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旅立ち

 春。ミナミツバサとミサシマヒタチは、JR東日本の研修を受けるため本来の職場を後に、福島へと向かった。

 大切な人と離れ離れになるが、夢の旅路へのスタートを切るためには行くしかなかった。

「JRの寮生活か。まあ仕方ねえな。」

「昔と違って、明里や美穂、姉ちゃんが相談にのってくれて、送り出してくれた。大学時代は相談できる奴はいなかったからな。」

 ツバサは大学時代、学校でいじめられた上それを相談しても分からず屋の親は聞く耳を持たず、自分で不満を解消するために奮闘するが、それを馬鹿にするような事を言われ、相談にすら乗らなかった。上手くいかない現実が嫌になった上、就職内定を貰えたJR東日本のストライキ、会社全体でのずさんな安全管理、社長の不倫横領問題等の不祥事が明らかになり、失望した彼はJR東日本に入ることはせず、既に内定を貰えていた、彼女の住む町を走る鉄道に就職し、彼女の住む町へ引っ越してしまった。それに対して「親を捨てた」と言って聞かない親は、明里との結婚式にさえも来なかった。

「お前はいいよな。関東に帰る場所があって。俺は、関東に帰る場所はない。明里と結婚したんだ。だから、明里の居る場所が俺の帰る場所だ。」

 と、ツバサはミサシマに言った。

 ミサシマは、埼玉県行田市出身で、鴻巣出身のツバサとは高校時代からの鉄道マニア仲間だった。

「まあ、お前は大学でいじめられたり、上手くいかず空回りしたりといい、分からず屋の親と言い、大学時代は最悪だったからな。」

 ミサシマは、ツバサの彼女同様、ツバサを理解してくれる数少ない友だった。高校時代、ツバサとミサシマは鉄道マニアの派閥Level―Zに所属していて、派閥の仲間と共に鉄道を追い求めていた。隊長機のミサカ以下、男女8人で鉄道を追う。それは、今でも思い出の中で輝いている。だが、そのLevel―Zが解散してしまった。理由は、ミサシマを始め4人のメンバーが遠くの大学へ進学することになり、全員集合することが困難になったためである。それ以来、ツバサの周りの環境が悪化し、Level―Z時代は「明るく輝くLevel―Zの一等星」と呼ばれるほど輝いていたツバサから輝きが無くなってしまった。撮影をする時に使用していた一眼レフデジカメに貼り付けてあった、流れ星と天の川と太陽系を象った通称「ブレイズマーク」も、ただの飾りになってしまった。だが、そんな状態であったツバサも、Level―Z解散後に出会った彼女とのデートの時は、かつての輝きを取り戻せた。

 ツバサの彼女は、中学時代の同級生で、彼が中学3年になって直ぐ、転校してしまったが、旅先で偶然再会して遠距離恋愛が始まった。

 しかし、遠距離恋愛で彼女と会えない日々が続くと、彼はまた輝きを失ってしまった。彼が、奮闘しても、空転する現実が嫌になり、関東地方の鉄道会社に入ることはせず、彼女の暮らす町へ引っ越してそこの鉄道会社に就職したのも、彼女と共に生きることで、もう二度と輝きを失いたくないという思いがあったからであろう。

 二人を乗せた新幹線は新白河駅に着いた。ここからタクシーでJR東日本の鉄道総合研修センターに向かった。

 明日から、ここで第一関門の学科試験に向けた講習が行われる。研修センターに着くと、センター長に挨拶し、センター長に連れられて関係各所の担当者へ一通りの挨拶を終えると、寮へと案内された。

 キッチンとワンルームで一応ユニットバスが付いているだけという物で、彼女の住む町へ引っ越した当初住んでいたワンルームマンションを思い出した。

 とりあえず今は、中古の建売をリフォームした一戸建てに彼女と暮らしている。

 ドアがノックされたので玄関に向い一応チェーンロックをしてドアを開けた。

「久しぶりだな。ブレイズ。」

「ミサカ。」

 ドアの向こうに居たのはかつて、Level―Z時代に隊長機を勤めていたミサカツバメだった。

「チェーンロックして出るとは、相変わらず用心深いな。」

 ツバサはチェーンロックを外してミサカを中に入れた。

「報せを見て応募したが、応募者の中にお前やミサシマが居るとはな。聞いて驚くなよ。ミナミニセコも一緒だ。」

「ニセコか。」

「俺はお前をどっちで呼んでいたっけか?」

「昔のあだ名なんてどうでもいい。だけど、あんたは俺を「ツバサ」と呼んでいた。ブレイズはLevel―Z以外の奴らだ。」

「そうか。ちなみに言うが、今回応募したのは四人だけだそうだ。つまり、Level―Zの男子メンバー全員だ。」

「Z時代の男子のメンツ全員で、SLを動かせる。これで皆、限りなく輝けるな。」

 ツバサは夢が膨らんだが、ミサカはこれを聞いたとき、なぜか俯いていた。


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