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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode278-2 お互いのことを想うが故に


 手を胸の前で組みどこか祈りを捧げるような姿勢で、彼女は微笑みながら。


「不安で泣いた私を救って下さった葵お姉様に、今も憧れております。でも私、いつも背筋を真っ直ぐと伸ばされて、堂々と歩まれている麗花お姉様のお姿にも強さを感じてました。両親が香桜女学院を私に受験させたのも、私の引っ込み思案な性格を改善させるためなんです。お嬢様しかいない学校で、自分の力で交流していきなさいという荒療治で。だから葵お姉様に救われて、けど堂々としたご令嬢を体現されている麗花お姉様のような、強いお背中に憧れて、私もそうなりたいと思って一年生を過ごしていました」


 明るく親しみやすいきくっちーと、縦ロールじゃなくなっても初見では彼女の持つ雰囲気で近寄りがたく見られてしまう麗花。

 ある意味対照的な二人を彼女は、そのどちらをも憧れていたと言う。


「私、あの時偶然通り掛かった麗花お姉様を見て、咄嗟に足が前に出ました。葵お姉様への憧れはテレビで見る芸能人の方に対するようなもので、麗花お姉様への憧れは……目の前にある、強い目標なんです。だから私、引っ込み思案の自分から前進するためにあの時、麗花お姉様に話し掛けました。勝手に目標にしていて自己満足もいいところですけど、それでもたった一度きりでも言葉を交わせたことは、私にとって大きなことだったんです。……でもまさか、そんな麗花お姉様から『妹』に指名されるだなんて思わなくて。しっかりしなくちゃ!って気を張って、厳しいお叱りを受ける覚悟もして、だけどずっとお優しいから、私全然ダメなんだって思って。それで結局、こんな風に皆さんにご迷惑をお掛けしてしまいました」


 良かれと思って接していた態度が逆に祥子ちゃんを追い詰めていたとは。

 チラリと麗花を確認すれば、苦いものを口いっぱいに詰め込んだかのような顔をしている。


「私が何か言うと追い詰めてしまうと思っておりましたのに、逆にだっただなんて……。すれ違いが起こりまくっているじゃありませんの」

「竹野原さんのことをよく見てたんじゃなかったんですか」

「見てましたわよ! けど遠慮して言えないのだとばかり思っていましたの!」

「私が言うのも何ですけど、もっと『姉妹』で色々話した方が良いと思います」

「本当にそれ、貴女にだけは言われたくありませんわね!?」

「――皆集まって何してんの?」


 室内にいる誰でもない声に揃って顔を向ければきくっちーが扉を開けて、姫川少女と共に不思議そうな顔をして中に入ってきた。


「てか麗花と美羽は先に会室に帰ったんじゃなかったっけ? 花蓮と祥子ちゃんも広報課の補佐、終わったのか?」

「お疲れ様ですお姉様!」


 姫川少女に笑顔でねぎらわられるも何もしていない私はそれに微笑んで応えるだけで、きくっちーの問いには麗花がしれっと答えた。


「『姉妹』同士、改めて親睦を深めていたところですわ」

「え、この時期に? 各課に補佐で入る初日に??」

「初日だからじゃないですか。お互いの補佐内容を把握し合うのも、コミュニケーションの一つですよ」

「花蓮が言うと何か胡散臭い」

「何で!?」


 真実は言わず、敢えて誤魔化す方向に私も乗っかれば胡散臭いと言われる謎! 理不尽!


「大丈夫か美羽。麗花にバシバシやられてない?」

「ぜっ、全然まだまだこれからです!」

「あの、葵お姉様!」


 これからも口を滑らせて麗花から注意を受ける気なのか、そんな返事を美羽ちゃんがした直後に祥子ちゃんがガタッと椅子から立ち上がって、きくっちーと向かい合った。

 いきなり強い声で呼ばれて、目の前まで来られたきくっちーは驚いた顔をしている。


「え、なに?」

「私っ、あの、二年前の合格者オリエンテーションの時に、お姉様に励まして頂いた者です! ずっと、あ、あの時のお礼を言いたくて! あの時は泣いてしまった私を笑顔で励まして下さり、ありがとうございました!!」

「へっ?」


 急にそんなことを言われてもすぐに思い出せないのか、素っ頓狂な声を上げる。


「ほら。貴女が香桜生としてあるまじき言動で以てフォローしていた、あの時の子ですわ」

「え……ええっ!? あれ祥子ちゃんだったの!?」


 フォローした本人は気付いていなかったようである。

 けれどすぐに持ち直し、彼女は顔を真っ赤にしている祥子ちゃんをしげしげと見つめていたかと思えば、ニカッと笑った。


「そっか! 不安で泣いていたのが今じゃ麗花の『妹』で、アタシたち皆が頼りにしている【香桜華会】の一員か! まあ、あの時のアタシがこうして会長になってるもんなぁ。……ほら、大丈夫だったじゃん。頑張ったな、祥子ちゃん!」

「はいっ!」


 ――――これでもう彼女は自分に自信がないとか、できそうにないなどと思うことはないだろう。


 心の内にあったものを麗花とお互いに曝け出し、もう一人の憧れであるきくっちーから『頼りにしている』とまで言われたのだ。

 美羽ちゃんも嬉しそうに笑う祥子ちゃんを見てニコニコしている。


「お姉様」

「はい?」


 良い雰囲気を壊さないようにか、静かに私の傍まで寄ってきた姫川少女がコソリと話し掛けてくる。そして彼女もニコッと笑って。


「私も次期会長として、今まで以上に頑張りますね!」

「ふふふ。姫川さんは十分頑張ってくれておりますから、これ以上の頑張りは抑えて下さった方が助かります」

「分かりました!」


 今でさえ恐怖政治一歩手前なのに、頑張ってどうする気なのだ。


 取り敢えず私の言うことは一も二もなく素直に聞いてくれる『妹』にストップを掛けつつ、これから更に大きく成長するだろう『妹』たちの姿を見つめ、残された時間の過ごし方に想いを馳せるのであった。



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