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ルー様が向かう先が、研究室なのか、それとも森の中の小屋なのか。
それによって分岐点は変わる。
どうやらここはゲーム本編の世界の中ではないらしい。
けれど、二次創作の中の世界だからと言って安心できるとは限らない。
凡そ、二次創作程作り手の気の向くまま、思うがままに繰り広げられる世界もない。
初めて二次創作に嵌った頃には、その荒唐無稽、もとい想像力の豊かさに驚かされたものだ。何故、星を救おうとしている主人公達のパーティーと、それを阻むラスボスが、庶民派公立高校生と坊ちゃん嬢ちゃん達の王立学校生達として敵対しているのか、何故彼らは皆宇宙ステーションにいてミッションの遂行の食い違いでいがみ合うのか。いや、そのくらいならまだ理解できる。
………何故みんな遊郭にいるのか………
まあいい。
いいのだ。
私もすぐに理解し、楽しめるようになったのだからいいのだ。
ただ、油断はできない。
私はその幾重にも張り廻らされたパラレルワールドのどこにいるのだろうか。
そもそも、ルー様が狂気に囚われてしまった原因は、その出生にある。
自分が、人の悪意を具現化して造られた生物兵器であると知ってしまったからだ。
………別にネタバレでも何でもない。
みんな知っているけれど、中の人だけ知らない。そんな事はお約束事。
そんなルー様は親も知らず研究所の中で生まれ育ち、兵器としての自分に何の疑問も持たず、淡々と任務をこなす大人へと成長する。
だがしかし、レディバードの中のルー様は違った。
一体どこからそんな人物を見つけてくるのかと思うようなモブキャラに焦点を当て、彼にルー様を攫わせるのだ。
ヤマトと言う名の研究員。
黒い髪に黒い瞳、笑うと目尻に皺が寄る、皮膚の薄いインドア派。
毎月のルー様の髄液の検査、その痛みを伴う検査にルー様が幼い頃から立ち合い、やがて少しずつ軽口を叩くようになり………………ルー様がついにその痛みをひと言も口にしなくなった時に、彼を研究所から救い出すことを決意する。
勿論、上手く行くのはそれが二次創作の世界だからだ。
けれど、ルー様はその物語の中でだけは、人としての思い出を持って成長する。
それは未完の物語だ。
私が更新を追わなくなった物語。
さっき見たばかりの更新履歴でも完結してはいなかった、私達の物語。
もしルー様が、森の中の小屋へと私達を誘ったのなら、私はこの先、知らない物語の世界へと進む事になる。
「ねえ、フェル様」
フェル様が首だけを少し回す。
返事がないのはただの屍なのではなくて、最早私など眼中にない、というスタンス。
フェル様。
ルー様にはあの時もフェル様がいたよね。
だけど、どうしてだろう。
自分が人工的に造られた生命体であると知った時、あれほど意思の強かったルー様が何故心折れてしまったんだろう。
………折れるか、やっぱり。
悪意の具現。
自分が悪意から生まれた物であるという事、自分の核が悪意であるという事。
それに耐えられなかったルー様は、決して悪ではなかったと思う。
「フェル様も、一人になっちゃったね」
だから?と言った体でフェル様が顔を上げる。
やっぱり中の人は知らない情報。
フェル様は、滅びゆく誇り高き黒オオカミ。
ルー様を守ってその命を落とし、最後の個体がこの世から消え去る。
お母さんも、兄弟も、みんないたのにいなくなっちゃった
それは捕獲されたから。
検査されて、実験されて、解剖されて………標本にされて。
時々、フェル様がルー様に従ったのは心のどこかでやっぱり人間を憎んでいたからなのかも、って思ってたよ。
「これから………ルー様を………」
なんて言ったらいいんだろう。
守ってあげて?
そうじゃない、一緒に楽しく暮らして欲しいんだ。
「遅かったじゃないか!」
森の中。
まだ人家は見えない。
辺りは鬱蒼とした木々に囲まれ、月明かりでぼんやりと輪郭が見える。
どう見てもなよなよとした、こんな何が出てくるか分からないような場所に一人でいたら飛べない分だけテントウ虫より始末が悪い、そんな風体の男がこちらに駆け寄って来た。
………ああ、ヤマト博士だ。
私は息を吐いた。
懐かしい目尻の皺、ぼさぼさの頭髪、汚れた白衣。
ルー様はヤマト博士と暮らしている。
間違いない。
ここはあの世界だ。
ルー様が幸せになれる日を目指して更新されていた
「ファイナル・デスティネーション」




