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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode279-2 あの人の受験先


「あれ? でも後継者候補なんでしょ? 何で高校を受験するのに進路がその従兄弟次第なの?」

「後継者に決まってるならアレだけど、まだ候補だからだよ。従兄弟も従兄弟で何かの修行はしているし、郁人の目から見ても型さえ習えばすぐに実力も伴うってくらいの奴だから、ソイツが後継者になる可能性もまだあるんだよ。だから従兄弟の進路次第でアイツの進路も決まることになってる」

「え、それ聞いたのいつ? まさかこの夏じゃないよね?」

「この夏だな」


 この夏で進路がまだ決まっていない!? 余所様のご家庭事情とは言え、何て傍迷惑な人間なんだその従兄弟は。


「ていうかそれで土門くん自身は納得してるの? あと何でそんなギリギリ進路なの!?」

「本人的にはどっちでもいいみたいなことは言ってたよ。本家が継ぐんならその方が正当だし、候補から外れても親みたいに経営に回ればいいからって」

「土門くん……」


 その心底どっちでも良さそうに思ってそうな感じの彼の回答に、以前きくっちーから聞いた彼の話を思い出す。

 きくっちーが初めて土門少年と出会った時の交流試合で、彼は終始嫌そうな表情でいて怠そうな態度を取っていたと言っていた。親に言われて、本当に仕方なくだったんだろうな……。


「郁人も勉強はできるみたいだし、ギリギリの進路に関しては、その従兄弟が聖天学院生っていうのが大きいんだよ。従兄弟が内部進学で紅霧行くんなら後継者になると見て、アイツは経営で銀霜…」

「ええっ!!?」

「っ!?」


 予想外過ぎる進路先にびっくりし過ぎて籠を床に落としたし、その声の大きさと落下音にビクッとするきくっちー。

 体幹が良いので脚立から落ちることはなかったが、それでも咄嗟に彼女は脚立の天板を掴んでいた。


「きゅ、急に大きな声出すなって! いくらアタシの反射神経が良いって言っても、さすがに高いところから落ちたらヤバいからな!?」

「ご、ごめん。え、ちょっと何? 本家の従兄弟、聖天学院生なの?」


 謝りつつ落とした籠と中身を拾いながら聞けば、怪訝そうにしながらもコクリと頷かれる。


「そう。だから界隈では有名な家なんだって。逆に従兄弟が銀霜行くんなら、郁人は紅霧に行くことになってる」


 マジか。何で私の身近にいる親しい人たちの高校進路、ほぼ全員聖天付属の紅霧学院か銀霜学院なの?

 他にもあるじゃん。ほら、私が候補に挙げてた玉宝院学園とか、叢雲学院とかさあ!


「そっかぁ……。土門くん、聖天学院付属かぁ……」


 去年誰よりも早く再会してまた同じ学校に通う可能性があるとか、もし進路が紅霧になってお互い合格したら、また安井金毘羅宮のこと言われるんだろうな。そして毒をしこたま吐かれるんだろうな……。


「世間が狭すぎ問題」

「え。もしかして花蓮、聖天学院受験すんの?」


 今度は私がコクリと頷いて紅霧を受験すると言うと仰天され、しかもたっくんや春日井から言われたこととまったく同じことを言われたので、ほぼ同じことを彼女にも返しておいた。


「麗花には内緒ね。合格する気満々だけど、まだ分からないし。あとこれサプライズだから」

「わ、分かった。つーかそれサプライズにするって……いや、そりゃすごいサプライズにはなるだろうけど。じゃあ実技試験までの休日は、アタシもコーナー走るの付き合うよ」


 思ってもみない提案に目を瞬かせてきくっちーを見つめる。


「え、いいの? 柔道の練習は?」

「友達の受験対策の方が大事だって。特に花蓮だしな。……うん、陸上なら花蓮でもどうにかなりそうだな」

「自分の実力は分かっているから敢えて反論しないけど、でもありがとうきくっちー!」

「うん。もし郁人と紅霧で一緒になったら、アイツのことよろしくな」

「よろしくされるのは多分私の方だけど、オッケー!」


 女子関係なら任せて! きくっちーという可愛い彼女がいるのに、女子に囲まれて楽しそうにキャイキャイしていたら浮気と見做して、一人で数百の兵の力で以ってとっちめてやるから! ガムテープでグルグル巻きにしてやるからね!!


 そんな風に会話しながらも本日の担当フロアの天井壁の飾り付けは順調に進んで、フロアの三分の二程度が済んだところで作業の終了時間がきた。

 続きはまた明日やることにして、軽くなった籠と脚立を戻すのと進捗報告のために装飾課が使用している教室へ向かった後は、ゲート班補佐の姫川少女と祥子ちゃんとも合流して今度は四人で【香桜華会】の会室へと向かう。


「ごきげんよう」

「あ、お疲れ様です!」


 アンティークドアを開けて入室すれば、既に機材管理課補佐の会計組が帰ってきていた。


「お疲れ様です。桃瀬さんと木戸さんはまだですか?」

「ええ、私達が最初ですわ。業務も終わって、後は報告だけですの」

「じゃあ待ちだな。副会長組が戻ってくるまで、皆ゆっくりしてていいよー」


 そうして二年生と三年生で分かれている自分の席に着き、『妹』たちがお互いに今日あったことの話をし始めたのを微笑ましく眺めて、私も報告内容をまとめるための準備をしておこうと早速手を動かし始める。



「――花蓮、葵」



 幾分声が潜められている、麗花からの呼び掛け。


 何故だかそれに妙な気配を感じ取って無言のまま麗花へと顔を向けると、私達からの視線を一身に受けた彼女は、ゆっくりとその口を開いた。


「就寝前に、()()()私の部屋に来て下さいませ。――――お話がありますの」



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