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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode271.5 side 忍、心のお便り③-2 拝啓 薔之院 麗花さまへ


 こちらへと普通に歩いてきた白鴎くんに、秋苑寺くんが首を傾げて問い掛ける。


「お前も逃げてきたの?」

「違う。兄さんからの預かり物をお前に渡しに来ただけだ。放課後は予定があるし、この時間でしか渡せないからな。流星さんにお礼を伝えておいてくれ」

「ふーん。りょうかーい」


 白鴎くんは逃げてきたのではなく、単に上の従兄同士の貸し借りで秋苑寺くんを探していたらしい。手にしていた一冊の本を秋苑寺くんに渡した彼は、もう用事はないとばかりに背を向けた――――が。


「今さぁ、忍くんと修学旅行の話してたんだけど、皆はどこ希望?」


 その発言に足をピタリと止め、振り返る。

 皆というのが一堂に会している自分たちのことだと解っているので、春日井くんもこっちに顔を向けた。


「修学旅行? 別に今更どこに行きたいとかはないだろ」

「うわ、お前までそんなこと言う? 忍くんも春日井くんもどこでもいいって言うしさぁ。もうちょっと学院行事に楽しみ見出さない? ちなみに俺はシンガポールかカナダかフランスね! あとゆっくりできそうなところだったら尚良し」

「どういう三つなんだそれは。……ああ、フランスは彼女がいるからか」


 ヤバい、共通誤認識が。

 そろりと緋凰くんを見ると、「フランス……」と呟いている。ヤバい。


「……自分はどちらかと言うと、国内希望」


 苦し紛れにそう言うと、春日井くんが不思議そうな顔をした。


「国内? どうして?」

「……海外よりも日本にいたい人だった。戻ってきた時に国内で旅行したことを話せば、会話が広がるかと」

「あ、確かに。そう言えばそうかも。じゃあ国内だったら温泉地があるとこかなぁ~」

「お前そんなにゆっくりしたいのか」

「だって俺もう疲れた」

「なら修学旅行参加せずに家で寝てればどうだ。ゆっくりできるぞ」

「ひどい! 冷たい! お前本当俺に対してひど冷たい!」


 従兄弟同士がそう仲良く言い合っている中、いやに静かな二人を見る。

 春日井くんは頬杖をついて何やらぼんやりとしているし、緋凰くんも眉間に皺を寄せて自分の机を睨んでいる。


 どんな空気だこれは。

 やっぱりフランスから逸らしたのはマズッたか。



「……国内、だったら」



 机を睨んでいた緋凰くんからポツリと、小さく溢れた声。

 言い合っていた二人もピタリと口を閉じ、ぼんやりしていた春日井くんも緋凰くんに注目した。


「ほっ、カイ、ドウ、とか」

「「「…………」」」


 そんなに言いにくい都道府県だっただろうか、北海道って。


「どうして片言? 何で北海道?」

「ほっ、北海道にだって温泉地あるだろ、登別(のぼりべつ)温泉とか! 景観が良いところだって色々あるし、ゆっくりできるぞ!」

「えー? うーん、まあ北海道って美味しいものも沢山あるけどさぁ~」

「何かあるの? 陽翔」


 秋苑寺くんが内容よりも緋凰くんの変な態度を怪しみながら答えていたが、親友幼馴染は変な気を遣うこともなくズバッと切り込んできた。


「べ、別にねぇよ」

「何かあるんだったら言っておいた方がいいと思うけど。……多分もう修学旅行の行き先、僕らのこの会話で決まりそうだから」


 思った。廊下の騒ぎは少し前からなくなっており、視界に入る大体の生徒はこちらの会話に聞き耳を立てている状態。確実に不死鳥親衛隊は緋凰くんの意を汲んで、『北海道』と記入するだろう。

 春日井くんに言われても、けれど緋凰くんは多くを語ろうとはしなかった。


「……アイツ関連でちょっとあるって言ったら、納得するか?」

「アイツ?」


 秋苑寺くんは首を傾げたが、春日井くんには通じたようだった。「そう」とだけ言って納得の様子を見せている。

 白鴎くんが気にしている様子はないし、彼も行き先に関しては本人も言っていたように、どこでもいいのだろう。


 自分も緋凰くんの言う人物に見当などつかないが、麗花を指しているのではないとだけ判れば御の字である。フランスでないならどこでもいいという安堵の方が、この時は大きかったから。





 ――――そういうことですので自分たちの学年はアンケートを取った結果、見事に修学旅行の行き先は北海道となりました。

 そう言えばそちらの女学院では、いつの時期に修学旅行が行われるのでしょうか? 国内でも有数の女子校ですから、海外というのもあり得るのでしょうね。それとも既にお済みでしょうか?


 何はともあれ自分も秋苑寺くんと同様、修学旅行くらいはゆっくりと過ごすことができればと思っています。まさか旅行先に行ってまで、何かが起きることもないでしょう。

 そんなストレス案件は御免こうむります。あと、温泉には視力回復の効能もあれば嬉しいのですが……。


 こちらの状況はこんな感じです。

 それでは薔之院 麗花さま、また貴女と再会できる日を楽しみにしております。

                     敬具



 なおこちらは心のお便りとなっておりますので、麗花さんご本人に直接届くことはございません。あしからず。

 次回より『最後の香桜祭編』スタートです!

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