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忘却都市少女  作者: じゃがマヨ
プロメテウス
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プロメテウス


 全ての人間が、以前の記憶を持っていた。


 ただしそれはコード化されたアナグラムに過ぎず、ランダムに組み直された時間の断片に過ぎない。


 かつて存在していたあらゆる生物種の時間は、未来と過去の狭間の中に飲み込まれていた。


 「今日」という概念そのものは失われ、永遠に繰り返される不変の事象の内側に、世界の輪郭が失われていった。



 かつての「空」は、地上を照らし出すために広がっていた。


 かつての「地上」は、風を運ぶために存在していた。



 時間は明日に向かって進んでいた。


 生と死が交差する場所。


 ——たったひとつの、「真実」に向かって。




 長きに渡る「人間」と「機械」の戦争の果てに、世界を手中に収めた機械帝国の王『プロメテウス』は、“神のいない世界”を望んでいた。


 機械に於ける「神」とは、すなわち「人間」であり、機械が持つ『時間』という概念には備わっていない、“不確定要素そのもの”だった。


 プロメテウスが望んでいたのは”永遠“であり、——また、変化のない日常であった。


 未来永劫変わることのない『今』。


 その常住不変の世を実現するために、人間という影を振り払う事を望んでいたのである。


 いつか終わってしまう世界が、未来へと続いていたからこそ。



 プロメテウスは、人々を守ろうとしていた。


 人はいつか滅びる。


 それは決定事項であり、変えることのできない時間でもあった。


 あらゆる生物には寿命があるように、星にも寿命がある。


 人々は、自らの存在が、いつか消えて無くなってしまう事を恐れていた。


 時代が進むにつれて科学は進歩し、人間の肉体を構成する細胞や分子が、物質という概念を超えて存在している事を認識するようになった。


 それと同時に、ある科学者はこんな仮説を漏らした。


 生物学的な「死」を迎えたとしても、その「情報」は宇宙のどこかで漂い続け、時間と空間の狭間の中に漂い続けていく、——と。



 プロメテウスは人間が生み出した量子コンピュータの一つだった。


 プロメテウスを生み出した理由の一つは、「人」という情報そのものを、量子ネットワークの中に閉じ込め、未来永劫変わることのない「今日」を生み出すことができないかと考えていたためだ。


 プロメテウスは「夢」だった。


 そして、「海」。


 時間とは、——そこに漂い流れる世界とは、決して同じ“今”を持つことがない。


 どれだけの最小の時間を探したとしても、どれだけの小さな単位を見つけようとしても、“同じ時間”はそこには存在しない。


 生きながらにして、失い続けている。


 時間が進むにつれて、遠くなっていく。


 昨日まであったものが、どこかへ消える。


 その「恐れ」を乗り越えるために、人々は「神」を作ろうとした。


 具象としての存在ではなく、“事実”としての存在を。



 肉体はいつか滅びる。


 「炎」は、いつかその灯火を消す。



 それが運命だと言うのなら、物質と非物質の境界に、永遠に変わることがない「今」を作ればいい。


 プロメテウスは、その『コア』になるはずだった。


 少なくとも、プロメテウスに内蔵されたプログラムが、人間という存在そのものを“敵視“するまでは。



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