8. 何処にでも面倒臭い奴はいるもので
けっこう早く家を出てきたと思っていたけれど、かなりの人が集まっていた広場。向こうの方では教会に入るための、小さな子達が並んでいる列と、その前の名前の確認の列ができている。
「今年はみんな、早く集まってるな」
「まさかもう並び始めているなんてな。俺達も急いで名前の確認だけでも済ませてしまおう」
「子供達が教会の中に入る方も列は、列が長く見えても案外早く入れるけれど。名前の確認は時間がかかるものね」
「あれ、もう少し何とかならないのかしらね。さぁ、みんな行きましょう」
名前の確認。今日儀式に出るこの確認をしないといけないからね。一応前に申請してあるんだけど、名前と歳がちゃんとあっているか、ちゃんともう1度確認するんだよ。
それから名簿に名前があるのに、来ていない子がいないかの確認も。別に儀式は5歳ならいつでもできるんだ。だけど人数が人数だからまとめてやった方が、教会の人間が楽だって事らしい。
楽ってそんな理由なのか? と初めて聞いた時はそう思った。だけど他の街の司教様の事は知らないけれど、この街の1番偉い司教様のことを知っていればなぁ。後でその理由はよく分かるはずだ。
と、話しは戻って、確認してそれでもし、名簿に名前がある子が来ていない場合は、教会の人がその子の家を訪ねて、来らい理由を確認。その日に具合が悪くなる子もいるからね。
いくら回復魔法を使って治しても。精神的に? ほら親の期待が強すぎると、それを感じとって具合が悪くなる子もいるらしいから。そういう子の両親には教会の人が注意、後でゆっくり儀式を行うんだ。
他にも来られない理由は色々あるみたいなんだけど、まぁ、ほとんどの子が参加するから、いつもあんまり問題にはならない。
「次の方!」
どれくらいの時間、名前確認の列に並んでいたか。カロリーナが並ぶのに飽き始めて、あっちへ行こうとしたり、そっとへ行こうとしたりと、暴れ始めそうになった頃。ようやく僕達家族の番が回ってきた。
「アーベル来たね、5歳おめでとう」
「ありがと、ございます!!」
名前の確認をしていたのは、僕達家族がよく知っている神父の1人、エマニエルさんだった。エマニエルさんはいつも、1番偉い司教様のアンドリューズ様に付いているのに、何でここで名前の確認をしているんだろう?
「何で名前の確認なんてしてるんだ?」
不思議に思ったのは僕だけじゃなかった。パパ達もそう思ったみたいで、エマニエルさんに質問をしたよ。
「頭に来たので、あとはお1人でどうぞ、と放ってきました。まぁ、あそこまで用意はしておいたので大丈夫でしょう。ナサニエルもいますし」
エマニエルさんはニコニコ笑って、そう言っていたけど。どう考えてもその笑顔は、笑顔の裏に怒りを含んでいる笑顔で。僕は思わずママの後ろに隠れる。こういう時のエマニエルさんはまずいんだよ。
「はははっ。おい、神に仕えていて、感情に振り回されずに、物事を進めないといけない者が、怒りに任せて仕事を放ってきて良いのか?」
「私の言うことを聞かないあの人など、恥をかけばいい」
「おいおい、今日は大事な儀式の日だぞ」
「分かっていますよ。ですからそちらではミスをしないよう、これから戻ってしっかりと見張ります。他の事で恥をかけばしい」
「そ、そうか。うん、儀式をしっかりとしてくれるのなら、こっちも文句はないからな」
パパが少し顔を引き攣らせながら話しを終わらせて、僕の名前の所とパパとママの名前の所のチェックを入れる。うん、あんまり今の話しは深く聞かない方が良いと思う。エマニエルさんの怒りを含んでいた笑顔が、迫力を増していたから。
本当にアンドリューズ様、何をしたんだ? 怒らせたらまずい人を、これだけ怒らせるなんて。きっと今日の儀式が終わった後は、教会の中の一部で嵐が吹き荒れるんだろうな。
こうして僕達の確認は終了。続いてのカロリーナ達の確認もすぐに終わって。名前の確認の時にもらったコサージュを胸につけて貰えば、これでとりあえずの準備は終了。コサージュは今日儀式を受ける子達が付けるんだよ。
準備は終わったから、今度は教会へ入る列へ並びに行こうとする僕達。儀式を受ける子はここで両親と別れて教会の中へ。教会の前の席の固まって座るようになっている。その後ろに両親や関係者が。
それで列に向かって歩き始めようとしたその時。面倒な家族に絡まれた。
「おやおや、誰かと思ったら、自分の本来の力に対して、授かった力が伴っていない。口ばかり達者のオーランド家とサムソン家じゃないか」
「あなた達も来たの? 能力が他人に知られるかもしれない、このような場には来ないで。隠れて儀式を受ければ良いものを」
「おまえ、きっとちからもらえないぞ!」
この失礼な家族。父親の名はバートン、母親の名はエリアナ、今日儀式を受ける5歳の子はジークと言って。この街でバートンは、そこそこの地位についている男だ。
街で何かあった時など、パパ達に命令する立場にあるんだけど。まぁ、性格の悪い一家で、いつもパパ達にいちゃもんを付けてきたり、今みたいに嫌味を言ってきたり。
それはパパ達にだけじゃなくて、自分の下にいる人達全員にこんな態度なもんだから。かなりの人達に嫌われている一家だ。特に酷いのがうちとカロリーナのところなんだけど。
何でこんな男が上に地位にいるのかと思ったら、バートンの曽祖父は、とても良い方だったのに、バートンの父親から、どもう周りを見下すようになったみたいで。それを息子のバートンも受け継いだと。
そんな物を受け継がなくても良いのに。それでその悪い物を、5歳の子供も引き継ごうとしているんだ。
こんなとっても素晴らしく、そして大切な日に、この家族に絡まれるなんて。今日は放っておいてくれれば良いのに。




