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Episode4-1 春日井家のお茶会

 白鴎家のパーティにはお父様と一緒にお兄様が行くことになり、私はとてもニコニコと笑顔のお母様に連れられて、春日井夫人主催のお茶会へと馳せ参じていた。


「ごきげんよう咲子さま。お越しをお待ちしておりましたわ!」

「お久しゅうございますわ、雅さま。本日はご招待下さってありがとうございます」


 優雅に楚々(そそ)と微笑むお母様の本日の装いはうぐいす色の着物に、ゆったりと編んだ髪を桜のかんざしで纏めている。


 和風美人を体現しているお母様に倣い、淑女見習いである私も着物で……といきたかったところではあったが、ここでもお母様の過保護が発動した。

 曰く「着慣れないものを着て、躓いてこけて頭を打ったらどうするの!」とのことであるが、最早お母様の中で私がこけたら頭を打つのは確定事項らしい。


 そんな訳で本日のお茶会での私の装いは膝丈までの清楚な白いレースのワンピースと、随分足元がすっきりしている。ちなみに髪はハーフアップ。


 と、お母様とにこやかに挨拶を交わしていた春日井夫人が私にも笑いかけてきた。


「まぁ、今日は花蓮ちゃんも来て下さったのね」

「お誘いくださりありがとうございます、春日井さま」


 ニコッと子供らしく、けれど控えめな微笑みを浮かべゆっくりとお辞儀をすれば、周りの招待されている他の夫人方からほう……と感嘆の息が漏れる。


「さすが、百合宮コーポレーションのお嬢様ですね。まだお小さいのにこのような完璧とも言える礼儀を身につけておられるなんて」

「そうですわ。我が家の娘など花蓮ちゃんと同じ年なのに、こんなに落ち着いてはおりませんわ」

「我が家の娘にも見習わせたいくらい」

「まぁまぁ、ほほほ」


 次々に贈られる娘への賛辞にお母様は口許を押さえて上品に笑う。

 うん、これはご機嫌だなお母様。私だってやる時はやるんです!


 けど、ちょっと気になることが。


「あの、春日井さま」

「なぁに、花蓮ちゃん?」

「今回子供は私だけなのでしょうか?」


 見渡す限り、会場であろうこの場にはご婦人方だけで子供の姿が見えない。

 参加者のお子さんたちも参加されるからと私は聞いていたんですがね。


 しかしそんな私の思いは杞憂だったらしく、春日井夫人は丁度お茶を給仕していたお手伝いさんを呼んで微笑んだ。


「参加者のお子様達は既に別室でお集まり頂いているのよ。花蓮ちゃんあんまりこういう会に参加してくれないから、きっと皆とっても楽しみにしているわよ?」

「そうね、皆さんと仲良くね花蓮ちゃん」

「はい、お母様。ありがとうございます、春日井さま」


 ご婦人方に笑顔で見送られ、お手伝いさんに連れられて子供たちが集まっている別室に案内されている途中、私はふとどこか頭に引っ掛かった。


 そういえば春日井って、どっかで聞いたことあるような……?

 

 面に出さずうーんと思い出そうとしていると、行く先の方から何か騒いでいるような声が聞こえてきて一旦中断する。

 やっぱり同じ年くらいの子は騒ぐものなのかぁ、二十九歳が同じテンションで騒げるかなぁとか初めこそ呑気に考えていたが、近づくにつれて何だか騒ぎ方がおかしいことに気づいた。


 わーきゃー楽しそうなものではなく、何か怒鳴っているように聞こえる。

 お手伝いさんもそんな様子に気づいたらしく、騒ぎの部屋まであと少しの所で足を止めて私に待機するように言い、問題の部屋へ入って行った。


……気になるけどまぁ、ここは大人しくしておくべきだろうなぁ。


 子供同士の諍いとはいえ、ただの子供の喧嘩という範疇はんちゅうに収めてはならない。

 百合宮家は一通り見た参加者の顔ぶれの中では、招待者の春日井家よりは低いが、家格は頭一つ抜けて上位にある。


 そんな家の子供が他の家の子の争いに口を出して、家の軋轢あつれきを生み出すのは宜しくない。

 それにお手伝いさんにしても、働いているお家で起こった問題をよそ様に見せたくはないだろうし。


 とんだお茶会の始まりだと思いながら軽く溜息を吐いたところで、そんな呑気な考えは部屋の中からガッシャーンッという何かが割れた音でそうも言っていられなくなった。


 お手伝いさん何やってんの!?

 てか子供どんな暴れ方してんの、上流階級の子でしょ!?


 ここは大人(ご婦人方)を呼んで来るべきだとは思うが、お茶会場は子供の足ではちょっと距離があったし、目を離した隙に怪我人が出たらたまったものじゃない。

 家の体裁を捨て、私は意を決して騒ぎの起こっている部屋へと顔をのぞかせた。


 すると。


「お嬢様、少し落ち着きましょう!」

「うるさい、うるさいっ! 関係ない方が口出ししないでくださいませ! 私はこの無礼者と一対一でお話しておりますの!!」

「でもですね、ッ」


 ガッシャーンッ!


「うっ、うええ~!」


 ……そこは阿鼻叫喚の図であった。


 一人の派手な格好をした女の子が顔を真っ赤にして物を投げつけるほど癇癪を起し、お手伝いさんは他の子を庇いながらもその子を必死に説得中。

 その他の子供は女の子の怒鳴り声と破壊音に身体をビクつかせ、皆大泣き状態。ティーカップが無残な姿でカーペットに転がっていることから、先程からの破壊音はあれが割れたのだと分かる。

 

 というかあの子、あの怒鳴り散らしている巻き髪縦ロールの子。

 何か非常に見覚えがある気がするのは気のせいでありたい。


「いつまでもうしろに隠れて泣いてるんじゃありませんわよ!! この薔之院しょうのいん 麗花れいかに無礼をはたらいてタダですむと思っておりますの!?」


 名乗っちゃったよ。

 気のせいにしてくれなかったよ。


 はあああぁぁああ!?

 何でここにいんのさ、ちょっとさっきの顔ぶれの中に親いなかったよねえぇ!!


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