098.特集記事「エリザベス・クロフォードの非道な魔術実験」
カリストリア聖王国通信社 特集記事
【エリザベス・クロフォードの非道な実験行為が明るみに】
カリストリア聖王国で「魔術技師」として、現王カスパール・マクシミリウス・カリストリア陛下の直轄命令組織の統括管理をしているエリザベス・クロフォード氏が、非道極まりない魔術実験を行っていたことが内部告発によって明らかになった。
彼女は、自身の研究施設で主に孤児を実験対象として扱い、人体に魔術式を刻み込む残酷な実験を繰り返していたという。
「新たな魔術と人体の可能性を探る」という名目で行われたそれらの実験は、被験者に計り知れない痛みと恐怖を与え、肉体と精神を破壊していった。
これが魔術研究と呼べるものだろうか。決して許されるべき行為ではない。
さらに、この事実を追及していたクロニクル・トレイルの記者二名が投身自殺という形で不審な死を遂げている。
彼らは真実を追い求めた結果、命を落とした。正義感と報道の矜持を持って取材を続けていた彼らが、自ら命を絶つはずがない。
言論を封じる圧力が背後に存在する可能性を強く疑わざるを得ない。
倫理を無視した魔術実験と記者の不審な死――。
二つの事件の裏に潜む真実を暴くために、カリストリア聖王国通信社は徹底的に追及する覚悟だ。
これは単なるスキャンダルではない。
命を奪い、言論を封じる闇を白日の下にさらすための戦いである。
《エリザベス・クロフォードの非道な魔術実験》
王直轄の謎の研究者――エリザベス・クロフォード。
その存在は、ごく一部の上層部にしか知られていなかった。公には名前も知られておらず、どんな研究をしているのかすら一切明かされていなかった。しかし、その謎めいた存在の裏で行われていたのは、非道極まりない魔術実験だった。
エリザベスは王直轄の研究施設を与えられ、孤児を実験材料として人体実験を行っていた。
被験者たちは人間としての尊厳を奪われ、魔術式を直接体に焼き入れられた。強制的にマナを魔術式に流し込むために、肉体に直接短槍を突き立てられるよう、不死の魔術式なるものを腹腔内に刻み込む残忍な施術まで、本人の意思とは無関係に実施された。
聖王国民の目の届かない場所で「新たな魔術と人体の可能性を探る」という名目のもと、倫理も良心もない実験が繰り返されていた。
魔術式の直接刻印――。
これは、通常の魔術とは異なり、人間の身体に直接魔術式を焼き入れるという禁忌の手法だ。その過程で苦痛を緩和する技術は用いられない。被験者には激しい痛みと苦しみが伴い、精神は強烈な苦痛に苛まれ続ける。
被験者の一人は、「自分の体が自分のものではなくなるような、苦痛でしかない時間だった」と絶望を語っている。
また、不死の魔術式によって、被験者には不死性が与えられた。
しかし、それは祝福でも奇跡でもなく、終わりのない苦痛を意味していた。被験者たちは身体を切り刻まれても、皮膚を焼かれても、死ぬことができない。閉鎖された空間で実験材料として扱われ続け、元の生活に戻ることは許されなかった。
幼少期から終わらない拷問を受け続ける子どもたちは、無垢な人間らしさを奪われ、「実験体」という烙印を押された存在だった。
カリストリア聖王国通信社は、今回の特集でエリザベス・クロフォードによる非道な実験の被験者たちの映写魔法による映像を掲載している。これらの映写像は、実験から数年が経過した現在の被験者たちの姿を捉えたものである。以下の映写像とともにその実態を掲載する。
映写像:右目の眼球とその周囲に魔術式を刻まれている男性
▼彼は視力向上の実験として拷問のような施術を受けた。一見すると健康そうな様子だが、彼の内面には実験の後遺症が深く刻まれている。
映写像:鎖骨から下の全身に魔術式を刻まれている女性の背中
▼彼女がエリザベスから施術を受けたのは六歳の頃だという。ほとんど忘れたと語るが、彼女の指先まで刻まれた凹凸のある魔術式は、彼女の過去を物語っている。
映写像:長い髪を二つに結った女性の後頭部
▼彼女はまだ十六歳。魔術実験の影響により、髪の毛が真っ白になってしまったと語る。これは多大な精神的負荷によるものなのか、あるいは――。
エリザベス・クロフォードが行ったのは「魔術の研究」などではない。人間の尊厳を奪い、終わらない痛みと孤独を与える拷問であり、人間を道具にする悪魔の所業だ。
このような行為が許されるはずがない。エリザベス・クロフォードが行った魔術実験の全貌を暴き、断罪することこそが、我々の使命である。これを見逃すことは、人間の尊厳を否定することに他ならない。
《告発者の証言と証拠》
エリザベス・クロフォードの非道な魔術実験を告発したのは、元研究員であり、彼女の実験に直接関与していた人物だった。彼は良心の呵責に耐えきれず、命の危険を承知で告発に踏み切ったという。
「エリザベスは、実験の成功よりも自分の好奇心を満たすことを優先していた」
「被験者たちは人間ではなく、道具として扱われていた」
「失敗作は殺処分され、成功作は閉じ込められていた」
彼は震える声でそう語った。その目には後悔と恐怖が滲んでいた。
「あれは研究じゃない。拷問だ」
「数年後、彼女の意に反する状況に陥った結果、自分も被験者にされた」
そう語る彼の左太腿には、縦一線に走る生々しい魔術実験の跡が残されていた。
彼の生々しい証言は、エリザベスの冷酷非道な本性を暴き出している。エリザベスは自らの権威を利用して恐怖で支配し、誰も逆らえない状況を作り上げていた。
《被験者たちが語る、終わらない実験の記憶》
「逃げることは許されなかった」
そう語るのは、数年前にエリザベス・クロフォードの実験を受けた被験者のひとりである。
彼女が施術を受けたのは、まだ六歳の頃だった。今ではほとんど当時の記憶はないと話すが、指先にまで刻まれた凹凸のある魔術式が、その過去を否応なく物語っている。
本紙は、被験者たちの証言をもとに、当時の状況を再構成した。彼らがどれほどの恐怖と苦痛の中にいたのか、その言葉からは想像を絶する現実が浮かび上がる。
「痛いからもう嫌だと思っても勝手に傷が治ってしまう」「死ぬことすらままならない」「体は生きているのに、心は死んだままのような気分だ」
彼らの証言は、年月が経過した今も変わらず、エリザベスの非道な実験の痕跡を明確に示している。かつて彼らの体に刻まれた魔術式は、未だに消えることなくそこに残り続けている。
「当時、助けてほしいと何度も思った。でも、どうせ誰も助けてくれないから、自分達で逃げ出すしかなかったんだ」
この言葉を口にする被験者がいるという事実を、我々は決して軽視してはならない。エリザベス・クロフォードの実験は過去の出来事ではない。その影響は、今もなお彼らの中に、生々しく残り続けている。
本紙は、彼らの証言が風化することのないよう、今後も追及を続ける。
《物的証拠となるか? ――三十年前の発表論文》
カリストリア聖王国通信社は、魔術技師エリザベス・クロフォードの過去の研究に関する新たな資料を入手した。これは、三十年前に行われた最後の魔女集会で彼女が発表した論文の内容を含む記録であり、当時の魔術界においても異端とされ、研究そのものが封印された危険な実験に関するものである。
問題の論文では、新たな生命体の創造を目的とした実験が記されている。牛の胎内で犬を育てるという異常な試みが行われ、エリザベスはこの研究の成功を主張していた。だが、その結果生まれた生命体は、決して成功と呼べるものではなかった。
本紙が確認した記録によれば、エリザベスの論文には以下のような記述がある。
牛の胎内を魔術的な培養環境とし、異種間の生命を宿すことで、新たな生物の創造を試みる。魔術を用いた胚操作によって、胎児の成長過程を加速・変異させる。これによって、新たな生命体が誕生し、従来の動物とは異なる特性を持つ個体が生成される。
この研究の結果、実際に牛の胎内で育てられた犬が誕生したとされる。しかし、その犬の姿は明らかに異常であったとの記録が残っている。
二つの首を持ち、どちらの目も異様に赤く輝く。手足の先端は猿か人間のような形状をしており、骨格が奇妙に変形している。体内の臓器は過剰に増殖し、腹腔に収まりきらず、外に飛び出していた。地面を引きずりながら歩くその姿は、異形の極みであった。
この異形の生命体が魔女集会で披露された際、参加者たちは、冒涜的な研究としてエリザベスを糾弾した。魔術による生命操作がここまで踏み込んで良いものなのか――。
彼女の研究に対する疑問は、魔術界の倫理そのものに大きな波紋を広げることとなった。
この論文が発表された直後、魔女集会は事実上の解散を余儀なくされ、秘密裏の開催も禁じられることとなった。それほどまでに、エリザベスの研究が禁忌と見なされたのである。
また、記録によると、この異形の犬を安楽死させるために毒殺が試みられたが効果がなかったという。最終的には首を切断することでようやく処分されたとの記述が残されており、その異常な生命力や魔術による影響の不可解さについての言及もある。
今回発見された論文の内容は、エリザベス・クロフォードが三十年前から生命の魔術的改変に取り組んでいた証拠である。そして、これは彼女が後に行った人体実験の根幹にも通じる思想であると考えられる。
この論文の発表以降、エリザベスは公の場から姿を消し、秘密裏に研究を続けていた。その研究の最終的な行き着く先が、人体への魔術式刻印、不死の魔術式、そして被験者たちに施された数々の拷問的施術だったのではないか――。
そう考えると、この論文が意味するものは、単なる過去の研究では済まされない。
エリザベスの研究は倫理と魔術の限界を超えた禁忌の領域に踏み込んでいた。それは魔術の進歩ではなく、人間の尊厳を踏みにじる狂気だったのではないか。
《クロニクル・トレイル記者の謎の投身自殺事件》
クロニクル・トレイル――。
オカルト雑誌の名を借りて、権力者の闇を暴く異端のメディア。エリザベス・クロフォードの非道な魔術実験を追い求めていた彼らが、不審な死を遂げた。自殺とされているが、あまりにも不自然な状況が浮かび上がっている。
「真実を追い求めていた記者が、自ら命を絶つはずがない」「どんな圧力にも屈しなかった」「彼らが逃げ出すなんて、考えられない」
それが、彼らを知る者たちの共通した証言だった。
だが、彼らは死んだ。オカルト雑誌クロニクル・トレイルの記者二名が、屋上から転落して死亡した。現場の状況から自殺と断定されたが、本当にそうだろうか?
彼らの最期の瞬間を映した映写像とエクリヴァムの記録が、事件の真相に新たな疑念を投げかけている。
クロニクル・トレイルの記者二名は、自らの死の瞬間を記録するよう、当紙の記者に映写魔法による撮影を依頼していた。これにより、屋上から転落する瞬間が克明に記録された。
映写像:男性二名が肩を組んだまま、背中から落下する瞬間。顔は空を向いており見えない。
▼彼らは負傷した片方を庇いながら立ち上がり、エクリヴァムに自らの最期の言葉の記録を取り、最期には燃え盛るクロニクル・トレイル編集部のある建物から落下した。
掲載してる映写像では、二人が自らの意志で転落したように見える。だが、その直前に彼らが口にした言葉が違和感を与えていた。
A氏「俺たちは、裏に隠された、化け物の素顔を暴こうとした。偽りだらけの舞台で、踊らされるのはいつだって民衆だ。この国を蝕む化け物どもは、その裏に潜む犠牲者を隠してやがったんだ。俺たちが暴いたのは、魔術実験の被害者だ。そして、それを隠蔽するために、俺たちは消されることになったらしい。今逃走したところで、数日ばかりの延命しか出来ない。だったら、俺たちは、俺たちの死をもってこの真実を伝える。権力に媚びず、支配に屈せず、真実を伝える。それが、俺たちの最後の誇りだ。俺たちの死によって、それが誰かに届くなら、それでいい」
B氏「それがこの国にとっては都合が悪かった。だから、私たちは異端者にされ、消される運命になった。軍防卿ガルヴェインは直接、査問の為の拘束をすると、我々の編集部に襲撃に来たのだ。これはジャーナリズムの死と言っても過言ではない。権力が、武力で報道を潰しに来たのだ。私たちは知ってしまった。沈黙を選ぶことはできなかった。記者として、知らない振りをして生きることは、できなかったのだ。願わくば、私たちの死が、誰かの怒りに火を点けることができますように」
彼らは自ら命を絶つ決断をしたのだ。
しかし、それは追い詰められた末の選択であり、自殺という言葉で片付けられるものではなかった。
「消されるくらいなら、自ら命を絶つ」――。
それが彼らの最期の抵抗だった。
《軍防卿の関与と不可解な死》
クロニクル・トレイルの記者二名が転落死する直前、軍防卿ガルヴェイン・ストラグナーがクロニクル・トレイル社に乗り込み、記者たちを捕縛しようとした。しかし、クロニクル・トレイル側の抵抗に遭い、捕縛は失敗。その直後、記者二名が屋上から転落して死亡した。なお、異端罪が正式に宣告されたかどうかは不明であるが、軍防卿が捕縛に来ていたことは明らかである。
さらに不可解なことがある。
軍防卿は、事件後、現場で首を切断された状態で発見された。その死因は依然として不明である。
この不可解な連鎖――。
軍防卿の死は、偶然なのか? 記者の転落死との関連は? エリザベス・クロフォードの実験を隠すための口封じではないのか?
自殺と断定された二名の死――。
しかし、彼らの最期の言葉には明確な意思が残されている。これは単なる自殺ではない。
自殺と片付けるのは容易だ。
だが、彼らが死を選ばなければならなかった理由を忘れてはならない。
彼らの死は、真実を暴こうとした者への脅しではないのか? 権力者たちは、真実を隠すために命を奪ったのではないか?
《編集後記――事件の終わりではなく、始まりとして》
エリザベス・クロフォードが行ったのは、魔術研究などではない。人間の尊厳を踏みにじり、幼い命を実験材料として扱い、終わりのない苦痛を与え続ける拷問である。このような行為が正当化されるはずがない。しかし、彼女の研究は決して密室の中で完結したものではない。彼女に研究の場を与えた者がいる。彼女の実験を黙認し、あるいは利用しようとした者がいる。軍防卿の死、クロニクル・トレイル記者の投身自殺、そして沈黙を続ける王国――。
この事件の背後に潜む闇は、決してエリザベス一人の暴走で片付けられるものではない。
果たして、エリザベス・クロフォードの断罪だけで、この問題は解決するのか。彼女の処罰によって、王国は本当に正義を取り戻したことになるのか。
カリストリア聖王国通信社は、エリザベス・クロフォードの罪を暴くだけでは終わらない。
彼女を生み出したこの国の構造、彼女を利用しようとした者たち、そして今もなお隠蔽を続ける権力者たち――。
そのすべてを白日の下に晒すまで、本紙の追及は終わらない。
この問題は、一人の魔術技師の罪で終わる話ではない。これは、この王国がどうあるべきかを問う戦いである。
カリストリア聖王国通信社は、真実を求めるすべての人々とともに、この闇を暴き続ける。




