第10話 この遺跡、少し手を加えれば立派な観光地になりそうですわね
眩い光が収まり、私は新たな場所に転移していましたの。周囲を見回すと、今までのダンジョンとは明らかに違う雰囲気を感じましたわ。
(ここは……遺跡? いかにも冒険の舞台という感じではありませんこと?)
私がいるのは、古びた石造りの廊下。床には苔が生い茂り、壁には不気味な模様が彫り込まれておりますの。風化している部分も多く、ところどころ崩れ落ちた石材が散らばっていましたわ。その中には、古い壺や装飾品のようなものも転がっていますのよ。
(この遺跡、少し手を加えれば立派な観光地になりそうですわね。雰囲気は抜群ですもの)
天井は高く、微かな光が上部の隙間から差し込んでおりますわ。それが壁の苔に反射し、ぼんやりとした緑の光を空間に広げていました。まるでこの空間全体が息をしているかのような、不思議な静けさを感じますの。
(ふふっ、意外と落ち着く場所ですわね。こういう雰囲気、嫌いではありませんわ)
壁をよく見ると、いくつかの彫刻が目に留まりましたの。人間やモンスターのようなものが描かれているようですけれど、時間の経過と共に摩耗していて、細かい部分は判別できませんわね。それに、言葉のようなものも刻まれておりますけれど、残念ながら私には解読できませんの。
(まあ、言葉が分からなくても問題ありませんわ。私の目標はただ一つ――このダンジョンを攻略し、さらなる成長を遂げることですもの)
それにしても、この場所の静けさは不気味なほどですわ。先ほどまでのダンジョンでは、モンスターや物音が常にどこかで聞こえていましたけれど、ここはまるで時間が止まっているような感覚を覚えますの。
(何かが出てくる予感……ですわね。私を楽しませてくれる敵がいることを期待しますわ)
私は軽く跳ねて前進しながら、この空間をじっくりと観察していきましたの。床に散らばる瓦礫や壺を吸収してみましたけれど、特に目立ったスキルは得られませんでしたわ。ただ、僅かではありますが、吸収のたびに成長している感覚はありますの。
(ふふっ、この遺跡、どれほどの歴史があるのかしら? それに、この静けさの裏には何が潜んでいるのか――楽しみですわね)
遺跡独特の空気を楽しみながら、私は奥へと進み始めましたの。何が待ち受けているのか、それを確かめるのが楽しみですわ。
遺跡の廊下を進んでいくと、だんだんとその雰囲気が変わってきましたの。廊下の幅が広くなり、装飾も増えてきましたわ。床には幾何学模様のタイルが並び、壁の彫刻も複雑さを増しておりますの。
(ますます雰囲気が出てきましたわね。これほど壮麗な造り、かつてこの遺跡にはどれだけの富と技術が注がれていたのかしら)
ただ、崩壊が進んでいる箇所も目立ちますわ。大きな穴が空いている壁や、今にも崩れそうな天井。慎重に進まなければ、瓦礫の下敷きになりかねませんのよ。とはいえ、このスライムの体なら多少の瓦礫など問題にもなりませんけれど。
進むたびに周囲の静けさが増していくように感じますわ。耳を澄ましてみても、風の音すら聞こえませんの。それがかえって不気味で、何かが近づいてくるような錯覚を覚えましたの。
(ふふっ、緊張感が高まりますわね。次はどんな仕掛けがあるのかしら?)
そう思いながら歩を進めていると、不意に前方からわずかな音が聞こえましたわ。カリカリ、と何かが削れるような音ですの。その音に引き寄せられるように進んでいくと、広間のような空間に出ましたのよ。
広間はさらに立派な造りで、天井は驚くほど高く、中央には古代の祭壇のようなものが置かれていましたわ。その祭壇の周りを囲むように立ち並ぶ巨大な石像――いや、それらは動いていますの。
(あら、ガーゴイル……ですのね)
祭壇を守護するかのように動き回っているのは、石でできた魔物ガーゴイルたちでしたの。見た目は単なる石像のようですけれど、目には怪しく赤い光が宿り、翼を広げてゆっくりと空中を巡回していますわ。
(ふむ……これがこの部屋の仕掛け、というわけですのね)
ガーゴイルは私に気づいていない様子ですわ。どうやら、この祭壇に一定距離以上近づかなければ攻撃を仕掛けてこないようですの。
(ふふっ、随分と警戒されていますこと。でも、こうしているだけでは何も始まりませんわ)
私はその場で一度立ち止まり、周囲の状況を改めて観察しましたの。この部屋全体の構造、ガーゴイルの動き、そして祭壇の存在感――すべてが私を挑発しているようですわ。
(仕掛けを解けば先に進めるのでしょうけれど、あのガーゴイルを無視するのもつまらないですわね。どう料理して差し上げましょうかしら?)
そう考えながら、私はスライムの体を軽く跳ねさせましたの。次の行動を決める前に、少しだけ周囲を探りつつ、この部屋の全貌をもう少し把握してみることにしましたわ。何が仕掛けられているのか――その全てを解き明かしてから、動くのも悪くありませんものね。
(さて、祭壇を守るガーゴイルたち――少しは楽しませてくださるのでしょうね)
私はスライムの体を軽やかに跳ねさせ、祭壇へ向けて一歩一歩進んでいきましたわ。それに合わせて、ガーゴイルたちの目が赤く輝き始めますの。翼を広げて上空へ舞い上がり、鋭い爪と牙をむき出しにしながら、こちらを睨みつけていますのよ。
(ふふっ、威勢だけは立派ですわね。でも、その程度で私を止められるとでも?)
ガーゴイルの一体が鋭い叫び声を上げ、急降下してきましたわ。硬そうな体で私を叩き潰すつもりなのでしょうけれど、残念ですわね。このスライムの体には、そんな攻撃通じませんの。
砕けた石片が飛び散る中、ガーゴイルの攻撃は私の体に直撃しましたけれど――ぷにゅん、と音を立てて、ただ弾かれただけでしたわ。
(あらあら、もう少し考えて攻撃なさったら?)
ガーゴイルは驚いたように空中で体勢を整え、再びこちらを攻撃しようとしていますの。でも、次は私から仕掛ける番ですわよ。
私は体を大きく膨らませ、跳ねるスキルを発動しましたの。床を強く蹴り飛ばし、一気に空中へと飛び上がります。そして、最初に突っ込んできたガーゴイルの脚に絡みつき、そのまま包み込みましたわ。
(さようなら。あなたも私の糧になりなさいませ)
スライムの体でガーゴイルを完全に覆い尽くし、【吸収】スキルを発動。硬そうに見えたその体も、私の能力の前ではただの石ころ同然ですわ。もがいていたガーゴイルはすぐに動きを止め、その姿は完全に私の中へと取り込まれましたの。
その瞬間、体に新たな力が流れ込んできますわ。
スキルを獲得しました!
【石の翼】:石のように硬い翼を展開し、飛行能力を得るスキル。
【強靭化】:防御力を大幅に上昇させるスキル。
(まあ、悪くありませんわね。ですが、まだ残りのガーゴイルたちがいますもの)
残ったガーゴイルたちも、次々と攻撃を仕掛けてきますの。でも、すでに結果は見えていますわ。私は飛び回る彼らを次々と吸収し、そのたびに新しいスキルとエネルギーを得ていきましたのよ。
気がつけば、祭壇を守るガーゴイルはすべて消え去り、部屋には私一人――いえ、一匹だけが残っておりましたの。
(ふふっ、掃除完了ですわね。さあ、次は祭壇の仕掛けを解くとしましょうか)
私は祭壇の上に跳び乗り、そこに置かれた古びた宝珠のようなものに触れてみましたわ。すると、宝珠が淡く輝き始め、部屋全体に響くような音と共に扉が開きましたの。
(やっぱりこういう仕掛けでしたのね。でも……宝珠そのものもいただいてしまいましょう)
私は宝珠ごと祭壇を吸収し、その中に秘められていたエネルギーをすべて取り込みましたわ。体に満ちる力がさらに私を強化しているのがはっきりと分かりますの。
スキルを獲得しました!
【光の加護】:攻撃力と防御力を僅かに強化し、闇属性の攻撃を軽減するスキル。
(これでまた一段と強くなりましたわね。次のダンジョンでも、どんな相手が来ても負ける気がしませんわ)
開いた扉の向こうには、新たな道が続いていますの。私はぷにゅん、と軽く跳ねて、その先へ進むことにしましたわ。さらなる力と冒険を求めて――私の旅は、まだ始まったばかりですのよ!




