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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode269-2 『妹』たちに語る思い出話


 私と麗花も揃って「へぇ」と口にする様子を見て、青葉ちゃんは疑問に思ったらしく。


「お姉様たちはご存じなかったんですか? 普段あんなに仲がよろしいのに」

「あ、それは審査が始まってた時だったから。クラス展示も対象だから、審査中は企画審査課以外の生徒には、例え香実(身内)であっても口外しないようにって決め事があったの」

「そうなのですね……」

「花蓮お姉様はどういうお役目だったのですか!?」


 瞳をキラキラさせて勢い込んでそう言った姫川少女にほんの少し苦笑して、私も当時のことを語る。


「そうですねぇ。私は前書記の鳩羽 杏梨お姉様と広報課の補佐についておりました。先輩方が怒号を響かせながら案内パネルを制作していたのを、お姉様は『今年も盛況ね~。去年もこんな感じだったわ~。これぞ香桜祭って感じよね~?』と仰っておられたのをよく覚えています」


 そう。そしてのっけから閉め出しを喰らい、お姉様への対策資料ノートまで出てきたのだ。

 そして彼女の裏の顔を知ることとなった。


「私の場合は補佐のお仕事内容よりも、お姉様が変なことをしないか監視しておく方がとても大変だった記憶がありますね……」

「な、何かごめんね、花蓮ちゃん」


 ポッポお姉様の直の『妹』だった桃ちゃんに何故か謝られた。

 ううん、大丈夫だよ。


「では今年は花蓮が監視される番ですのね」

「ん? それはどうしてですか?」

「だって貴女、大抵変なサプライズばかり考えているじゃありませんの。作業している途中で何か思いついて周囲に迷惑を掛けないよう、お気をつけなさいませ」

「竹野原さん、貴女のお姉様が私に酷いことを言います。注意して下さい」

「ええっ!?」

「あーっと! アタシの場合は、その麗花の『姉』だった椿お姉様と装飾課だったなあ! 名前の通り校舎の飾り付けとかゲート制作とか、装飾する範囲広かったからめっちゃ駆け回ったなあ!」


 私としてはこれも他の『妹』とのコミュニケーションの一環だったのだが、仰け反ってしまった祥子ちゃんのその反応で失敗した模様。

 いち早く失敗を察知したきくっちーが自分の補佐内容を口にしたから、皆の意識はそちらへと向いた。


「私、すごくよく覚えています。あの何羽もある折り鶴のゲートはとても芸術的で、圧倒されましたから」

「ああ、うん……。あれめっちゃ大変だった。指壊れるかと思ったもん」

「私も広報課の補佐から装飾課の補佐の補佐に向かった時、指が死ぬかと思いました……」


 一昨年の広報課はポッポお姉様の意趣返しのせいで応援に行くことが適わなかったが、去年はお姉様もちゃんと正しく補佐に回って下さったので予定通りにパネルが完成し、装飾課の応援に行くことができたのだけれど……。


 作業内容と同時に、とある一悶着が起こったのをきくっちーも思い出したらしい。

 彼女は遠い目をして、ポツリと。


「何でだろうな……。ポッポお姉様が来た瞬間に先輩たちが、『自然災害起こされる前に避難! 皆作った折り鶴持って、各自指定した避難所に走って!!』って、大騒ぎになったの」



 ――そう、あのマル秘ポッポ対策資料は香桜祭実行委員会、通称香実の総務課が使用する専用教室に保管されていたため、各課のリーダーはそれを閲覧することが可能だったのだ。


 総務課の次に負担が大きい装飾課には、案内パネルが完成したら手が空く広報課が応援に入るのは確定事項。故にその資料に目を通した装飾課リーダーの顔色は、広報課リーダーと同じくらい青褪めていたとか。


 そして意気揚々とポッポお姉様が、『装飾課の皆さぁ~ん! 広報課から応援しに参りましたよ~!』と一心不乱に折り鶴を折っていた装飾課ゲート班に声を掛けた瞬間、その場の動きは一斉にピタリと止まり。

 その後すぐに先輩の一人がきくっちーの言ったあの言葉を叫んで、わーっ!と蜘蛛の子を散らすようにして逃げて行ったのだ。


 きくっちーもその場で折り鶴を折っていた人間だったが、お姉様と同じ【香桜華会】だったからかどうも話を聞かされていなかったらしく、訳も分からぬまま周りにならって、同じように折り鶴を抱えて逃げていくのを私は目撃していた。

 ちなみに椿お姉様はゲート班ではなく校舎班だったため、その場にはいらっしゃらなかった。


『……あらぁ~……?』


 折り紙とゲート班を応援しに来た広報課の数人だけが取り残されたその場で、そう発せられたポッポお姉様のその一言がゾッとするほど恐ろしく聞こえたのも、とてもよく覚えている。


 そして逃走したゲート班の動きは、避難所に向かう途中だった一人の生徒の姿を目撃した椿お姉様の知るところとなり。

 何かがあると察して呼び止めて話を聞き、事態を把握したお姉様が放送室にて。



『中等部装飾課ゲート班。中等部装飾課ゲート班に通達する。……今すぐ元いた作業教室に戻れ!!!』



 そんな血管がブチ切れていそうな怒声で以って、逃げた蜘蛛の子を蜘蛛の巣(作業教室)に回収していたこともよく覚えている。


 クソ忙しいにも関わらず時間ロスを起こしたゲート班は当然椿お姉様から叱られ、またそれを引き起こす原因となったポッポお姉様も、当時は何も言われなかったことをお姉様から一年越しに怒られて、ぷぅと頬を膨らませていた。

 ちなみにきくっちーに関しては事情を知らなかったとは言え、考えることなく周囲に流されたことを怒られていた。


 私は広報課の皆さんと共に折り鶴作成の傍らで、それをずっと見ていた。見ていたと言うか、嫌でも視界に入ってきたのだ。


「な、何か本当にごめんね! 花蓮ちゃん葵ちゃん!」

「撫子が謝ることじゃないし……」

「そうですね……。すごい巻き込み事故に遭ったようなものでしたよね、あれは」

「ごめんね!!」


 それを思うと桃ちゃんと麗花は香桜祭中も動く課の所属だったため大変だったろうが、私達と違い、比較的平和だったのではないだろうか。


「あの椿お姉様の放送後に、千鶴お姉様は仰っておられましたわ。『あ、これ杏梨が去年やったツケが回ったね』と」

「……桃も。雲雀お姉様、『ポッポちゃん大丈夫かしら……?』って、心配そうに仰ってた……」


 どうやら一緒にいた他のお姉様のその発言から、麗花と桃ちゃんも察していたらしい。

 もちろん二人にもあの放送は聞こえていた訳であるが、何故か敢えて何があったかなど聞かれなかったため、一年越しにその無言の理由が明らかとなった。というか『鳥組』お姉様方のさすがな共通認識度。


 そして途中から本来の目的を逸れ、ただ思い出話を語っていた『姉』の姿を見ていた『妹』たちは、何やら神妙そうな顔をしてお互いに頷き合っていたのであった。



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