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「えーと、それでですね、魔女っていうのは一体………」
と、私は心の中で一人ごちる。
大丈夫、私の言葉は伝わるはず。
ジェニータソは、ふわりと顔を上げて私を見た。
「そうね、貴女を元の姿に戻す事なら、生命に干渉しないから、この世界の理に反する事はないと思う。
魔女の仕業だなんて思われないかもしれないわね」
いやだから何で?
ゲームの中でもジェニータソは、優秀な回復魔法使いだった。
当時は、白魔道士?そんなふうに呼ばれていたけれど、今の時代だったら間違いなく聖女枠である。
生命に干渉してはいけない、どういう意味なんだろう。
「だって、私が今貴女のお姉さんを生き返らせたら、貴女はそれを聖なる奇跡って思える?
私と、生き返ったお姉さんを、ほんの少しでも薄気味悪く思ったりしない?」
突然の思考の流れに、頭の中が真っ白になった。
何でそんな事知ってるの!?
私の思考からそこまで読み取っちゃうの?
何処まで分かるの?
「…………ほら、ね。
気持ち悪い、って思ったでしょう?」
いや、気持ち悪いとかじゃなくて。
何だろう、この複雑な気持ち。
私とお姉ちゃんとの大事な思い出にいきなり踏み込まれた
………不快感。
ずっと入院していたお姉ちゃんが外泊許可を貰えて、自宅に戻った時、私はそれこそお姉ちゃんに集るハエのようにくっつきまくった。
学校に行く時間が勿体無くてしょうがなくて、思いついたのがレディバードの中の小説を読んで待っていて貰う事だった。
すぐ帰って来るからね!
そしたら、一緒にルーシャス様とユージェニータソを愛で、語り合おうね!
思えば、男女のカップリングだった事も垣根を低くしていたのかもしれない。
お姉ちゃんは、ルージェニに夢中になってくれた。
…………振りをしていただけなのかもしれない。
私を喜ばせようとしていただけなのかもしれない。
私は浮かれて語り倒した。
「全部読んじゃったから、また更新されたら教えてね」
たった2泊の外泊で、お姉ちゃんはまた病院に戻って行った。
お姉ちゃんも読んでる小説なんだよ!
楽しみに待ってるの。
そう言ったら、お父さんはちょっと淋しそうに笑って、そうか、と言ってプリンターを導入してくれた。
更新された日は急いでプリントアウトして、自転車をかっ飛ばして病院に向かった。
………お姉ちゃんがてんとう虫のポシェットを作ってくれたのもその頃。
でも、だんだん、お姉ちゃんは起き上がる事も難しくなって行った。
最後にゆっくり話した、お姉ちゃんの言葉は今も覚えている。
「ねえ、私、生まれ変わったら………」
やめて!と、耳を塞ぎたくなったけれど、私は小さく微笑んだ。
「縁起でもないなあ。病は気から!」
「聞いて。てんとう虫になって貴女の側にいるから。
指に止まったら、腕を高く上げて。そうしたら自由に飛んで、また貴女の指先に帰って来る。
秋が深まったある暖かい日に、一斉にてんとう虫が飛んでいたら、窓を開けて。
家に帰って越冬するから宜しくね」
最後まで優しくて、強くて、ユーモアを解するお姉ちゃんだった。
お姉ちゃんは、朝晩の息が白くなった晩秋の、季節が戻ったように晴れた暖かい日に、
この世を去って行った。
ーーーーそれに、てんとう虫は………………
私とお姉ちゃんを繋ぐアイコンだから。
「私を許せる?」
ジェニータソの言葉が続く。
「貴女を傷つけたわね」
悲しくて、何もかも諦めたような声だった。
「えと、時間を下さい」
私は絞り出すように言った。
ジェニータソはジェニータソ。
幸せを願ってるのは同じ。
お姉ちゃんだってそう思っていたはず。
けれど、未知の力を前に、私は正面から向き合う事が出来なかった。




