Episode271.5 side 忍、心のお便り②-2 拝啓 薔之院 麗花さまへ
だから薔之院派は親衛隊長が中條でも、主に新田さんを中心に回っている感じがします。新田さんも普段は薔之院派と過ごしていますし。
そして決別したとは言え、新田さんは密かに城山のことを気にしている様子が見受けられます。水島さんへの悪口を聞いても、城山の友人として傍にいた彼女です。
これに関しては自分も様子見するしかありません。何故なら新田さんに対する城山派は――とても静かだからです。
自分は以前、彼女が城山に反意を翻したとして、城山の方は彼女に何かしてくるだろうかと懸念していたことがあります。
自分に付いている生徒を従順な駒としか考えていないのなら、報復措置くらい簡単に取ってくるだろうと思ったからです。自分は城山にそういう印象を抱いています。
城山派からして見れば、新田さんは裏切り者。けれど城山どころかその一派である生徒からも、彼女に対して何かしらの行動は起こしてきませんでした。というか普通に挨拶されたそうです。
城山派が新田さんに対して何もしないということは、その主が何もするなと言ったか、何も話していないかのどちらかです。
……彼女が一体何を考えているのか判りません。まさかとは思いますが――――城山にとって、新田さんだけは違うのでしょうか?
城山派から挨拶されたと話してくれた時の新田さんは不安そうな顔をしていて、自分もよくよく注意しなければと、そう強く思った瞬間でした。
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「でさぁー、忍くんはどこ行きたい? 俺は近場がいいな~」
改めて現在、夏期休暇が明けた中等部三年生の秋。
今回は新田さんが近づいてくる前に秋苑寺くんが自分に会いに来て、自分の前の席に後ろ向きで座って、近々行われる学院行事の話題を振ってくる。
「……別に、どこでも」
「そお? シンガポールもいいし、カナダもいいなって思ってんだけど。ナイアガラの滝とかメープル街道とか、プリンス・エドワード島でのんびりと過ごすんだ~」
そんな感じで楽しそうに行き先希望の話をしているが、カナダは近場じゃないだろう。シンガポールならまだ近場と言えるかもしれないが。
しかも口にしていたのはカナダを代表する観光地ではあるが、自然鑑賞が主なところばかりである。買い物とかしなくていいのだろうか?
「何故カナダでその地?」
「普段の生活に疲れてるから! ……俺ってば笑顔でいつもニコニコしてるけど、修学旅行くらいはほんっっっとゆっくりしたいんだよね。特に一部の生徒については、ナイアガラの滝に打たれて邪心洗い流しとけって思う!」
いやそれ普通に死ぬだろ。
ゆるーく笑って適当に受け流している秋苑寺くんだが、本当は女子嫌いであるらしいので、この二年と半年の間にとてもストレスを溜め込んでいるようだ。本音はボソッと小声で口にしたので、他の生徒には聞かれていない。
――――そう。近々行われる学院行事とは、修学旅行のこと。この学院では初等部・中等部・高等部と揃って時期は秋と決められている。
一番過ごしやすく穏やかな気候であるからだろうか? 日本と違って明瞭な四季のない国には当て嵌まらないが、それは海外を希望すればである。
ちなみに行き先の決め方は、生徒によるアンケートで決まる仕組みだ。旅行費は各家が負担するしここは天下の聖天学院なので、旅行先が海外でも余裕なのだ。
国内もないことはないが、どうせなら海外に行ってパァーッと遊びたいというのが大体の生徒の総意である。自分は本当にどこでもいいけど。
「あっ、そうだフランスもいいじゃん! 現地で会ったら絶対驚くし、俺も久し振りに顔見たいなぁ」
全然近場じゃなくなった。それとフランスに麗花いないし。
この発言にはどう返答すればいいかと考えるも、秋苑寺くんは顔を振り向かせて教室にいる別の人物に呼び掛けた。
「春日井くんはどう思う~?」
少し離れている彼の席で参考書を開いて学習していたらしい春日井くんは動かしていたペンを止め、微笑んでその問いに答える。
「僕もどこでも。行きそうな国は大体長期休暇の時に行くし」
「ふーん、そっか。まあ春日井くんは俺と同じで、相棒の相手するのに大変だもんね~」
「白鴎くんて大変なの?」
「大変も大変。小さい頃から俺がどれだけアイツに振り回されてきたことか」
「意外だね。僕は秋苑寺くんが白鴎くんを振り回しているのかとばっかり」
「え、ひどくない?」
……とまあそういう訳で、中等部最後のクラスは春日井くんと一緒になった。
白鴎くんとは一年生の時に一緒になったので、これで四家の御曹司とは全員とクラス所属の経験を得たことになる。




