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高崎の夏

 夏休みになると、ぐんま車両センターは物凄い熱気に包まれた。D51 の重連が、毎週のように上越線を駆け抜ける。

 大イベントの主役であるD51‐59を先頭にした重連になり、ツバサとミサシマはこれに乗務する。現在の電気機関車やディーゼル機関車には重連時に、一両で複数の機関車を統括制御出来る重連統括制御装置が搭載されているが、D51等が作られた時代に重連統括制御装置は開発されておらず、当然現在も搭載されていないため、各機関車に乗務員が乗り機関車を運転する。乗務員同士のやりとりは無線か汽笛で、蒸気機関車の場合は汽笛による合図でやり取りする。ぴったりと息が合わなければ重連は務まらない。特に、前補機が変な動きをすれば、前補機の操作は次位の本務機に筒抜けで本務機は迷惑を被る。国鉄時代、前補機に新人、本務機にベテランが勤務すると乗務が終わった後の休憩時間は「今日のここのカーブの時だがな―。」と、新人の説教の場になる事もあった。

 重連運転はこれで二度目のツバサだが、前補機は初めてだ。機関車に登るツバサの肩に力が入っていた。

 本務機に乗るベテラン機関士が、「肩の力を抜いていけ。」とツバサの肩を叩いた。ミサシマは、釜焚きを続けている。

「機関車の機嫌はいいぜ。いつでもどうぞ。」

 ミサシマが言った。もう一人の機関助手も、「いつでもいいぞ」と言った。

 本務機が転車台に乗り出庫線に向かう。ツバサに向かって出発合図が出た。

「ボオッ!」と、短い汽笛を鳴らし、出庫である。出庫線に出て本務機と連結すると、高崎駅に向かう。今日は高崎駅をC61が牽引する信越本線の「SL碓氷」と同時に発車する。同時発車した後は、しばらく併走するがここでは本務機との息を合わせる他に、併走するC61の速度に合わせなければ見栄えが無くなる。ツバサはプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

「お前なら出来るさ。」

 と、ミサシマが言う。

 発車時刻になった。

 ツバサが汽笛を鳴らし始めると同時にC61も汽笛を鳴らし始めた。汽笛は成功。問題はこれからだ。発車した時、D51重連はC61より僅かに出遅れた。

「無理に追いつこうとするな。」

 と、ベテラン機関助手が言う。C61は僅かに減速してD51と並んだ。短い併走区間を抜けると、ツバサは汽笛を二声鳴らした。本務機がそれに応えたのを確認すると、一気に加減弁を開いて、逆転機を回した。D51重連は加速を始めた。そして、最初の停車駅、新前橋に停車し、渋川で時間調整する。渋川での時間調整中、本務機のベテラン機関士は、

「見事だ。」

 と、ツバサに言った。

 渋川を出ると、水上までの上り勾配を一気に駆け抜けたら、水上駅で折り返す。

 高校時代、オリエント急行を牽引するC62蒸気機関車に魅せられ、蒸気機関車の機関士になりたいと願ったツバサが、本当に機関士になっている。叶わない夢だと思っていたツバサの夢が、本当に叶ってしまったのだ。

 そして今、ツバサが学生時代にC62重連オリエント急行を見た大正橋を通過する。

 併走する国道の橋の上には、大勢の人がカメラを構えて居た。その中に、学生時代のツバサのような人もいた。

(彼もまた、蒸気機関車に憧れを抱いてくれるだろうか?)

 と、ツバサは思った。

 激闘の末、無事にぐんま車両センターへ帰ってきた。最初のころは、機関車から降りる時にはフラフラになっていたツバサとミサシマだったが、今はそんなことは無くなっていた。

「今日の運転だが、文句はない。見事な運転だった。」

 本務機のベテラン機関士が笑って言った。

「やったな。」

 と、ミサシマは笑った。

「フッフハハハハハハハ!」

 ツバサも笑いだした。

「待ってろ明里、愛美子。帰ったら、びっくりさせてやるぜ。」

 と、ツバサは言い、笑い続けた。

 翌日から夏休み期間中はほぼ毎日のようにSL列車が上越線を駆け抜けた。平日はD51の単機、土日は重連でSLが上越線を駆け抜け、いよいよD51‐59の上越線の最終運転の日になった。

 この日に限り「SLみなかみ」という列車名の上越線のSL列車は「D51‐59の旅立ち号」と言う列車名になり、機関車はD51重連で運転された。

 この運転が無事に終わると、59号機は火を落とした。火を落とした状態で電気機関車に牽引されて長野へ行くのだ。

 ツバサとミサシマは、この時に一緒に連結されるSL伴走車に乗って長野に帰ることになっていて、二人はようやく帰り支度を始めたのだった。



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