Episode32-2 女子から見た花蓮とは
あの時は麗花のことでいっぱいいっぱいだったので、他の参加者のことはあまり良く覚えていなかったのだ。
「あの子は木下さんだったのですね」
「はい! あの、あの時は碌にお礼も言えなくて、ごめんなさい。私、あまり催会好きじゃなくて、ずっとお礼言わなくちゃって思っていたのに」
「まぁ、お礼なんていいのですよ。それに私も催会には全然出席しておりませんし」
ずっとってあれ去年の春の話だし、一年も気にしてくれてたんだ。木下さんって良い子だな~。
木下さんは目をウルッとさせた。
「あの時は、ありがとうございました。わた、私と、お友達になってください!」
バッと頭を下げてフルフル震えている彼女に、ハッとなる。
えっ。もしかして今、お友達になってほしいって言ってる?
こ、これは待ちに待った女の子のお友達チャンス! このチャンスを今ものにしなくて、いつすると言うのか!
「勿論です! ぜひお友達になりましょう! ええ、ええ!」
「ほ、本当に? 私が百合宮さまのお友達に……!! うっ、うえぇ」
木下さんの手を即座に握り、驚いて顔を上げた彼女に勢い込んで快諾すると、感激した様子でまた涙をこぼし始めた。
隣に座っている相田さんがホッと息を吐いて「良かったね~」と背中を擦り、木下さんはコクコクと頷く。
そして相田さんの視線が今度は私の方を向き、ニコッと笑む。
「ってことで、私ともお友達になってほしいな!」
「……えっ!?」
まさかの続けての友達申請に驚きを隠せずにいると、そんな私の反応をどう受け取ったのか、相田さんが唇を尖らせた。
「だって私も百合宮さんともっとお話したいし、遊んだりしたいもん。ね、いいでしょ?」
「それは、はい。私でよろしければ」
「よかった!」
ニコニコと笑う相田さんは本当に可愛らしい。
い、一度に二人も女の子のお友達が……!
どうしよう、何の心の準備もしてなかったから嬉し過ぎて、逆に反応ができない!!
「良かったね、花蓮ちゃん!」
「ホント。友達増えて良かったな」
「はい! ありがとうございます、拓也くん! 太刀川くん!」
笑って祝ってくれる二人に、ようやく実感が沸いてくる。
笑顔でお礼を言うと頷いてくれた。
「あ、そうです。木下さん。気になっていたのですけど、私のこと様付けで呼んでくださるのはちょっと……」
ここが聖天学院だったなら話は別だが、どちらかというと私立と言っても中堅層の子が通うこの清泉小学校では絶対に合わない。
うん、一般的に考えても“さん”か“ちゃん”だよね。
「拓也くんや太刀川くんが呼んでくださるように、名前で呼んでくださいな」
「そ、そんな! 私程度の家の子が百合宮さまのことをお名前で呼ぶなんて……! お、恐れ多いよ」
私の提案にプルプル首を横に振って拒否する木下さんに、相田さんが首を傾げた。
「恐れ多いって、同じ子供じゃない」
「ち、違うよ! 百合宮さまは子女の憧れの的で、理想のご令嬢なんだよ!」
「えぇ?」
驚きの声を出した私に、木下さんが目を大きく見開く。
「百合宮さままで! あのお茶会に参加していた子は全員、百合宮さまに憧れているのに!」
プンプンと頬を膨らませる姿はとても可愛いが、言っている内容がちょっとよく分からない。
憧れるって、別に特別なことは何もしていない筈なのに。
「……だって百合宮さま、とても怒っていた薔之院さまを説得してくれて仲直りさせてくれたの、すごいことだよ。部屋に入ってきた時の百合宮さま、すごく凛としてて、でも優雅な振る舞いで。私もあんな女の子になりたいってお、思ってます!」
「そ、そうなのですか」
緊張が峠を越えると逆に饒舌になるらしく、真っ赤な顔をして強くそう宣言した木下さんに、少しばかり圧倒されてしまった。
そんな風に思ってくれているのは嬉しいけど、でもそれって外用の振舞いだからなぁ。何だか申し訳ないなぁ。それにそんな風に思われるほど出来た人間じゃないよ、私。乙女ゲームの敵キャラ令嬢だし。
よし、こうなったら……!
「でも私、やっぱりお友達にはお名前で呼んで欲しいです。ダメ、ですか……?」
眉を下げて悲しそうな表情で、そっと木下さんを見つめる。そうするとそんな私のおねだり攻撃に彼女もまた、目を潤ませて慌てだした。
「ダ、ダメだなんて。そんな、私、そんな顔をさせたいわけじゃ」
「花蓮と。いえ、難しいのでしたらせめて百合宮さんで」
「ううっ。ゆ、百合宮さまぁ」
「最後の一文字だけです。百合宮さん」
「ゆり、みやさん」
「そうです! 百合宮さん」
「百合宮さん」
オッケー! 中々スムーズに言えたね!
「……ねぇ。やっぱり香織ちゃんが言うような、雲の上のお嬢様って感じの子じゃないと思うんだけど」
「だろ? 見た目で判断しちゃダメだからな」
「何だよ太刀川と相田。百合宮さんはすごいお人だぞ!」
「……あはは」
ん? 四人でコソコソとなに話してるの?
木下さんと一緒に顔を向けると、四人は「何でもない」と言って向き直った。えー気になるじゃん。
それから私達はお互いの親睦を深めるため、他愛のない話をして残りの時間を過ごした。
うん、とても遠足が楽しみになってきた!
当日はちゃんと晴れると良いな~。
帰ったら部屋にテルテル坊主を吊るそう、そう心に決めた私であった。




