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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode293.5 side 尼海堂 忍②-2 修学旅行三日目~忍は何の夢を見るか~


……話せないことだと心当たりが一つしかないもうヤダ本州に帰りたい。


「……緋凰くん」

「陽翔とは後で合流する形になってる。それからは三人で回ろう」


 回ろうとかもう何か決定事項みたいな言い方されたのだが。


 微笑みの圧が某トラウマを刺激してきたのと、さっき知った香桜女学院の件もあって内心渋々その誘いを了承することにした。

 後から緋凰くんが合流するのなら、近くにいた方が未然にトラブルを防げるのではないかと思ったのだ。去らば、ストレスフリーな自分の修学旅行よ……。


 特に市内での行き先などは決めていなかったので、春日井くんの隣に並んで札幌の通りを歩き始める。……女子らが追い掛けてくる気配はない。それは珍しくも春日井くんが分かりやすく、人を受け付けない雰囲気を出しているからだ。


 女子の一部が積極的になって一番被害を被っているのは、何と言っても春日井くんだ。秋苑寺くんも基本的に女子に対して受け入れ態勢だが、彼の場合は空気を読まずに踏み込み過ぎるとバッサリいくことがある。

 だから踏み込んでもバッサリいかず、やんわりな春日井くんにいつも集中するのだ。


 その彼がこうも判りやすく『話し掛けてくるな』オーラを出している。自分に向けられて発せられているものではないとは判るが、いつもと違う雰囲気を纏う彼に話し掛ける勇気が彼女らにはなかったのだろう。


「――尼海堂くんはさ。高等部、どっちに行くの?」


 雑踏に紛れた中で、唐突に発せられたそれ。

 意外な切り口で来たなと思ったが、まあ彼の親友幼馴染とも自分は関わっているし、彼にとって自分の進路先は気になることなのだろう。

 正直、自分はどっちでも良かった。未だ忍者になるという夢は諦めきれないが、現実をちゃんとその視界に映して見ると、それは本当に夢物語の世界なのだと突きつけられていた。


 彼等が生きていた時代は、それが必要とされることだったからだ。自分が生きているこの時代には、彼等は不要な存在であるのだと既に理解している。


 それに自分は尼海堂家の一人息子で、その家の跡取りという立場。

 幼い頃は許されていたそれが(母はずっと口煩く言っていたが)高等部進学選択の用紙を配られて帰宅した日に、それまで何も言わなかった寡黙な父から言われたのだ。


「……真剣に考えなさい」 と。


 自らに修行を課したことで身体的な能力は秀でていると思う。父は柔道家、母はフェンシング選手。両親は互いに現役選手として自らを鍛え、指導者として人に教えている。

 父は自分に柔道もフェンシングも課そうとはしなかった。父は息子なのだから己の跡を継げ、とは言わない。そういう人だ。


 それに後継と言うのならそれは自分ではなく、ヤツが――――郁人がいる。

 自分が忍者修行に一直線になっている時、郁人は叔父に引き摺られて柔道を習わされていた。


 道場に来るたびに『なんでボクが』『ボクはあつくるしいのがキライなのだよ!』とブリブリ言っていたが、ある時から柔道をすることに対して文句を口にしながらも、それが満更でもなさそうな態度に変わっていたのだ。


『……面白い子猿がいてね。まあ彼の相手をするのはそう嫌でもないから、あの悔しそうな顔を見るために僕が更に強くなるというのも(やぶさ)かではないさ。ハッハッハ!』


 コイツ普通に性格外道と思った。


 だから例えそんな動機でも、ずっと柔道に取り組み続けてきた郁人を押し退けて自らが後継者となるには、些か身勝手すぎると感じた。

 父と叔父は兄弟で、自分たちも従兄弟という関係。同じ血筋なら、ずっとやり続けてきた郁人の方が“尼海堂”を継いだ方がいいだろうと。


 郁人が指導者たる父の跡を、道場の経営をしている叔父の跡を自分が。

 だから自分が銀霜か紅霧、どちらかに進むとしたら、それは――



「――――紅霧学院」

「え?」


 答えて、若干驚いたような応えが返ってくる。

 視線を向ければ、声音の色と同じく意外だというような顔をした春日井くんが自分を見ていた。


「いや、てっきり銀霜学院の方かと」

「……“尼海堂”の一人息子だから?」

「それもあるけど、秋苑寺くんがそっちだから。陽翔のことを頼んだけど、仲が良いのは秋苑寺くんだろ?」


 ……仲が良いと言うのだろうか?

 まあ秋苑寺くんとは友達ではあるが。


「家と、自分の将来像を真剣に考えた結果。“尼海堂”の道場を継ぐのは、自分」



 ――郁人と話をした。五年生の時に彼から情報収集の連絡を受け、その一年後の同じような時期にこちらから彼に連絡を取り始めてから、他愛ない連絡を取り合うことが互いに増えていたからだった。

 だから聞いてみたのだ。将来のことをどう考えているのかと。


 そうして話をして自分の将来像を伝えた時、お互いが納得する形になった結果として――自分は紅霧学院に内部進学、郁人が銀霜学院を外部受験することに決まったのだ。



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