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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode45-2 月編ライバル令嬢である所以

「おーい、花蓮! 起きろー!」

「ハッ! えっなに!?」


 耳元で大きな声がして、パッと目を見開く。

 キョロキョロと視線を動かせば、「やぁ~っと起きた」と若干呆れたような物言いの裏エースくんが、椅子の肘かけから頬杖をついてこちらを覗き込んでいた。


「えっ。私もしかして寝てました?」

「寝てた寝てた。ぐーすかイビキかいてな」

「うそ!!?」


 とんでもない失態にガーンとショックを受けていると、裏エースくんの向こう側からひょっこりと相田さんが顔を出した。


「何言ってんの、うそだよ百合宮さん。イビキかいて寝てたの下坂くんだから」


 腰に手を当てて頬を膨らますと、彼女は次いで心配そうに私を見る。


「大丈夫? 寝てる間、こう、眉間に皺が寄ってたけどケガのせい?」

「あ、いえ。それは多分夢を見たせいだと思います」


 とんだ悪夢だった。


 まさか秋苑寺本人と会った途端に、トゥルーエンド後に展開されるシークレットムービーを夢で見るとは思わなかった。


 あの――軟派チャラ男の深層心理=百合宮 花蓮限定病的恋狂い(ヤンデレ覚醒)を発症した瞬間を!!


 ああ恐ろしい!

 だから秋苑寺と仲良くだなんて、私が百合宮 花蓮である限り絶対永遠に無理!!


「てゆーかさ、そろそろ降りようぜ。あともう俺らだけだし」


 ふとその言葉に周りを見渡すと、後方の席はガランとしており私達以外誰もバスの中にいなかった。窓の向こう側を見ると、クリーム色の外壁とケヤキの並木が目に映る。


「学校に着いたのですね」

「まぁ後は先生の話聞いて解散だし、すぐ終わるよ。ほら」

「? 何ですかこの手は」


 差し出された手と裏エースくんの顔を交互に見れば、彼は答えるよりも先にギュッと手を握ってきた。


「けが人はけが人同士、助け合おうぜ。足も怪我してんだからゆっくりな」

「あ、ありがとうございます」


 急な爽やかさ、それが裏エースくんの裏エースたる所以。

 ……出来過ぎくんにでも改名する?


 先に相田さんが降りて裏エースくんに手を引かれながら、ゆっくりと私達もバスを降りる。どうやら学校に着いてから私が目覚めるまでそれほど時間は経っていないらしく、まだクラスメートは班で固まって話をしていた。


 最後の私達が降りたのを五十嵐担任が確認し、整列して本日の締めの話を聞く。


「あー、と今日の遠足だが何事も……なくはなかったが皆無事に帰ってきてくれた! 初めて出会った頃より皆も仲良くなれたみたいだし、先生は嬉しいぞ! さて、今日はもうこれで終わりだが明日は今日の振替休日だからしっかり家で休んで、また明後日元気な姿を見せてくれな! それじゃ解散!!」


 大きな声で生徒一人一人の顔を見渡して話していた五十嵐担任の解散の号令がかかり、クラス全員で別れの挨拶をした後、バラバラと動き始める。今日のスクールバスはお休みで、入学式の時と同様、この日は帰りのみ送迎が許可されていた。


 私も班の皆と別れの挨拶をした後、荷物を背負って移動しようとしていたら五十嵐担任に呼び止められる。


「あ、百合宮はちょっと残ってくれ」


 何だろうと思いながらもコクンと頷くと、五十嵐担任は他のクラスの先生に呼ばれてそちらへと走っていく。


 どうして私だけ残されたんだろう?

 騒動の聞き取りなら裏エースくんも残される筈だし……。


 う~んと首を傾げて考えていると、ふと周囲がザワザワしていることに気がついた。見回してみると、私のクラスじゃない子達が驚愕の表情で固まり、顔を寄せて囁き合っている。


 その様子は見ていて気分の良いものではないが、思わず苦笑してしまう。


 そうだよねー。高位家格の百合宮の令嬢がこんな痛々しい格好してるんだもんねー。あの現場に居合わせなかった子達にとっては初見だから、まぁそうなるのも分かるけどね。


 あーあ。この分だと明後日登校した時、すごく噂になってそうだなぁ。


『百合宮家の令嬢、遠足にて負傷! グルグルミイラ女に変身!』


 なんちゃって。


 そんなことを呑気に考えていると、話が終わったらしい五十嵐担任が戻ってきた。


「待たせて悪かった。実はな、病院で百合宮が治療を受けている間に何回か家に連絡させてもらったんだが、誰も出てくれなくてな。お家の方に百合宮の状態とか事情が伝わってないんだ。今日、送迎車は来る予定か?」

「えっ、そうなんですか? ……あ、そうですね。家は確か夕方までは誰もいない状態です。送迎は我が家の運転手が来てくれることになっているので、大丈夫です」


 そうだ。今日は「花蓮ちゃんも奏多さんも学校行事だから、私も楽しんでこようかしら」って、お母様はエステと何かの展覧会に張り切っていた。


 そしてそんなテンションが高かった我が家のヒエラルキー頂点の一声で、お手伝いさん達も半日休暇のお達しを受けて皆お休みだった。運転手の坂巻さんは休暇後、直接送迎に向かう予定になっていたのだ。


 そのことを思い出した瞬間、ざぁっと体中から血の気が引いた。


 ……不味い。ひっじょーに不味い!!

 何が不味いって私のこんな状態をお母様が知ったら、監禁レベルの過保護を発症しかねない!!


 だって考えてもみてよ!

 有栖川少女の生誕パーティ後に熱出したぐらいで、その後の催会一切合切出席不可にしたお母様だよ!?


 学校どころか、外を一歩出歩くことさえ禁止されてしまうかもしれない!!

 グルグルミイラ女なんてふざけたことを考えている場合じゃなかった!!


「だ、大丈夫か!? 顔が真っ青だぞ!?」

「……はい。あの、体調は大丈夫ですから。ちょっと色々考えなければならないことがありますので、これで失礼させていただきます。先生さようなら」

「あ、おう、さようなら……」


 青褪めながらも、鬼気迫るものを立ち昇らせて五十嵐担任に別れを告げ、そんな顔色とは対照的に足取りはしっかりと前に向かって歩き出しながら、ブツブツと呟いて対策を練る。


「取りあえずケガは全部私の運動神経のせいにして、うん、前科もあるしこれはイケる筈。それでこのダメダメな運動神経を良くするには、もっと外で遊ぶことを上手い具合にプレゼンして……」

「花蓮さ~ん!」

「そうだ、ここは事情を説明してお兄様にも協力を……え?」


 ゆったりと、そして包容力を感じさせる聞き覚えのある声に意識を持っていかれて、つい普通に顔を上げると。目が合った瞬間に笑顔を向けてくれていたそれが一瞬で消え、クリクリの瞳は大きく見開かれていった。


「……瑠璃子さん?」

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