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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode34-2 黒装束の子との約束

「「あ」」


 おじさんが振り返り、そのおじさんを見た坂巻さんが同時にそんな声を発する。


 なに? 二人って知り合いなの?


 男の子の方を見れば彼も知らないようで、首を横に振られた。そしてどうやら知り合いらしい彼等は、ややあって彼等にしか分からない話をし始めた。


「何ともまぁ、珍しい場所でお会いしましたね」

「それはこちらの台詞ですよ。……ということは、こちらが?」

「そちらも、ですよね?」


 ……あの~。うんうん頷き合っているところ悪いんですが、放っておかれている私達はどうすれば?


 男の子も同じことを思っていたらしく、おじさんへ話し掛けた。


「御木さん」

「あっ、すみません坊ちゃま。用事は済みましたか?」

「買い物自体は済んだんですけど、その……」


 チラッと視線がこちらへと向き、それに気づいた坂巻さんからも問いかけられる。


「お嬢さま?」

「あのですね、以前の催会でこの子にお借りしたものがあって、返しそびれているものがあるんです。ずっとお預かりしていたのですが、今日偶然店内で再会できまして。後日会ってお返しするということになったんですけど、連絡手段が思いつかないのです。坂巻さんはどうすればいいと思いますか?」

「そういうわけなんです。御木さんも一緒に考えてみてくれますか?」


 私達からの相談を受け、大人二人は顔を見合わせた。御木さん、というおじさんが苦笑する。


「坊ちゃんにお嬢さん、ここで自己紹介してもよろしいのでは?」

「ここで?」


 男の子が疑問の声を上げたが無理もない。

 上流階級の人間は社交場や学校以外で名乗りをすることは、まずないと言っていいからだ。今生ではそういう風に教育を受けているので、まぁこの世界にも色々あるのだ。


 けどおじさんも坂巻さんも互いの家がどこかは分かっているようなので、おじさんの言うことに坂巻さんが何も言わないってことは、もしかして百合宮と釣り合いのとれる家の子なのかな?

 あ~も~気軽に自己紹介もできないって、本当に面倒くさいな上流社会!


 ここで私はひとつ妙案を思いついた。


「わかりました、こうしましょう! 坂巻さんとおじさまはお知り合いのご様子ですので、坂巻さんからおじさまへお預かりして頂き、おじさまからお渡し頂くのはどうですか? こんな風に偶然お会いできたのです。私達はまた機会があればお会いできると思いますから、その時に正式に自己紹介をしませんか?」


 うん、言いながら思ったけど本当にすごい縁だよね。二度あることは三度あるって言うし、同家格の家ならどうなるかは分からないけど、会う機会はかなりの確率であると思うもの。


 私の提案にどこか難しそうに悩んでいた様子の男の子だったが、結局は「そうしよう」と賛同してくれた。なぜか大人二人は微妙な表情をしていたが。


「では無事にお話も纏まりましたし、帰りましょうか」

「わかりました」


 坂巻さんに促されてベンチから立ち上がると、男の子も立ち上がっておじさんの傍へと行く。

 何となしに見つめていたら、男の子が振り返った。


「水島家の会社設立二十五周年記念パーティ」

「はい?」

「今のところ俺が絶対参加する予定の催会。一応、な」


 突然何だと思ったが、後の言葉でなるほどと思った。わざわざ教えてくれるなんて、やっぱり律儀な子だなぁ。


「ふふっ、ありがとうございます。またお会いできるといいですね!」

「……ああ。楽しみにしてる」


 目が細まったので、恐らく微笑んだのだろう。

 うん、次に会う時は表情が見える姿で会いたいな!


 別れを告げてそれぞれの家の車に乗り込み、購入したお菓子袋の入った袋を膝の上に抱えて窓の外を見つめる。緩やかに発進した車の中で流れゆく街並みを少し見た後、今後の予定を思って思わず表情が緩んだ。


 遠足も楽しみだし、あの子との再会もとても楽しみだ。


「二十五周年記念パーティかぁ。いつだろう! 坂巻さんは知ってますか?」

「はい。確か、八月半ばの日程でございましたよ」

「八月半ば」


 その頃だと夏休み掛かってるな。まだ先の話かぁ、ちょっぴり残念。招待状や話が来ているか、家に帰ったらお父様に確認しとかないと。





◇+◇+◇+◇+◇+◇+





「おかえり、花蓮」

「ただいま帰りました、お兄様!」


 家に帰宅したら珍しくお兄様が玄関にいて迎えてくださったので、手を繋いで一緒にリビングへと向かう。


「どうだった? 初めてのおつかい」

「とても楽しかったです! 見てください、こんなに入っていて三百円ぴったりなんですよ! とってもお得!!」

「へぇ。あ、これ見たことない」


 お菓子パックを掲げて見せながらリビングに入り、部屋を見回していつもの長ソファへと腰掛ける。


 あれ?

 いつもここで迎えてくれるお母様がいないぞ。


「お兄様、お母様は?」

「母さんなら春日井の奥様とショッピングに行くって出掛けて行ったけど。知らなかった?」

「言ってましたっけ?」


 お母様にも報告したかったんだけどなー。まぁいいや、帰ってきたら言おうっと。それにしても、春日井のお母さんとウチのお母様って、仲良すぎじゃない?

 どうなの? これって大丈夫なの? いや不仲よりはいいけど。


 変な顔をしていたらしく、お兄様に「どうかした?」と聞かれたので首を横に振っておく。


「あ、そうだ。花蓮の学校は遠足ってどこに行くの?」

「ええっと、私のクラスはルルグゆとり公園です。初めて行きますけど、遊具も自然も多くあるらしいので男女とも楽しめると聞いてます」

「ルルグゆとり公園か。そう、楽しみだね」

「はい!」

「あとこれも知ってるかな?」


 ゆるりと首を傾けて意味深な問いを放つお兄様を見つめ、どういうことかと目で問えば、お兄様はいつものようにふわりと微笑んだ。


「実はね、聖天学院初等部の六学年は一学年と一緒に、親交行事をすることになっているんだ」

「そうなんですか」

「うん。それでね、花蓮の学校と日程も同じみたい」

「……そうなんですか」

「行き先もさすがに五クラスあったら一ヶ所じゃ難しいらしくて、二ヶ所に分かれるんだけど、その内の一ヶ所がルルグゆとり公園なんだよ」


 ソーナンデースカー、ヘェー。


「楽しみだね?」


 ……それは純粋に親交行事が楽しみってことでよろしいんですよね、お兄様?

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