これ、もしかして成長というものではありませんこと?
念のため、再びステータスを確認してみますわね。
名前:シャルロッテ・フォン・アストリア
種族:スライム
レベル:1
ステータス:
HP:12(+2)
MP:6(+1)
攻撃力:4(+1)
防御力:3(+1)
素早さ:6(+1)
魔力:5(+1)
スキル:
【跳ねる】
【吸収】
【自己再生】
【毒耐性(小)】
【足音感知】
称号:世界を渡りしもの
(ふふっ、これで私も少しだけ強くなりましたわね!)
たった一匹のムカデを取り込んだだけで、このように成長するとは……スライムの可能性、思った以上に侮れませんこと! 称号【世界を渡りしもの】の恩恵もあるのでしょうけれど、この調子ならば、どんどん強くなれる気がしますわ。
(さあ、次はどんなスキルを手に入れるのかしら? 楽しみですわね!)
私は勢いを増して洞窟の奥へと進むことにしましたの。スライムの私が、どこまで強くなれるのか――その限界を見極めるのが、今から楽しみでなりませんわ!




