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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode280-2 最悪なお知らせ


 一旦ストップが掛けられて三人同時に深呼吸を数回繰り返し、そうして上った血を下げて落ち着きを取り戻したところで対応策へと話は戻る。


「それでどうする? 取り敢えず桃ちゃんから目を離さない、物理的にも離れないことは前提として、どう桃ちゃんと徳大寺を会わせないようにするか。それしかないと思うんだけど」

「これは? 花蓮が普段されているように撫子を中心にフォーメーション組んで、外から見て撫子がいるって分からないようにするの」

「それでしたら囲むのは撫子よりも背の高い生徒じゃなければいけませんわ。それにそうするのなら協力を仰ぐべく、撫子の事情を少なからずその方たちに話さなければならなくなりましてよ」


 桃ちゃんの事情を明かすのは限りなく避けたいことである。


「んー……。私達が傍にいるのが一番良いんだろうけど、全員クラス違うしね。移動だってクラスごとだろうし」

「圧倒的に離れてる時間の方が多いよな。一緒にいられるのって多分ホテルとか、自由行動の時くらいだろ? あ。クラスの班別行動とかあると思うか?」


 言われて考えるも、麗花がその問いにいち早く答えを返す。


「あると思いますわ。修学旅行と言っても遊びではなく、学習の一環ですもの。ある意味修学旅行も校外学習のようなものですわ」

「クラスごとに施設とか周る時はでも、他の学校と同時ってことは可能性低いと思う。団体数にもよるけど普通のお客さんもいるだろうし、そこは施設側が見学時間を配慮している筈だよ」

「じゃあやっぱ問題になるのは、班別と自由行動の時か」


 うーんと皆で悩む中で、その時コンコンとドアがノックされる音がした。三人で顔を見合わせると、「麗花ちゃん、いる?」と桃ちゃんの声が聞こえてくる。

 話していた内容が内容なので顔に出して慌てるも、さすがに居留守は不味いと思ったのか麗花が桃ちゃんを出迎えてしまった。


「撫子、どうしましたの?」

「うん、あのね……って、あれ? 皆麗花ちゃんのところにいたの?」

「ちょっとな」

「たまたまだよ、たまたま」


 特に何もありませんよーという体を装って答えるが、それに首を傾げながらも桃ちゃんは中に入り、テテテと私の方に向かってくる。


「桃、花蓮ちゃん探してたの。ちょっと聞きたいことがあって」

「え、私? なに?」

「学年劇のことなんだけど。葵ちゃんには聞いたけど、花蓮ちゃんにはまだだったから。足並み揃えるけどどういう風にキリストさまを演じるのかは、独自性があった方が観る人も楽しいかなって。皆と違うキリストさまをやりたいなって思ってるの。練習もこれから始めなきゃだから」


 そう。私はやすやすと主役を引き受けるとは思っていなかった訳だが、普通に『花組』は主役に収まっていた。もちろんイエス誕生の場面でキリストさまがいない麗花のところは、彼女が聖母マリアさま役だ。


「きくっちーはどんなキリストさまをやるの?」

「アタシは復活の場面だからやっぱ、元気に復活したぞ!ってところを見せなきゃだろ? 子分どもを引き連れる感じで、堂々と練り歩こうかなって」

「元気に復活どころか信者の前に現れてもすぐに消えるのですから、元気とは程遠いじゃありませんの。どうなんですのその解釈」

「劇中ユーモアだって、ユーモア」


 きっとその劇を見て入学した後輩は、宗教科授業を受けて混乱することだろう。あれ? 元気に練り歩いてなかった?って。


「私のキリストさまはそうだねー。最後の晩餐と処刑劇を一緒くたにしなくちゃだから、そのギャップを見せようかなーと。弟子に語りかける優しさを見せながらも、処刑やめろ!って感じで暴れてみたり?」

「花蓮が暴れても高が知れてそうだな」

「暴れても結局ステージの上で転がされてそうだね」


 それで担架に乗せられて処刑場の十字架まで運ばれるの? 嫌だよ、そんなヘンテコなキリストさま。


「うーん、そっか。桃どうしようかな。宣教活動の場面だから二人と違って、どうやっても真面目になっちゃいそうなの」

「真面目でよろしいですわよ。二人の方がおかしいのですから」

「麗花ひどい!」

「劇にはユーモアも必要だぞ!」


 うーんうーんと桃ちゃんが演じる方向性で悩む中、密かに視線を交わし合う私達三人。お互いにどうするかと見つめ合って、けれど初めから答えは一つしかなかった。


「撫子」


 麗花が桃ちゃんを呼ぶ。

 顔を上げてきょとんとする桃ちゃんに、彼女が残酷な現実を伝える。


「今年の修学旅行ですが。……香桜女学院も有明学園も、ともに行き先は、北海道ですわ」


 その瞬間、告げられた彼女の両目が大きく見開かれた。



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