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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode273-1 クラス演劇と香桜祭三大不思議


 あとは聞いても心当たりがない、残りの二つに関して。


「最初に話に出た『ジュリエットはどこへ消えたのか』、でしたっけ? それはどういう概要なのですか?」

「はい。まず藤波先輩は元々ナレーション役に決まっていらっしゃったのを、途中でジュリエット役に変更となりました。そこまではよろしいでしょうか?」

「……? はい」


 当たり前のことを繰り返し確認するように言われ、疑問に思いながらも頷く。すると彼女はグッと眉間に皺を寄せて、思いもよらぬことを告げてきた。


「ジュリエット役に変更となったのです。変更。それなのにあの劇でのナレーションのお声もまた、藤波先輩のものではありませんでしたか?」

「……え?」

「私たちは劇中の演技だけでなく、時折挟まれるナレーションの美声にも臨場感を覚え、場面場面の雰囲気に酔いしれておりました。それほどまでの美声をお持ちの先輩は、彼の学年には藤波先輩しかおられませんわ。先輩は舞台にいらっしゃるのに、天から同じお声が降ってくる。百合宮さま。これがどういうことか、もうお分かりですよね……?」


 心臓がドクドクと忙しない。

 嫌な緊張感に包まれた静かな教室内で、私の声がいやに響いた気がした。


「も、元々のジュリエット役の先輩は、どこに?」

「分からないのです。劇の中で元ジュリエット役の先輩のお姿を見た方は、誰もいなかったと」


 きゃあああああぁぁぁーー……っ!!



 ……叫ぶ姿は想像の中だけに留めるとし、現実の私はお口をパクパクと開閉させるに至った。一応外に漏れないように防音仕様となっているが、万が一悲鳴を聞きつけた誰かが来たら問題だからだ。

 というか、そ、それはどういうこと!? まさかポッポお姉様が先輩を消し……っ!?


「あ、ご安心下さい。その先輩のお姿を見なかったのは劇だけの話で、修学旅行には元気に参加されていらっしゃったと」


 良かったああぁぁ!! というかそれ以降も姿がなかったら、もう完全に事件じゃんか! 三大不思議どころじゃないよ!


「ご無事であったのなら、どうして不思議のままなのですか? 誰かお聞きされたでしょうに」

「それが、その時に何をされていらしたかは全くお話し頂けなかったと。好きなおかずで釣ってもダメだったそうです」

「おかず……」


 え。まさかそれ、尋問したの椿お姉様じゃないよね……?

 以前千鶴お姉様から雲雀お姉様を慰めるために、椿お姉様が自分の好きなおかずをあげていたという話を聞いたことがあるが、何かそれと手法が似ているような気が……あ、そうだ雲雀お姉様!


 ピコンと閃きを得た私は一つ頷き、最後の不思議の詳細を尋ねた。


「では、『奪われてしまった救世主(メシア)の輝き』というのは?」

「そちらは黒梅先輩に関する不思議ですわ。黒梅先輩の存在は運動部にとっては、救世主そのものですもの」


 最後の不思議も『鳥組』お姉様関連のことだと明かされて、もう冷や汗ドバドバどころの騒ぎじゃない。後で『花組』の皆にも知っていたかどうか聞かないと、これはもうダメなやつである。


「『折り鶴を抱えた逃走者たち』以外は私たちも目にしておりませんでしたから、諸々の詳細は不明なのですが。先輩方から降りてきたお話では香桜祭の準備期間中、黒梅先輩が教室にいらっしゃる時は、彼女は常に意気消沈されていらっしゃったとのことです。いつも明るく無邪気な御方が席に座って、窓の向こうの遠い空をぼんやりと見つめていらっしゃったそうですわ。そしてそのアンニュイなお姿が……まるで、誰かに恋をしているようだと」

「えっ」

「香桜祭に婚約者を招待することは許可されております。ですが黒梅先輩にご婚約者がいらっしゃるというお話は、誰も耳にしたことがございません。ですから先輩方の推測では、黒梅先輩が夏期休暇中に運命の出会いをして、その方と距離を縮めるべく香桜祭にお誘いしたものの、断られてしまったのではないかと囁かれていたのですわ。香桜祭が終了してからはそのようなお姿を見ることはなくなったそうですし、吹っ切られたのであれば、蒸し返すようなことはできないと。ですからこちらも不思議のままで終わっているのです」


 な、なるほど。そう言うことならばどうして『奪われてしまった』となるのか、そのネーミングにも頷けた。

 いやしかしながら会室で顔を合わせた時の千鶴お姉様には、微塵もそんな気配はなかった。麗花と一緒に忙しそうに書類を捲っていたし、元気溌剌(はつらつ)としていたけどな……?


「そして最後の『折り鶴を抱えた逃走者たち』に関しては…」

「あ、それは大丈夫です。えーと、そうですね。やっぱり私がキリストさま役を引き受けましょう」

「えっ、本当ですか!?」

「はい」


 途端わっと沸いたクラスメートたちに内心深く息を吐き出しながら、黒板に『イエス・キリストさま役』とある下に自分の名前をカリカリと書いた。

 私がナレーション役になったせいで、『イエス・キリストさまはどこへ消えたのか』が発生しては堪らない。雲雀お姉様の二の舞になるのは御免である。


 それによくよく考えてみると、実は三学年の劇は雲雀お姉様だけじゃなく、他のお姉様たちも皆主役を張っていた(張らされた?)のだ。伝統を重んじている香桜において『香桜の顔』とも称される【香桜華会】には、それ(主役)はやって当然の流れになるのかと思い直したのである。


 私の役が決まれば後は予定調和とばかりに立候補が重複することもなく、クラスで演じる最後の晩餐と処刑の場面の演者は、そうしてスムーズに決まっていったのだった。



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