Episode286-2 修学旅行一日目~知らなくていいこと~
奉行所の正面にある袋に靴を入れて中に上がり色々見て回ったが、現代からは時代を感じさせるその風情や歴史に触れて、感慨深く感じたものである。
一緒に行動しているのは麗花のクラスとではないので分からないが、日本にいたい純日本人な麗花さんはきっとこういう歴史とか好きなんだろうなと思ったりした。
そうしてそこでの見学を終えたら一旦バスで宿泊ホテルへ向かい、休憩を挟んで夕食を摂ったら再びバスに乗車。
貴重品以外をホテルに置いて向かった先は、函館山。皆が修学旅行で楽しみにしていた行き先でも上位に上がっていて、到着するまでカーテンを閉められていたバスから降車した際にはその夜景の素晴らしさに思わず歓声が上がり、ロッテンシスターから注意を受けてしまったほど。
「花蓮ちゃん!」
「桃瀬さん」
庵駅からの登りロープウェイでゴンドラに乗って山頂に着いた後、クラスの数人と固まって屋上展望台で夜景を楽しんでいたら、クラスのお友達といた桃ちゃんが笑ってこっちに来た。
一緒にいたお友達と私のクラスの子達は何故か私と桃ちゃんを二人にして離れていく。
ううむ。【香桜華会】メンバーが揃うと見守る体制になるのは、仲を深めても変わらないようである。
「花蓮ちゃんすごいね! こんなキラキラしてる景色見たの、桃初めて!」
「そうだね。さすが世界三大夜景とも称される、百万ドルの夜景だよね」
二人で再び展望台を見渡して見る、函館市内の夜景。そこには無数の光が輝いており、まるで空にあった星を地上に散りばめたかのような、幻想的な光景が果てしなく広がっている。
……同じ場所にいたら、一緒に見たかったなぁ。
そんな風に思っていたら、「花蓮ちゃん」と桃ちゃんに呼ばれる。
「なに?」
「花蓮ちゃんの好きな人って、どんな人なの?」
「え」
いきなりのドンピシャリで言われた質問にびっくりして彼女を見れば、ジッと見つめられる。
おかしい。私はニヤニヤしていなかった筈。
「皆がね、言ってたの。今度は恋人と一緒に訪れたいって。婚約者がいる子は頷いていたけど桃は絶対嫌。それで好きな人がいる花蓮ちゃんもそうなんだろうなって思ったら、花蓮ちゃんが好きになる人ってどんな人なんだろうって、気になったの」
許嫁と同じ学校に通っていると言っていないからヒヤリとしたが、恋に夢見る乙女たちは正反対の極致にいるそんな桃ちゃんの興味を刺激したらしい。
まあ確かに幻想的な夜景はロマンティックで、私もそんな感じのことを思ったけど。
「そ、そうだね……。取り敢えず、小学校では男女関係なく人気のある人だったよ。低学年の頃はラブレターもたくさん貰っていて、バレンタインでも毎年たくさんのチョコを……もらってたなぁ」
当たり前のように解っているけど、本当にどんだけモテていたのか。非モテ同盟男子避けのお守りと化している私とはえらい違いである。
「す、すごい人なんだね。花蓮ちゃんの好きな人って」
「まあすごいって言ったらすごいね。私、心の中では出来過ぎ大魔王って呼んでいるんだけど、運動神経も頭も良いし、外見だって爽やかで性格も明るくて正義感が強いから、皆に頼られていたし。あと料理もできて家庭科スキル半端ないし、ホワイトデーじゃ女子力の敗北を突きつけられたし。あと目を閉じているのに私が見ていることを察知されたり」
「な、何かすごすぎて逆に想像し辛い……」
本当に何者? 人間?って感じの要素しか出てこない。
褒めている筈なのに自然と私の顔はスンとした。
「お友達ってお互いにそう思っていたけど、私がその人のことを好きって自覚したのは、彼がずっと、私のことを守ってくれていたことに気が付いた時なんだ」
有栖川少女の生誕パーティでもそうだし、一年生の遠足の時だって私が困っているのを見て、現場に行かないように自分が行くと買って出た。その夏の、あの時のパーティでだって……。
「たくさん、たくさん守ってもらって、私も守りたいって思ったの。今は離れているけど、あともう少ししたら会えるから楽しみにしてる」
「そっか。でも花蓮ちゃんは不安じゃないの? そんなにすごく女の子にモテる人なら、香桜にいて不安じゃない?」
「ああ、うん。でも彼が言ってくれた、『私だけしかいない』って言葉を信じてるから。それに学校だってだn」
自らの手でバチンと己の緩い口を塞ぐ。
 




