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最初の脱落者

 2013年3月。群馬県渋川市でLevel―Zは最後の活動を行っていた。

 ヨーロッパからやって来た豪華列車「オリエント急行」がC62蒸気機関車の3重連で運転される。これを撮影する事がLevel―Zの最後の活動だった。

 上越線の大正橋を行くオリエント急行を撮影し、皆が名残惜し気に撮影機材を片付けていた時、ミサカはこういった。

「いつか、俺達もSLを動かせないかな?」

 と。当時高校生だった皆はミサカの呟いた言葉に反応した。

「将来鉄道会社に就職すれば、機関士になれる可能性もあるぜ。」

 と、ツバサが言ったのを皮切りに皆で、

「鉄道会社に就職しよう。」

 と、夢を語りだした。渋川駅を発車するオリエント急行を見送ったミサカは、

「Level―Zは活動を休止する。しかし、必ず蘇らせる!蘇る時は、皆でSLを運転する時だ!」

 と言い、このときから皆で鉄道会社に入る事を目指して、それぞれの大学で努力を続けたが、いつの間にかこの事は忘れてしまい、皆散り散りになってしまった。だが、今ここにLevel―Zのメンバーが集結してSL機関士を目指している。これは皆で夢を叶えろと言う事ではないのだろうか?

 ツバサは妻の持田明里との電話の際、こんな事を言ってしまった。

 明里は電話の向こうで、

「ミサカ君に会った事は無いからどんな人かは分らない。でも、どんな事情があるにせよ、SL機関士募集に応募してきたということは、ミサカ君も夢を叶えようとしているってことじゃない?」

 と言った。

「そうだろうな。」

「でもツバサって不思議。昔の仲間と、思わぬ形で再会して新たな物語を作って行く。私も、まさかツバサと長野電鉄の駅で再会するとは思わなかった。あれが無かったら、今の私はいない。だからツバサは、昔の仲間と夢を叶える事も出来るよ。きっとね。遠くから見守っているよ。私と、お姉ちゃんと、美穂と、お腹の中の赤ちゃんと。」

 しなの鉄道からJR東日本に出向く時、明里は妊娠していた。妊娠している明里をそのままにしてSL機関士の資格を取得するために出向していいのだろうかと思ったツバサだったが、明里はツバサに、

「ツバサはツバサのやりたいことをやって。私は大丈夫だから。」

 と言い、ツバサを送り出した。

 それからも、授業は続きいよいよボイラー技士2級の試験だ。

 試験を受けた後、ミサカは廊下の隅で電話をしていた。 

「セイコ。どうしてもダメなのか?でも、俺は―。そんな―。俺の夢はどうなるんだ?」

 ツバサはそれを見つけて会話を聞いた。

 電話の相手はミサカの結婚相手のモデルのようだった。

 やはり、彼女と揉めていたようだった。

 ツバサに気付いたミサカは、

「ゴメン一旦切る。」

 と言って電話を切った。

「彼女と揉めているのか?」

「全部聞かれたな。そうだよ。彼女は俺と離れたくないという。せめて機関士の資格だけでもと言ったけど、聞く耳ねえや。」

「どうすんだ?」

「あいつのお父さんも反対しているらしい。」

「でも、資格だけは―。」

「それも無理だと。どうしようかね。」

 ミサカは項垂れた。

「お前にとって何が大切か。それが一番重要だと思う。夢か彼女か。しかし、これは究極の選択だな。」

「いや、もういい。」

「えっ?」

「もういい。今回はここまでさ。ボイラー技士2級取れたら、甲種蒸気機関車運転免許だけ取れればいいから、次の機会で―。」

「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!今回の試験はどうするんだ!」

 ツバサは怒鳴った。

「SL機関士の育成はまた募集がかかる。今回はいきなり過ぎた。だから反対されてんだ。でも、次の機会があったら、彼女を説得できる。」

「どうしてもダメなのか?それに、その「また募集がかかる」って保証はどこにあるんだ!?」

「可能性は0ではないだろ!俺は諦めない!絶対夢を叶える。」

 ミサカは言うがツバサは納得できなかった。

「お前はいい奴だ。積み上げてきた物を台無しにしていいのか?自分ならどうするか?って考えて、他人の事なのに親身になってくれる。どんな事でも相談に乗ってくれる。いい奴だ。お前のほうが俺より隊長に向いていたかもしれないな。」

 ミサカは笑った。

「セイコさんはどうしてお前をSL機関士にしたがらない?セイコさんにも話していたのだろ?」

 ツバサは聞く。

「彼女は笑って「いい夢だ」と言ってくれたが、いざSL機関士になるっていったら事情が変わってしまった。あいつはSL機関士になることで、俺が死んじまう事が怖いんだよ。」

「死ぬだと?何を言っているんだ?」

「お前、SLマニアなら知っているだろ?SLの煙の凄さ。碓氷峠を越えるSL機関士は、トンネルで煙を大量に吸い込んで死んじまった人が大勢いる。その他にも、国鉄時代のSL現役時代には、SLの煙で乗務員達や乗客は苦しんでいた時代があった。」

「そんなの分かって―。」

「ああ。だから俺は覚悟決めた。SL機関士になるからには、自分が死んじまう事もある。やるからには、命懸けでやろうって。だが彼女は、俺がSL機関士になったのは良いが、煙を吸い込んだり、釜の熱さでやられたりしてしまってダウンってなるのが怖いらしい。そして、そんな事を聞いているうちに俺も覚悟していたのに怖くなってしまった。」

 ツバサはこのとき、ミサカが何を言っているのか解らなかった。

 蒸気機関車の煙は、乗務員を苦しめた物だと聞いているし、それはツバサも解っていた。ミサカが言っている事は、こんな当たり前の事でSL機関士の道を諦めると言っているようなことである。

「俺は、結局臆病者だな。」

 ミサカは言った。

「ああ。臆病だよ。」

 ツバサは冷たく言ったが、この後、ミサカが言った言葉を嫌と言う程理解することになるとは、このときはまだ知る由もなかった。

 試験の結果、全員合格しミサシマとミナミニセコは大はしゃぎだったが、ミサカは悩んでいた。そしてミサカはこの日、辞退する決意を固め、SL機関士の道を断ってしまった。



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