表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/55

第九話 フェリアの書8

 (かかと)を鳴らす。足に吸い付いた革靴で木の板で軽く足踏みをする。吸い込んだ息は体によく通った。

 空を見上げて、春の女神に感謝する。

 後ろでお団子にした髪に結んだリボンが、揺れる。水色と桃色、二本のリボンの端がエルダの首筋に触れる。

 ギターの三拍子が始まった。


 ダンスが始まる。


 フェリア・バイレ、人々と春の女神に捧げる特別な舞踏の本番が、ついに始まった。

 エルダの脊髄(せきずい)はおののく。

 観客たちを誘うように、手を差し伸べて胸へと抱き込む。風を抱くように。

 三拍子のリズムはだんだん早くなる。三角形のフォーメーションから、逆三角形になり、太鼓とバイオリン、笛と音が増えた。

 観客の手拍子が始まり、フェリア・バイレは高まっていく。

 アンヌが高く飛び、スカートが広がって歓声が上がった。アンヌはとても楽しそうに笑っている。エルダは嬉しい。

 舞台の端に踊り子たちは散って、しゃがみこむ。

 エルダのソロダンスが始まった。


 高揚しきった体は緊張などしない。


 踊りたくてたまらない、手足がどこまでも伸びていきそう。刺繍で重いスカートの端を持ち上げて、エルダは木の板の上で激しいステップを踏む。音楽は止まって、エルダの躍動が広場に響く。

 汗をかいて夢中で踊る。

 ああ、なんてわたしの足は動くのだろう、体中で音楽が渦巻いている、この音を伝えたい、捧げたい。

 だけどもう、ソロも終わり。さあ、みんなと一緒に踊ろう。

 最後の力強い足踏みで、拍手が起こった。

 踊り子たちが立ち上がり、華やかに踊る。

 鳴りやまない手拍子、ずっとこうして踊っていたい。

 エルダはアンヌと目が合うと、微笑んだ。


    *


 エルダの鼓動の強さが伝わってくるような、踊りだった。彼女はとても生き生きしていた。


「ルルディ、おいで」


 フェリアに手を引かれた。


 魔法樹の下まで連れてこられ、何がなんだかわからない間に、体が浮いていた。魔法樹の枝の上から広場が見えて、ルルディは小さく悲鳴を上げた。


「おびえないで。わたしの両手を強く握って」


 こつん、とフェリアが額を合わせてきた。

 とっても良い香りがした。豊満な花の香りに包まれると、頭がぼんやりとする。

 フェリアの手を握る。

 魔法樹から足が離れた。


「フェ、フェリア!」


「そう、ここは空よ。あたしたちは、飛んでいるの!」

 

 フェリアが笑う。

 なんにもない足元、真っ青な空にいる。ルルディは震えて、フェリアの手を強く握った。


「こ、怖いよ……」


「大丈夫、大丈夫。さあ、一緒に歌って! あなたの力を貸して、ルルディ」


「え、どういうこと?」


「一緒に、花びらを降らせよう。ルルディにはそれができるのよ。あなたは特別な子」


 フェリアが額にキスをしてくれた。にこっと笑う彼女にほだされて、ルルディはおろしてくれと言えなくなる。


 花の広場で踊ろう

 君の優しい手を取りて

 嘆きの時代は終わった


 フェリアが歌いだす。ルルディも一緒に歌った。丘で歌ったときより、声はよく通って気持ちがよい。


 喜び踊ろう

 春の女神が微笑む


 花びらが舞い、地上へと降っていく。

 高らかに歌うほど、花びらは多く舞った。

 青色、ピンク色、黄色、オレンジ、色とりどりの大きな花びらが舞い降りていく。

 楽しくなって、ルルディは歌った。

 春の女神は微笑んでいる。


    *


 人々の喜びが頂点に達したとき、空から花びらが舞い落ちてきた。昔話と同じだ。毎年こうして、喜びが再現される。


 ユリアは手のひらに花びらを受けた。


 良い香りがする。

 毎年、高い場所からこの祭りを見ていた。

 王家の威厳を表すため大きく作られた幌馬車の幌を取り払い、警備の兵士に囲まれて見ていた。

 兄は祭りが大好きで、前日はたとえ寝込んでいても、祭りの日は元気だった。ユリアに刺繍のハンカチを初めてくれたのは、兄だった。

 優しくて、けれど病弱で儚い一生だった兄のことを、しみじみと想う。

 兄さまなら、どうなさる?

 兄さまはこの国を愛していた。きっと生きていたら、立派な王となっただろう。

 うつくしい祭りを見ていたら、ユリアの目の端には滴がたまった。

 この国を守る。この手で必ず、王家に生まれた宿命は果たす。

 怪物になった王を、父を、この手で必ず殺す。

 ユリアは花びらを握った。


   第九話 フェリアの書・完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 春祭り、とても華やかで楽しげではありますが、これはまだレジスタンスの序章なのですよね…本を喰らう怪物になってしまった王を倒さなければならないわけで…。 ルルディには本をユリアに渡す、みたいこ…
2024/05/25 23:30 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ