シザリオ、ルーシャス、そして幹 その2
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母は良くユーシスさんの話をした。
まるで姉か母親のように慕っていたと思う。
ユーシスさんには、母よりだいぶ年下の娘さんがいるとかで、その子にも会いたい、とずっと言っていた。
「そんなに会いたいなら、会いに行けば良いじゃない?」
そう聞くと、淋しそうに笑って首を振った。
「私達は、いつもお互いを感じ合えているから、それでいいのよ。昔は………この癒しの力を持った女性はもっとたくさん居たと聞くわ。でも、もう私達2人だけになってしまった。
私達の力は昔の癒し手に比べてとても弱い。でも……………物理的に距離を縮めてしまうと、お互いの力が増幅されて………目立ってしまうの」
「ユーシスさんの娘さんは?何の力も持っていないの?」
ええ、と母は頷く。
「ユーシスさんが出産した時、私はそれをとても恐れたわ。でも、幸いな事に、ユーリカ、娘さんの名前よ………ユーリカには何の力もなかった。そしてその自然体はユーシスさんの力を隠す効果もあったの」
では僕は。
僕を出産する事自体も母にとっては賭けだったに違いない。
「貴方もよ」
母は続ける。
「貴方も私を救ってくれた」
貴方を産んで本当に良かった。ずっと幸せだから、ユーシスさんに会えなくても寂しくないの。
「愛してるわ、幹」
父は早くに亡くなっていたけれど、僕達は幸せに暮らしていた。
けれど、僕の力などロトファウンデーションの前では何の役にも立たなかった。
ある日突然家は襲われ、母と僕はロトタワーに監禁された。
「ようこそ、魔女さん」
嫌な目つきをした白衣を着た男がにやりと笑った。
「いや、私達の研究にご参加下さるのだから、聖女様とお呼びした方がいいのかな?」
それから僕達は引き離され……………10ヶ月後に母が亡くなったとだけ知らされた。
頭の中が真っ白になって、それから数日間の記憶が僕にはない。
再び記憶が鮮明になるのは、ある豪奢な部屋でとある紳士と向き合っていた時からだ。
それが最初に感じた違和感。
僕はまだロトタワーの中にいる。
向かい合っているのは、この建物の関係者に間違いない。
母を死に追いやった仲間の筈なのに、目の前の病み窶れ、憔悴した様子の紳士に嫌悪感を感じなかった。
おかしいだろ!
何を考えているんだ自分は、と叱咤しつつも、僕は自分の感情を自分の思う通りに動かせない。
まるで、もっとずっと上から、僕達を俯瞰しているような、見えざる力が働いているかのような現実離れした浮遊感。
「ご母堂の件、お悔やみ申し上げる」
紳士が頭を下げた。
「あの狂った実験を止める事が出来なかった私の不甲斐なさを許して欲しい」
頭を下げたまま続ける。
「貴方は………?」
彼は顔を上げて僕を見た。
「マーカス・エセルバート・ロトシールド。父は……………ロトシールドの会長だ」
なんてこった。
僕は乾いた笑いを浮かべた。
敵も敵。ど真ん中じゃないか。
「…………私はもう長くはない」
そして、君をここから出す力も精神力もないんだ。
「父は狂ってしまったようだ。私の存在がそうさせてしまったのかもしれない。全てを……………全てを破壊したい執念に取り憑かれている」
それと、母の死に何の関係があるのだろうか。
「ご母堂と君の存在は、トップシークレット扱いになっている。だから、ここから出る事は出来ない。だから………」
だから、だからと苦しそうに逡巡する姿にまた違和感を感じる。
怒ってもいい筈だし、ふざけるな、と怒鳴る事も出来る筈なのに、僕は次の言葉を待った。
「君はずっと薬草の研究をしていたと聞いた。だから、君の研究室を作る。そこで、好きな研究を続けて行ってはくれないか」
そして……………
生まれたばかりの息子が1人いる。まもなく一人ぼっちになってしまう息子の話し相手になってやってはくれないだろうか。
紳士は静かにそう言った。




