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「いつまでこんな事続けられると思ってるの?」
背もたれに肩肘掛けポーズのシザリオが、更にそっぽを向いて言った。
「さあ、いつまででしょうねえ」
シザリオの前に紅茶のカップを置きながらヤマト博士が答える。
「大体、なんであいつのためにミキがここまでしてやらなきゃなんないの。何で僕がマザーコンピューターに介入してまで、ミキの情報撹乱して、見つからないようにしてやんなきゃなんないの」
「さあ、どうしてでしょうねえ」
出たよ、タレ目笑顔。
ニコニコしながらテーブルの上で手を組んで、顎を乗せて首を傾げる。
「シザリオ、貴方には本当に感謝していますよ」
…………コイツ、只者ではない。
「………ミキは、僕の教育係だったんだから。その責任を勝手に放棄して、ただじゃ済まないからな。僕が今ミキやあいつを見逃しているのは、ミキが勝手に処分されるのが嫌だからだ。ミキは…………ミキをどうするかは、僕が決める。僕がその力を持った時に」
ふむふむ、ヤマト博士は、シザリオの教育係だったと。なのに、ルー様に肩入れして逃げたと。そういう流れで良いでしょうかお坊っちゃま。
「あの子は………可哀想な子なんですよ」
ヤマト博士がそう言った途端、シザリオが椅子を蹴って立ち上がった。血が登ったように頬が赤い。握りしめた右手は逆に真っ白だった。
「ご自分も、可哀想な子だと言われたいのですか?」
……………鬼畜タレ目!
生きていると様々なカテゴリに遭遇するものだと、妙な所で感心するが、子供相手にどうよという気がしないでもない。何しろ今は虫でもこちらはそれなりに経験を積んだ大人である。
………そういえば、シザリオは孤独な子供だったよなあ。
ファイナルデスティネーションの設定である。
両親は既に他界。祖父はあまりにも巨大な権力を持ち、シザリオには友人1人すらいなかった。
ただ、
けれど、不思議な事にシザリオはその鬼畜台詞で落ち着いたようだった。
「………それで、今日あいつは?………いないの?」
「あいつ?」
いや、分かってて聞いてるよね。
「だから……………ルーシャス………」
意外と素直にその名を口にしたシザリオに、ヤマト博士も笑って返す。
「この時間はいつも鍛錬ですよ。そろそろ戻るとは思いますけれどね」
はっ、とシザリオが肩を竦める。
「いいご身分だな。ミキが全てを失ってもあいつを連れて逃げて、今も暮らして行くのもやっとだって言うのに。………鍛錬?お気楽な事だな」
「…………シザリオ」
ヤマト博士の笑みが深くなって怖い。
「私は貴方に協力してくれと、一度も頼んだ事はありません。貴方が好きでやっている事に口を挟む必要もないと思ってはいますが、ルーシャスの日々の努力と、その結果を笑うのであれば、貴方との付き合いも考え直さなければいけませんね」
シザリオが俯いて黙った。
私は虫なれど、繰り返すがそこは酸いも甘いも弁えた大人。空気も十分読める。読んだ空気で呼吸が出来る。すーはーすーはー。ヤマト、ちょっと厳しすぎね?
ねえ、フェル様?と、私は寝惚ける黒オオカミに言葉をかける。
しかしその瞬間、フェル様は頭をもたげ不思議そうな表情を晒した。
『ルーシャスが帰って来る。でも、もう1人』
そして扉が開く。
いつもであれば真っ先に視界に飛び込むはずのルー様を、あろう事か私はスルーした。
何故ならその背後には、そこにはジェニータソがいたから。
『ジェニタソ!』
思わず噛んだ。
…………ジェニタソ?
頭の中に声が響く。
「誰?」
生ジェニータソ声キタ!
そう思ったら
「生ジェニー?」
え。
どう言う事ですか。
今まで私の言葉はフェル様にしか通じなかったし、それも話しかけた場合にのみ伝わっていた。
言ってみればお互い頭の中で会話をしていたような物。相手に向かっていない思念がダダ漏れ、これなんですか状態です。
「………何なの?」
膠着を破ったのはやはりシザリオだった。
「鍛錬?鍛錬しに行って、頭のおかしな子、拾って来たの?」
不機嫌そうに足を組み直す。
ルー様も感情の籠らない目でシザリオを見下ろす。
ヤマト博士は……………相変わらず目尻に皺を寄せてにこにこしている。
フェル様は、我関せず。
え?私?
私虫ですから!
どうしろっていうの、みんな空気読んで行こうよ!




