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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode36-0 フラワーロードとSOS

 全班の点呼を終えて五十嵐担任の簡単な注意事項を聞き、ようやく自由に行動する許可が下りる。

 今回の遠足はクラスの親睦を深めるという目的で行われているため、基本的には班での集団行動を守るように決められており、原則単独行動は厳禁となっている。


 他の班はどう行動するかを相談し始めていて、私達の班も班長の号令のもと行動の予定を組み立てることに。


「よし、俺らはどう行動する?」

「うーん。皆で行くならどこでも楽しいと思うから付いていくよー」

「わ、私も、付いてく!」

「俺も行くならどこでも良いっす」


 上から相田さん、木下さん、下坂くんと来て皆の顔が私の方へ向く。


「私と拓也くんはお花を見に行きたいと先程お話していたんですけど、どうしましょう? でも先にアスレチックに行った方が、長く並ばなくてもいいですし」

「新くんはアスレチックの方を先に行きたい?」

「いや良いよ。アスレチック行ってから花観賞するんだったら、俺疲れて寝そうだからさ。先に観賞しに行こーぜ」


 そうして早々に行動指針が決まった私達は、フラワーロードと目されている場所へと向かった。

 会話しながら歩いていくと、次第に色とりどりの美しく咲き誇る薔薇が見え始めて、相田さんと木下さんから歓声が上がる。


「わあっ」

「うっわー、何これすごーい!」

「本当、ここまで豊かなのは中々見られないと思いますよ」


 ウチの庭園は何種類もの花を植えているけど、一種の花の中の種で極めるってのも絶景だね。


「へぇー。バラでもこんなに種類あるんだなぁ」

「結構色も多いよな。そう言えば花って、緑の色してるのってあるのか?」

「ありますよ。花と言うと範囲が広いので薔薇に限るとエクレールとか、ルビアナですね。葉よりも薄い緑……どちらかと言うと黄緑色の方が近いかもしれません」

「へぇー」

「あっ、サマードリームだ! 可愛いな~」


 フラワーロードは一歩足を踏み入れればそこは薔薇の庭園となっており、シュラブローズが均等の間隔を開けて栽培されているので、道は童話の描写にありそうな雰囲気がある。

 この素晴らしい薔薇の空間に皆顔を輝かせて見て回っているのを見て、釣られて気分が高揚してきた。


「ふふっ。これだけあると、沢山のジャムが作れそうです」


 笑いながら言うと、しゃがんで観賞していたたっくんが振り返る。


「え、バラって食べられるの?」

「食用のものなら食べても大丈夫ですよ。美容にも効果があるそうで、カプセルになってサプリメントとして売られていますし」

「花蓮ちゃんは食べたことある?」

「ジャムに加工されたものを紅茶に混ぜて飲んだことならあります。とても香りが豊かで美味しかったですよ」

「うわー、全然味の想像がつかないや」


 まぁ、あまり市販で販売されている商品ではないということは分かる。

 だって前世なんて一度もそんな贅沢なものにお目に掛かったことなんてないもの。


「でも、私も少し驚きました。先程植物が好きとお聞きしましたが、品種を言い当てられるくらい花がお好きなんですね」


 感心してそう言うと、たっくんが照れた様子ではにかんだ。


「僕の家って小さいんだけど、本屋なんだ。だから図鑑とかもよく見てて、いつか自分の目で本物を見てみたいなぁって」

「そうなんですね。何か、私よりも拓也くんの方が詳しそう」

「え、や、でも。僕が見た図鑑って言っても、ほとんど基本しか載ってないようなやつだから!」

「謙遜はなしですよ。私だって知らないものは沢山あります。拓也くん、ドクドクローの他にもお話の幅が広がりますね!」

「……うん!」


 ニコッと笑い合う私達はそれからも二人並んで品種を言い合って、お互いが知っている知識を補うようにして見て回った。


 そして案の定そんな私達の姿に気づいた裏エースくんがそこへ加わって進む内に、最終的に班の皆が集まって、バスの時のようにあれこれと話しながら出口へと向かって行く。

 フラワーロードは公園内をぐるりと回るような構造となっていたようで、出口に出たら見覚えのある広場が近くにあった。


「あ」


 広場に出ていの一番に視界に映った、私達が乗ってきたものとは違うバスが停車していることに気づいて思わず声が出てしまった。


「どうしたの、花蓮ちゃん?」

「いえ、あー……。はい、私の祈りは神様に届くでしょうか……」

「? 神様?」


 キョトンとするたっくんに心の安寧を保ちながら、裏エースくんへ声を掛ける。


「班長、これからアスレチックへ行きますか?」

「うーん。でも何か俺らの学校が乗ってきたバスと違うのがあるし、どっかの集団が来てんだったら多そうだからなぁ。まぁ毎日サッカーしてるし、今日くらいゆっくりしてもいいけど。お前らは?」

「フラワーロードって思ったより距離あったから、ちょっと今動くのキツイ」


 そう言うのは、言葉通り疲れた顔をしている下坂くん。


「私は運動あまり得意じゃないから……。でも皆が行くんだったら、付いていく」

「でもさー、もうすぐお昼の時間じゃない? 午後のことはお昼食べてる時に決めて、それまでは皆で話そうよ」

「じゃあそうすっか。確か最初の広場に座る場所あったよな? あそこ…」

「太刀川!!」


 相田さんの提案に裏エースくんが頷いて私達を先導しようとしたところで、今しがた出てきたフラワーロードの出口から見覚えのある顔が飛び出してきた。


 あれ、西川くんじゃないか。


 走って来たのか息切れを起こしている彼は、何やら焦った様子で裏エースくんを呼んだ後、私達の目の前までやってきた。


「西川? お前自分の班のやつらはどうしたんだよ?」

「たいっ、大変、大変なんだよ! はぁっ」

「大変? 何が?」


 皆何事だと目を丸くして、何とか息を整えた西川くんを見つめていたら、彼はバッと顔を上げて叫ぶ。


「ヤバいんだってば! いま近くに先生いないし!」

「だから何がだよ」

「俺らの学校の他に違う学校が来てて、Cクラスのやつがアスレチックで遊んでた途中で、その学校の子に怪我させちゃったんだよ! 俺並んでて一部始終見てたけど、謝ってんのに全然許してくれなくて、見てたやつが何人か間に入ってもどうしようもなくって! だから太刀川達を追いかけてきたんだよ!」

「何でそこで俺らを探して来るんだよ。先生なら園内のどっかにいる筈だろ」


 もっともな裏エースくんの指摘に、けれどパニック状態の西川くんは更に言い募る。


「俺らの班に探してもらってる! だけどそれまでに何かあったらどうするんだよ! だって相手は聖天学院だぞ!?」

「は?」

「あの聖天学院なんだって! もう班とか関係なく頼れるのって言ったら俺、お前しか思いつかなかったし! それに、百合宮さんもいるし何とかならないかと思って」

「え」


 待って。私に振らないで。


 しかし願い虚しく裏エースくんに訴えていた西川くんは、今度は私の方へと勢いをつけて頭を下げる。


「お願いします、百合宮さん! Cクラスのやつを助けてあげてください!」

「えっと。でも、私にそんな力なんて」

「百合宮さん!」


 ううっ、そんな縋るような目で私を見ないで!

 私は神様でも何でもない、ただのか弱い女の子なんだよ!?


 いきなり話を向けられて、けれどすぐに首を縦に振れない私を見かねた裏エースくんが西川くんの肩を掴んだ。


「あー分かった。行くから。だから花蓮を追い詰めんな」

「太刀川!」


 喜色が広がる西川くんにハァと息を吐き出すと、裏エースくんは私達を見回す。


「全員で行くのもあれだしな。女子と拓也はここに残って待ってろ。下坂は俺と一緒に行くぞ」

「わかった!」

「た、太刀川くん!」


 思わず呼び掛けてしまった私に、彼はニッと笑って言った。


「大丈夫だって! すぐに戻ってくるからさ」


 そのまま走って行く彼等を見送って残った私達の中で、最初に口を開いたのは木下さんだった。


「……何か私、嫌な予感がする」

「香織ちゃん?」


 ギュッと両手を握りこんで瞳を潤ませる木下さんは、ポツリと呟くように言葉を落とした。


「入学する前に聞いたの。今年の聖天学院の新入生って、お家に力のある家の子が多いって。もし怪我させちゃった子がそんな子だったら、Cクラスの子……」

「か、考えすぎだよ! 太刀川くん達もすぐに帰ってくるよ」


 不安が広がっていく木下さんを何とか宥めようとしているが、相田さんも彼女の話を聞いて、落ち着かない様子でアスレチックのある方を見つめている。


「……」


 私は眉間に皺を寄せ、少し視線を地面へと落とした。


 木下さんの言う家に力のある子とは、考えずとも四家の御曹司と麗花のことであることは明白だ。けれど突出している彼等の他にも、それなりに力のある家はある。


 本当にただ何のしがらみもない、占める生徒のほとんどの層が一般庶民の学校であったなら、ケチはつけられるだろうがその場限りで終わるだろう。

 問題は清泉が完全な一般庶民で占めた学校ではなく、上流階級の中でも中流階級の家の子が占めている学校だということ。


 つまり上流階級の家と直接取引をしている家が多いのが、この中流階級。もし怪我をさせたCクラスの子と怪我した聖天学院の子とで、家が関わってくるような騒ぎにまで発展してしまったら。


「見過ごすわけにはいかない、よね」


 他のクラスの子が起こしたことだと言っても、止められるのなら止めた方がいいだろう。それに同じ班員である太刀川くんと下坂くんが行ってしまったことで、もう無関係ではいられないのだから。


 地面から顔を上げて、三人を振り向く。


「私、追いかけてきます! 皆さんはここで待っていてください!」

「え? 待って花蓮ちゃん! だったら僕も行くよ!」


 たっくんの後から、相田さんと木下さんも同調して声を上げ始めた。


「もうこうなったら皆で行こうよ! 残されるのはヤダ!」

「私も! 同じ班だもん、一緒に行く!」


 引く様子のない彼女達を見つめ、苦笑する。


「わかりました。では全員で行きましょう!」

「「「うん!!」」」







『それにしても驚きましたわ。違う学校同士、行事の行き先が重なるだなんて。問題が起きなければいいのですけど』


 アスレチックに向けて走り出した時、どうしてか、麗花のあの不吉な言葉が私の頭の中で再生されたのだった。

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