第2話 どこまで進化できるのか――試して差し上げますわよ!
(ええと、こういうときは……自分のステータスを確認するのが冒険者のお約束、というものですわよね?)
スライムに転生したと気づいた私ですが、そこは前向きな性格が幸いしましたわ。まずは現状を冷静に把握することが重要ですもの。体に意識を集中させると、ふわりと目の前に透き通った光のパネルが現れました。これは便利ですわね!
名前:シャルロッテ・フォン・アストリア
種族:スライム
レベル:1
ステータス:
HP:10
MP:5
攻撃力:3
防御力:2
素早さ:5
魔力:4
スキル:
【跳ねる】(小さく跳躍し、移動できる基本スキル)
【吸収】(目の前の小物を体内に取り込む能力。ただし、弱い物しか吸収できない)
【自己再生】(ダメージを少しずつ回復する能力)
称号:【世界を渡りしもの】
効果:すべてのレベル、ステータス、スキルの上限を無制限に解放する。
(……しょぼいステータスですわね。)
私の感想はそれに尽きましたわ。ステータスはあまりにも貧弱。攻撃力3って、一体何を殴れば倒せますの? これでは野良犬にでも出会ったら一撃でやられそうですわ! スキルも、どれも平凡で目を見張るものはありませんの。
ですが、称号が目に入った瞬間、私は期待で胸が膨らみましたの――まあ、スライムですので胸などありませんけれども!
(世界を渡りしもの……素敵な響きではありませんの! 上限解放ですって? つまり、どこまでも強くなれる可能性がある、ということですわね!)
現状がどれほど弱々しくても、私は諦めませんわ。むしろ、これ以上下がりようがないということは、上がるだけ! いかにも私らしいポジティブな見解ですことよ。
(ふふっ、面白くなってきましたわ。では、このスライムの体でどこまで進化できるのか――試して差し上げますわよ!)
ぷにゅん、と体を跳ねさせ、私はこの奇妙な空間を進み始めましたの。弱くても、私の優雅さは失われませんわ。むしろ、この状況だからこそ輝くのですもの!
*
そこは妙に整然とした空間でしたわ。まず目に飛び込んできたのは、青白く光る金属の壁。ツルツルと滑らかで、どこか機械的な印象を受けますの。壁面にはところどころに線状の模様が走っておりまして、それが淡く光を放っておりました。これがダンジョンの自然な装飾とは思えませんわね。
床は、また別の素材のようで、石畳のような質感があるものの、不思議と足音――いえ、ぷにぷにとした私の体が這いずる音も吸い込まれてしまうような静けさがありましたわ。
(これは……少し変わっていますわね。)
かつて私が行ったことのあるダンジョンを思い出しましたわ。それは険しい岩肌に囲まれた荒々しい空間で、湿気や土の匂いが漂う、いかにも冒険者向けの場所でしたのよ。でも、ここはまるで違いますわ。
湿っぽい空気はなく、どちらかというと涼しいくらいの快適さ。空間にはかすかに漂う機械油のような匂いがして、自然というより人工的な感じが強いですの。それに、この青白い光――まるで近代の魔術工学で造られた設備のように感じますわね。
ダンジョン内には所々に立方体のような形状をした不思議なオブジェが置かれておりまして、それが弱い音を立てて振動しているのが目に留まりましたわ。触れてみたい気持ちもありましたけれど、今の私が不用意に近づくのは危険ですもの。慎重に観察するに限りますわね。
それに、迷路のように入り組んだ通路の構造も独特ですの。私が知っているダンジョンの通路は、もっと粗雑で、迷わせるために作られた自然そのものという感じでしたけれど、ここはあまりにも規則的。直線が多く、ところどころで曲がる箇所もきれいに角度が整っていますわ。まるで誰かがデザインして作り上げたかのようですわね。
(ふふっ、興味深いですわ。こういうダンジョンがあるなんて聞いたことありませんわ。)
私はぷにぷにと跳ねながら、じっくりとこの場所を探っていきます。未知の空間に足を踏み入れるというのは、冒険者にとっての醍醐味……いえ、私にとっても非常に新鮮な体験ですもの!
……ただ、このスライムの体でどれだけこの場所に挑めるのかしら? そんな一抹の不安を胸に抱えつつも、私は前進することをやめませんでしたの。