Episode270-2 適性会議と少女無双伝
「『風組』が正式なメンバーになって初日にさ。鍵を取りに行こうとした時に、職員室の前で心愛ちゃんと鉢合わせして。その時は授業のことか何かで来てんのかと思って、挨拶だけして鍵受け取ろうと思ったんだよ。でもアタシの後ろにぴったり付いてきて、ロッテンシスターから受け取ろうとした時に、心愛ちゃんから『すみません。六十谷シスター、菊池会長。会室の開錠についてご提案があるのですが』って言われてさ」
――以下、きくっちー曰く当時の原文ママ。
『私としてはこういう初歩的なことでお姉様の、それも会長となる方の手を煩わすのはどうかと思うのです。「姉妹」とはお互いに切磋琢磨し、労わり合う関係性であると考えています。これも責任・信頼・情報保守の観点においてなど、学院の伝統でもあることなのでしょうが、会室の開錠などは「妹」にもできることです。お仕事では経験も何もなくお姉様やシスターから教わることばかりでお力になれることは少なく、常におんぶに抱っこの状態です。その中でわざわざ会長たる方に鍵を取りに行かせ、扉の前でただ呆けて突っ立っているような「妹」など、「妹」の風上にも置けません。「妹」ならば「姉」がより快適に過ごしやすい環境を整え、自ら教わりに行く環境を作り上げるべきなのです。そして言い出したからにはまず私が手本となり、実行させて頂きたいのです。全てはかれ……【香桜華会】が円滑に回っていくために!!』
「――ってことを眉を下げて困り顔しながら、どキッパリとノンストップで言ったワケよ。それ聞いてた職員室にいた他の先生も、皆おおっ!て顔していたし。あのロッテンシスターでさえ、『なるほど。一理ありますね』って言うもんだから、それからずぅーっと心愛ちゃんが会室開けて、しかも掃除してる。あの子、絶対にあの時『花蓮お姉様のために!』って言い掛けてたぞ」
「ええー……」
「あと会室の開錠に関しては、今後は言い出した代に限定してやっていこうってことになった。皆に言わなかったのは会長の仕事だし、次の会長になる子って言っても、心愛ちゃんの代だからなぁって思って」
そんな話を打ち明けられて、思わずしょっぱい顔になってしまう。私がクラスの清掃当番でなくても、姫川少女がクラスで清掃当番の時でさえ先に会室に来ていても、普通に早いなぁとしか思っていなかった。
……そう言えばあの子はクラスの掃除、どうしてるの?
そう思っている内に今度は桃ちゃんがペットボトルから手を離して、ハイと挙手した。
「桃も姫川さんエピソードあるよ!」
「え、あるの?」
「うん。青葉ちゃんから聞いた話なんだけどね――」
――以下、桃ちゃん曰く当時の原文ママ。
『撫子お姉様。私、姫ちゃんのことを恐ろしく感じてしまう時が多々あるのですけれど、どうすればいいでしょうか……?』
『えっ、何かあったの?』
『……私もですけど、美羽ちゃんと竹ちゃんも【香桜華会】ですから、自分のお姉様以外と会話する時あるじゃないですか。姫ちゃん、私達が花蓮お姉様と何か一言でもお話しした時、「どんなお話ししたの?」って聞いてくるんです。まあそれは彼女がそれを見ていて、内容まで聞こえなかった時に限るのですけれど。確かに私も、撫子お姉様と他の子が会話している時に気になることがあるので、特におかしくは思わなかったのです。ですが……私、ちょっとアレな体験をしてしまいまして』
『な、何? アレな体験って』
『あれは私がクラスの子と一緒に、移動教室で渡り廊下を歩いていた時のことです。花蓮お姉様も移動教室でいらっしゃったのか、多分同じクラスの先輩方に囲まれて歩いておられました。見ていてとても歩きにくそう……あ、いえ、その時に丁度花蓮お姉様が私に気がつかれて、お声を掛けて頂いたんです。少しだけ立ち止まってお話しして、別れたのですが…………』
『……別れてどうしたの?』
『お姉様をお見送りして、さあ私たちも行こうと振り向いたら……ま、前にっ、姫ちゃんがいたんです。それも一人、手ぶらで……! だって最初の体育で一緒になった時、三時限目は国語って言っていたから絶対教室にいる筈なのに、どうして十分しかない休憩時間に二年生の教室から離れている渡り廊下にいたのか、もう全然分からなくて! 撫子お姉様! 私、姫ちゃんに笑って言われたんです!!』
「――『ねぇ青葉ちゃん。私のお姉様と、何のお話ししていたの?』って」
「きゃああああぁぁぁっ!!」
「うわぁ……」
「普通にホラーですわね……」
「最初は相談っていう形だったんだけどね、
『私達の誰よりも仕事の覚えが早くて、他のお姉様方とも一番コミュニケーションが取れている姫ちゃんをすごいなって思っていたのに、花蓮お姉様が絡むと何か怖くて……! 花蓮お姉様に仕事を頼まれた時もし万が一ミスでもしようものなら、お姉様に迷惑を掛けたとして、彼女からどんな仕打ちをされるのかと気が気じゃありません! 私自身慎重になりますし、美羽ちゃんと竹ちゃんに花蓮お姉様からの手伝いが回った時には、お姉様に渡す前にミスがないかどうか私が必死に探しているんです! ミスがあった時は姫ちゃんが怖くて思わず注意しちゃうんですけど、二人はありがたがってくれるから私も救われています!! ……あ、そっか。それで「風組」だけじゃなくて【香桜華会】が平和に回っていくのなら、現状的に別にどうもしなくても良かったのですね……?』
って、最後には自己解決してたの。桃はちょっとどうなのかなって思ったけど、憑き物が落ちたようにとてもすっきりした顔をしてたから、何も言えなくて」
「青葉ちゃん……!!」
ごめん! まさかそんなことになっていたなんて思わなかったの!
早く慣れてくれたらいいなって思ったのと、コミュニケーション取るためにお手伝い頼んでたの!! ごめんなさい!!
「もしかしなくても私が先程口にした、仲が良くてもちゃんと注意するべきところはしている、というのは……」
「……うん、そういうことなの」
麗花が確認するように呟くと、桃ちゃんが静かに首肯した。
ほんっと至らぬ『姉』でごめんなさい!!




