Episode269-1 『妹』たちに語る思い出話
結果良ければ全て良しという訳にもいかず。
最後の最後で大いにやらかしてしまった私が地に埋まりそうなほど落ち込んでデッキから帰ってきたので、麗花ときくっちーには一体どういう電話だったのかと、大層心配されました。
同学年の男子の家に下着を忘れてきたとまさかそんな事実を言う訳にもいかず、「ちょっと、運が悪かったんです……」と返答するに留めるしかなかった。
そう…………あれは運が悪かったのだ。最終日の計画が全狂いするとは思わなかったし、あんな言い争いになるとも思わなかったし。
血が下がらなかった頭で考えた新たな思いつきが上手くいくかどうかに気が逸って、他に対する注意力が散漫だったとか。これはもう全部ひっくるめて運が悪いの一言に尽きるだろう。
もう何も言ってくれるなという気配を感じ取って、二人もそれ以上私の落ち込みに対して言及することはなく。途中桃ちゃんが合流したこともあって、そのまま一ヵ月と半月ぶりに私達は学院へと舞い戻った。
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帰省前に準備も済んでいて、去年経験したことをそのまま『妹』たちにも説明していたので、今年のオープンキャンパスも滞りなく終了。
私達は九月に入ってからだったが、一応早めにどういうことをするのかを軽く伝えておいた方が落ち着いて動けるかなと思ったため、皆で会室に戻って香桜祭のことを話題に出した。
「……――そう言えばさ、もうすぐ香桜祭の時期だよなー。……あ、詳しい内容はまた後日説明するけど、先に『風組』にはどんなことをするか簡単に話しておくよ。香桜祭にはやっぱりアタシたちも【香桜華会】として色々動き始めていくんだけど、この時は他の業務も一旦置いて香桜祭のことに集中できるから、生徒総会の時よりは楽だと思う! 他にメインで動いてくれてる部隊もあるし!」
去年一年生だった『妹』たちも経験している行事ではあるが、それを運営指示していく側なのだと緊張が走る。けれど屍となった記憶しかない生徒総会よりは楽と聞いて、ホッと安堵した空気が彼女たちを包み込んだ。
きくっちーがそう話題を持っていったのもお行儀よく席に座ってではなく、机上の資料を片付けたり手を動かしている中での、お喋りの延長線での発言。
『姉』である他のメンバーも『妹』たちが質問しやすいように、お互い連携して話を進めていく。
「そうそう。それぞれ課があって、主力部隊は私達【香桜華会】と形態が似ているんですよね。あ、一応私達はその補佐という形でお手伝いするのですけど」
「私達は総務課という括りになるのですけれど、香桜祭は全校生徒で作り上げる行事ですから、私達も一室で固まって作業をするのではなく、色々場所を巡りましたの。別のお姉様との行動にはなりましたが、大変勉強になりましたわ」
「あの。別のお姉様って、麗花お姉様は雉子沼会長とご一緒ではなかったのですか?」
反応して質問が上がったのは、麗花の『妹』である祥子ちゃん。麗花は微笑みながら彼女に答えを返す。
「ええ。私は前会計職であられた、黒梅 千鶴お姉様と補佐に回りましたの。私達が補佐に向かったのは実行委員会の中にある機材管理課なのですけど、金額管理が主な役割でしたわね。最終的にそこで纏められた総収入支出や出納は【香桜華会】に提出されるものですし、全体的な金額廻りの他にも、どこでどれだけの費用が掛かるのか見ていて全てが把握できるから、とても面白かったですわ」
そう感想を述べた麗花に、きくっちーが微妙そうな顔になる。
「何かそれ、ラスボスに裏で牛耳られてる感が半端ないんだけど」
「あら。常に全ての場面において矢面にお立ちになる会長が、一体何を仰っておられるのかしら?」
「アタシを会長扱いする時そういうプレッシャー込みなの、やめてくんない!?」
二人の軽快な掛け合いに美羽ちゃんと青葉ちゃんがクスクス笑い、そんな朗らかな空気の中で、今度は桃ちゃんが去年自分がしたことを話し出した。
「桃は副会長だった藤波 雲雀お姉様と企画審査課だったの。ステージを建設するのとかは業者さんに連絡しなくちゃならないんだけど、これは高等部の先輩たちがやってくれるの。桃たちがお手伝いしたのはステージ企画と学内企画での展示の制作過程や、劇の練習を見て回ったりすることだったから。だから生徒皆の頑張ってる姿を一番近くで見ることができたんだよ。それを同じ課の人たちに伝えて、じゃあこっちも企画が成功するように頑張ろう!って、明るい雰囲気の中でやってたの!」
「では忙しい中での雰囲気づくりと言うのが、こちらのお役目だったのでしょうか?」
姫川少女が聞くと、桃ちゃんは「ううん」と首を振る。
「雰囲気作りもそうなんだけど、一番は審査することが目的なの」
「審査、ですか?」
「うん。課の名前が企画審査課って言うでしょ? 香桜祭の閉会式で賞の授与があったと思うんだけど、それは当日に発表されたものの完成度だけじゃなくて、作り上げる過程も含めたものをちゃんと目で見て判断してたんだよ。それでも皆甲乙つけがたいから、どこが一番優秀かって決めるの、やっぱり悩んじゃうんだけどね」
「あー、だから遅くまで集まってたのか?」
「そうだよ」
きくっちーが納得という声を上げたのは、当時桃ちゃんからは『色々話し合いをしなくちゃなんなくて……』としか聞いていなかったからだ。




