Episode271-3 適性会議と少女無双伝
名前が挙がってこない祥子ちゃんに関してはあの中でも一番控えめな性格なので、元より候補にはならない。他の『妹』の適性を考慮して、あの子は書記だなと皆思っている筈。
皆難しい顔をして黙る。いくら考えても、結局初めに組み合わせた役職が最適だと感じているからだ。
「だ、大丈夫だと思う!」
いきなり強くそう発言した桃ちゃんに皆の視線が集中したが、彼女はグッと表情を引き締めて私達に訴えた。
「きょ、恐怖政治になっても青葉ちゃんなら副会長として姫川さんのこと、支えられると思う! だって姫川さんにそういう面があるのも気づいてるし、相談受けてから桃、校舎で青葉ちゃんが姫川さんと一緒にいるところをよく見掛けるようになったの。だって怖かったら普通避けるでしょ? 近づくってことは相手のことを知りたいってことだし、相手をちゃんと見ようとしている青葉ちゃんなら、『風組』を結ぶ中心になれると思うから」
「桃ちゃん」
相手をちゃんと見ようとする。見る。
それはかつて、私が雲雀お姉様に感じたこと。
麗花がフッと柔らかな笑みを浮かべた。
「そうですわね。口に出してはおりませんでしたけど、ただどこにも当て嵌まらないからと、祥子を書記にと考えた訳ではなくてよ。半年が経ってもまだ遠慮がちなところはありますけど、彼女には食らいついてくる根性がありますわ。他の三人が得意としていることに負けないよう、努力している姿を一番近くで見てきましたもの。皆知っていると思いますけれど、あの子よくメモを取っているでしょう? 忙しい中で手伝いをあれこれ言われては優先するものを見失いがちになりますけれど、ちゃんと自分でできる範囲で予定を組んで行っておりましたわ。そのことは情報を正しく精査し、纏めなければならない書記に通ずるものだと思いますの」
私達『花組』は大人しい『風組』に対し、直の『妹』など関係なく個々に接してきた。
けれど自分が指名して共に一年を過ごしていこうと思った『妹』の存在は、やはり特別であったのだ。
優秀で自分からコミュケーションも取れているから大丈夫だと思っていたけど。私を全肯定するからやりづらいところはあったけど。
見れていなかった部分もあるけど……見ていた部分だってちゃんとある。
「姫川さんへの初対面での私の印象は、総合的にあまり良くはなかったの。確かにすごく可愛らしくて傍から見ると守ってあげたくなるような感じの子だったんだけど、前に出過ぎているお友達に何も言えない、流されている子なんだなって。良く思わなかったのは下手すると、私も彼女と同じ状況になっていたかもって感じたから」
周囲からの崇拝、信奉。理想のご令嬢、淑女の鑑。
ゲームの中の“百合宮 花蓮”と似通ったもの。
「けど、彼女が私達の卒業式で祝辞を述べる姿を見て、変わったなって思ったの。しっかり前を見据えてよく通る声を出していた。しっかり自分だけでその場に立っている姿を見て、嬉しく感じたの。だから姫川さんをここで初めて見た時はびっくりしちゃって。変わろうと思ってちゃんと変われる子だって知っていたから、だから私は姫川さんを『妹』に指名した」
やりづらいと思ったけど……上辺ではない、“私”のことを見ていた上でのあの慕いようならば、仕方がない。
やっぱり自分の『妹』は可愛い。正直に言うと怖いとも思うけれど――嬉しいという気持ちもあるから。
顔を上げて、皆の顔を見て私も宣言する。
「大丈夫。他の人に迷惑を掛けたくないって思って変わったのなら、私がここから卒業しても灰になったりしない。姫川さんの傍には祥子ちゃんと美羽ちゃん、それに青葉ちゃんがいる。ちゃんと姫川さんを見て接してくれる三人が支えてくれるから、会長になっても心配ないよ!」
それぞれ自分の『妹』に対する評価を告げ終わり、会長であるきくっちーを見た。
彼女はとてもすっきりとした表情で頷いている。
「……よし! じゃあ皆の意見が出揃ったところで、最終確認するぞ! 会長に姫川 心愛、副会長に木戸 青葉、会計に氷室 美羽、書記に竹野原 祥子、で間違いないな」
「うん!」
「問題ありませんわ」
「賛成ー」
「アタシも言うことはないよ。うん、皆お疲れ。――これにて『妹』の適性役職会議、終了!」
この内容は始業日にロッテンシスターにも伝えて、無事に彼女からの了承を頂けた。
そして始業日から三日ほど経ったところで去年と同様、ロッテンシスターからありがたいプレッシャーを掛けられ、香桜祭に関する詳細を『妹』たちに説明して時期役職のことも伝える。
世間話の延長で話していた内容から『妹』たちも、自分がなる役職の『姉』にこれから付くことになるのだと理解していた。
尊敬し、憧れている自分たちの『姉』が決めたことならと、誰からも反論の声が上がることはなく。
――そうして私達の中学校生活における、最後の香桜祭への準備が始まった。
夏も終わり秋に差し掛かり。遂に香桜祭編が始まりますが、その前にあの人から麗花さんに向けてお便りを出したそうですので、よろしければ次回から数話ほどお付き合いくださいませ。




