最終章 ルルディの書
ルルディが眠る部屋は、花で満ちていた。マヤが刺繍した布が彼女の胸元にかけられ、花瓶に絶えずアグノスが花を生けた。
ユリアから贈られた銀の花のネックレスが枕元で光り、リュカとレジスが貼り替えた壁紙は小花柄、同じく花模様のワンピースはレイサンダーからのプレゼントだ。
「生きているのですよ」
ガラマは深い声で言った。
「にわかには信じられませんが、彼女は魔術書から人間になったのです。魔力で作られていた人の幻影が、生身となったのです」
「奇跡ですわ」
レイサンダーが言って、涙ぐむ。
ライモ王子が、眠るルルディの寝顔をのぞき込む。
「健やかな寝息だ。じきに彼女は目覚めるでしょう。君に花を贈り、僕は帰るよ。ありがとう、ルルディ、さようなら」
ライモ王子がふっくらとした白いマリーゴールドを、ルルディの手のひらに置いた。
ガラマはライモ王子とレイサンダーを見送ったあとに、ルルディの元に戻って、マリーゴールドの花がなくなっていることを不思議に思った。
※
「ユリア女王の戴冠式を一緒に見たいわ。今は準備の真っ最中なの。一時国へ帰られたライモ王子が、同盟国の記念式もかねて、いらっしゃるの。そしてあの方がユリア女王に冠を捧げるのよ。ねぇ、きっと素敵だわ」
マヤはルルディの手を握りしめ、
一心に語りかけた。
「早く起きて。あなたの笑顔が見たいわ」
マヤはぎゅっとルルディの手を握った。その手には確かなぬくもりと、生命力があった。
※
「師匠が貼ったところ、よく見たらきれいに貼れてないじゃないですか」
「そうかな? 僕は真剣に貼ったよ」
「気持ちの問題じゃないでしょ。よし、机をこっちにもってきて隠しましょう」
「えー別にそこまでするほど」
「ルルディが起きたら、がっかりするでしょうが、ほら!」
レジスとリュカはルルディが眠る部屋で、言い合いながら部屋の模様替えをした。
※
ピンクのマーガレットを花瓶に広げる。ジューナは赤やピンクが好きだった。ルルディも好む色だ。
「この喜びを、なんと言ったらいいのか。奇跡だと言われると照れてしまう」
アグノスは、そっとルルディの手を握る。
喜びをくれた子、この国を救った子。かけがえのない子、笑顔が愛らしい子、一生懸命な子、アグノスに希望をくれた子、アグノスがこの世に生み出した子。
ジューナと、アグノスの子。
「そろそろ、起きてくれないか。君が眠っているから、俺ばかり注目されて、話しかけられ、困っている」
アグノスは柔らかな手をしっかり握り、かわいい寝顔を見つめた。
「ルルディ」
名前を呼んで、あたしの名前をしっかりと。ジューナもルルディも、同じことを言った。だから何度も、アグノスは彼女の名前を呼ぶ。
「ルルディ」
ルルディのまぶたが開かれた。
「おはよう、アグノスさん」
ルルディは、笑った。
終




