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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode32.5 side 薔之院 麗花⑥-1 8回目のお家訪問

「麗花お嬢さま、お忘れ物はありませんか?」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ、西松。それでは行ってきますわね!」

「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」


 執事長の西松と何人かの手伝いの者達に見送られて車の中に乗り込んだ私は、いそいそとポシェットの中身を確認する。


 大丈夫ですわ、忘れ物なんかありません!

 この薔之院 麗花、初日のような失敗は犯しませんことよ!!


 と言うのも、実は初めてできたお友達――百合宮 花蓮のお家へ初めて訪問した際に、西松から渡されていた手土産を緊張のあまり、自室に忘れてくるという失態を演じてしまったのだ。

 それ以降、出掛ける時には絶対に忘れ物をしないように気をつけている。


「もう、遊びに行くのも八回目になるのだから! いつまでも緊張なんてしていられません」

「お嬢さま?」


 窓の外の景色が通り過ぎていく中一人ブツブツと呟いていると、どうやらその呟きが耳に入ったらしい。運転手の田所たどころから不思議そうな声が掛けられた。


「な、何でもありませんわ!」

「ははっ。お嬢さまが楽しそうで何よりです」

「~~~~!」


 何だか気持ちを見透かされたような言葉に、カアァ~と頬が熱くなる。

 以前なら八つ当たりの如く喚いただろうが、あのお茶会の失態があって以降、人に対する態度にも気をつけるようにしている。


 もう二度と、あんな家の恥になるような振る舞いはしませんわ!


 唇を尖らせて、プイっと窓へと顔を向ける。

 ……クスクス笑うんじゃありませんわよ田所!


「もうすぐ百合宮家へ着きますよ」


 コクンと頷いて、自然と頬が緩んでゆく。


 こんなに誰かに会うのが楽しみになるなど、夢にも思わなかった。催会に出席しても諦めと苦痛ばかりで、車に乗り込むことでさえ億劫だったのに。


 そうして着いた百合宮家。

 案内を手伝いの者に引き継いだ田所に微笑んで見送られ、今では既に見慣れた玄関を通って、はやる気持ちを抑え切れずに小走りで部屋の扉を開けると。


「花蓮さん!」


 扉の向こうには会いたかった彼女と、もう一人、年上の少年が並んでソファに座っていた。

 私を見留めた花蓮さんがこちらへとやってくる。


「ようこそ、麗花さん。そんなに急がなくても私は逃げませんよ」

「べ、別に急いでなんかいませんわ! 何を言いますの! あっ奏多さま、お邪魔いたしますわ」


 図星を指されて苦し紛れに言い返した後、彼女のお兄様である少年へと挨拶をするのも忘れない。

 彼もまたこちらへと歩いてくると、穏やかに微笑んで挨拶を返してくれた。


「いえいえ、どうぞごゆっくり。いつも花蓮と仲良くしてくれてありがとう」


 ふわりと笑うその優しい微笑みに暫し見惚れてしまう。

 初めて会った時には、あまりにも紳士的なその対応に顔が真っ赤になってしまったのは記憶に新しい。


 だってまさか、「可愛いお友達ができたんだね?」と言って、帰り際に小さいブーケをプレゼントされるだなんて誰が思いますの!?


「それじゃあ行きましょう、麗花さん」

「ええ! 失礼しますわ、奏多さま」


 花蓮さんに促されて、奏多さまにペコリと頭を下げて後に続いて彼女の部屋へと入れば、何をしたいか聞かれたので、前に話の中に出てきたあやとりを見せて欲しいとリクエストする。


「あやとりですね」


 そう言ってベッドの下から箱を取り出した花蓮さんは、中から紐を取り出した。

 何でベッドの下に隠すように置いてあるのか、少し気になるところではあるが、それよりも手で紐を操っているその動きの方が気になる。


「ヒモ? あやとりはヒモを使うんですの?」

「そうですよ。ほら、これが川です」


 バッと見せられるが、川、を表現しているのであろう形は言われたらそう見えないこともない。いやでも。


「……地味、ですわね」

「ではこれは? 東京タワー!!」

「……」


 ジャッジャーンと先程より得意げに見せられても、ぶっちゃけ何が面白いのか分からない。

 そんな無反応に等しい私の様子を見て、花蓮さんは静かに紐を箱の中にしまっていた。


「……ずっと言おうか迷っていたのですけど、あなた、遊びが時代遅れではありませんこと?」

「ズバッと言い過ぎですよ!」


 正直に言ったら怒られた。


 だって今までやったのって福笑いとかお手玉とか、どれも一昔どころか随分と古めかしい時代の遊び道具を使ってのものばかり。

 それが悪いと言いたいわけではないが、何だかちょっと時代に取り残されている気分になってしまい、センチメンタルになってしまうのだ。


「あーもう、暇ー」


 そう言ってゴロゴロとカーペッドの上を転がり始めた彼女にギョッと目を剥く。


 こ、この子ってばまた……!


 そう、何回か遊びに来るたびに段々とこのような奇怪な行動をするようになったのだ。信じられない気持ちで花蓮さんを見ていると目が合った。


「あなた何をしておりますの!?」

「え? 麗花さんもやる?」

「は!? やりませんわよ、何を言っていますの!?」


 どうして私が、そんな令嬢にあるまじき行動を一緒にしなくてはなりませんの!?


 決まって遊び道具を箱の中にしまった後は、本を順番に立ててドミノにしたり(本は立てて倒すものではなく読むものだと注意した)。


 ベッドをトランポリン代わりに飛び跳ねて、どっちが高く跳べるか競争しようとしたり(ベッドは飛び跳ねるものではなく寝るものだと注意した)。


 じゃあどっちが足早いか勝負!と部屋の中で走ろうとしたり(じゃあって何!? 部屋の中で走るなと注意した)。


 ……私注意してばっかりですわね!?


「ところで花蓮さん。あなた段々崩れてきてません……?」

「え? 何が?」


 何が?じゃないですわよ!


「私に対する態度のことですわよ! 何の躊躇いもなく床の上を転がる子なんて初めて見ましたわ!」

「床じゃなくてカーペッドの上ですよ~?」

「同じ事ですわよ!?」


 まったくこの子はもう!


 初めて出会ったあの日が懐かしく思えてくる。

 口に出して言ったら、自分で妥協を言い始めたのでバッサリ切り捨てておいた。


 でも、令嬢っぽくないどこか残念な姿を見せられてもがっかりどころか、むしろ何気なく受け入れ始めている自分に少々驚いている。

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