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Episode6-1 祝?お友達爆誕

 争いの現場となっていた部屋に戻った私たちに、麗花を見て再度ビクついた子供たちだったが、戻る頃にはすっかり気の強さが戻っていた麗花は、「先程はわ、悪かったですわ! 許して差し上げてもよろしくってよ!」と上から目線ながらも一応の謝罪を行った。


 ちなみに手を繋いだままだったので、その手がブルブル小刻みに震えていたのがよく分かった。


 うん、緊張したよね。頑張ったね麗花。


 謝られた方の子といえばびっくり仰天していたが、麗花の言い分も私がフォローして説明すると慌ててこちらも麗花に服を汚してしまった謝罪を行い、他の子供たちもホッとした様子で何とか事態は丸く収拾した。


 じゃ、麗花はもいっちょ頑張ってみようか!


「え!? なぜですの!?」

「何故ではありませんよ。ティーカップ、二つも割ってしまわれていたでしょう。それは春日井さまにちゃんと謝りましょうね」

「!!!」


 この様子だとすっかり忘れていたな。

 まったくもう。


 自分にとって最大の山場を越えたと安堵していたが、もう一つ山場があったと知って若干涙目になる麗花。心なしか巻き髪縦ロールがへにゃっとしている。


 ……仕方ないなぁ。


「私も付いていきますから」

「!!!」

「うっ!」


 目を輝かせ嬉しそうな表情を向けられて、私の目がやられた。

 やはり美少女の笑顔の破壊力は半端ない!


 目をやられてしまった私は、今度は逆に麗花にご夫人方が過ごしている部屋へと手を引かれて扉の前までやってきた。

 勇み足で進んできた麗花だが、やはりいざとなると腰が引けてしまったらしく、その場に目を見開いて固まっている。


 だよね~。流石の麗花も大人相手には強気な発言(しかも謝罪で)は出来ないよね~。うーん……。


「……えいやっ」

「あっ、ちょっと!?」


 麗花が止める間もなく、扉を開け放つ私。

 ウダウダ考える暇があったら行動するべし。


 さぁ、賽は投げられた。

 これで前に進む道しか残っていない。

 愕然と私を見つめる麗花に、さぁ行けとにっこり笑顔で催促する。


 私は二十九年も生きているから知っているのだ。

 躊躇すればするほど恐怖は増すことを、そして早くすれば良かったと必ず後悔することを。


 強制的に道を作れば開き直ってさっさと進んでいくだろうという予想を裏切り、「えっ、えっ!?」と未だにアワアワする麗花。

 ……どうやら思っていた以上に不意打ちだったらしい。ごめんちょ。


「花蓮ちゃん? 一体どうしたの」


 麗花がアワアワしている内に、中にいたお手伝いさんに呼ばれたらしいお母様と主催者である春日井夫人が、こちらに連れ立ってやってきた。


「あら、そちらのお嬢さんは……?」

「ご参加されている薔之院家の麗花さんです、お母様。実は麗花さんが春日井さまにお話ししたいことがあると」

「あっ、ちょっ!」


 急に話を振られた麗花は目に見えて慌てだしたが、正面にやって来て屈んだ春日井夫人を見てやっと心を決めたみたいだ。

 ぐっと唇を引き結び、春日井夫人を見つめるその表情は子供ながらに気高い。


 後ろで見守ろうかなと足を後ろに引いた私だったが、何故か麗花にガシッとワンピースを掴まれその場に縫い止められた。


「か、春日井さま! あの、私……ティ、ティーカップを割ってしまいましたの! ごめんなさい!」


 強張った表情のまま大きな声で言い放った麗花は、これまた大きく頭を下げた。


 頭を下げたままの麗花に良くやった!と子供を見守る親の気持ちになった私は春日井夫人の反応はどうだろうかと見れば、なぜか彼女はえらく驚いた顔で麗花を見つめている。


 どうしたのだろう?


「それをわざわざ言いにいらしてくれたの……?」


 どこか呆けたような声に疑問を抱けば、お母様も同じように思ったようで。


「雅さま?」


 少し眉を寄せて掛けられた声にハッとした春日井夫人は、慌てたように麗花に頭を上げるように告げる。


「謝罪はしかと受け取りましたから、顔を上げてちょうだい。麗花ちゃんが謝ってくれただけで、おばさんは胸がいっぱいよ。だからティーカップのことはもう良いの」

「……ごめんなさいですわ」


 頭を上げたは良いがちょっと涙声になっている麗花に、今度は春日井夫人の方がオロオロし始めた。


「な、泣かないで麗花ちゃん!」

「……泣いてませんわっ、っう」


 いや、泣いてるじゃん。


 落ち着け、とポンポン麗花の背中をお兄様がしてくれるみたいに優しく叩けば、更にボタボタと涙を落としてくる。


 え、何で逆に泣くの!?

 泣きやまそうとした筈なのに何か間違った!?


 私までオロオロし始めたものだから、この場にいる最後の一人が事態を収めるべく動き出した。

 サッと麗花の前に屈み、お母様が着物の袖から取り出した白いハンカチを麗花の頬に当て涙を拭き始める。


「もうお泣き止みなさいな。淑女たるもの、そう人前で涙を見せるもではありません。凛と、背筋を伸ばして堂々としていなければ」

「お、お母様!?」


 突然始まった厳しいお母様の淑女高説に声を上げるが、しかし次の瞬間、麗花に向けてお母様はフッと柔らかく微笑んだ。


「ですが、自分の間違いを認め相手に素直に謝ることも立派な淑女です。麗花さんのご両親は、麗花さんをとても良い子に育てていらっしゃるとお見受けしますわ。ね、雅さま」

「……はい。麗花ちゃんはとても素直な子です」


 顔を見合わせて微笑むご夫人方に、褒められた麗花はびっくりして涙を止めている。


「本当にティーカップのことはもういいですから、二人ともお部屋に戻って遊んでいらっしゃい」

「あ。えぇと、はい」


 本当に嬉しそうにそう言う春日井夫人に、未だ呆然としたままの麗花に代わって返事をして、彼女の腕を引いて失礼しようとすれば、「花蓮ちゃん」とお母様に呼ばれた。


「お母様?」

「お手柄ね、花蓮ちゃん」


 そう言ってウインクをするお母様に「は?」と思ったが、さっさと夫人方が待つ部屋の奥に戻って行かれてしまった。お手柄とは一体どういう意味なのだ。


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