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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
私立清泉小学校編―1年生の1年間―
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Episode27-2 たっくんに起きている不穏なこと

「良くないです。太刀川くんは私より先に名前で呼ばれているんですから、そこは譲ってくださいな」

「何だよケチくさいなー。いいじゃん、俺だってもっと柚子島と仲良くなりたいし。あ、そっかそれじゃダメか。じゃあこうしようぜ!」


 パッと表情を明るくさせて何やら思いついたらしく、私もたっくんも何だと彼の方を見る。


「俺が先に百合宮さんのこと花蓮って呼ぶ! なら拓也も呼びやすいだろ?」

「えええ!?」


 ちょっと、名前呼びを許したのはたっくんだけだぞ!?

 

 しかしそんな私の心の叫びも虚しく、たっくんは「それなら……」と頷いている。

 えっ、私の直談判はダメで裏エースくんの妥協案はいいの!? おかしくない!?


「良かったな、花蓮!」

「……太刀川くん。今を以って貴方は私のライバルとなりました」

「ライバル!?」

「反論は認めません。はい決定!」


 くっそ、今回は私の完全なる敗北、惨敗である……! 少女漫画の当て馬のくせにいいぃぃ!

 たっくんもたっくんだ、これは絶対的な男女差別だ!!


 プンスカプンプンと頬を膨らませて、怒りを顕わに裏エースくんを睨みつけるが、彼はといえば何のその。どこ吹く風で、


「アハハっ、何その顔。花蓮かわいいー」


 などと抜かしている! キィーーッ!!


「おお? どうした俺のクラスの子供たち!」

「あ、五十嵐先生!」


 笑う裏エース、左と右を見てオロオロするたっくん、内心激おこの私に掛けられたであろう声に、いち早く反応をしたのは真ん中で困っていたたっくんだった。


「おはようございます、先生!」

「太刀川は朝から元気だな! 百合宮も体調はもういいのか?」

「おはようございます。はい、ご心配をお掛けしました」

「なら良かった。それにしてもどうしたんだ? 三人で一緒に。こっから先は職員室しかないぞ?」


 首を傾げて私達に問う五十嵐担任。


「あの先生。俺が言うのも何ですけど、花蓮の席って今日までに準備するって話でしたよね? 教室に行ってもまだないんですけど」


 裏エースくんがそう言った途端、五十嵐担任はあぁっと声を上げた。


「あー、放課後急な職員会議が入って忘れてたなー。百合宮困っただろ? 悪かったなー」

「えーと。いえ、大丈夫です」


 忘れてたのか。うーん、まぁこれから準備してくるわって言って走って行っているし、いいのかな?

 というか、先生が生徒の前で廊下を走っていくな。


 案の定五十嵐担任が先輩らしい他の教師から「廊下を走るな!」と怒られた後、どうしたのか彼は再度振り返って、今度は足早でこちらに戻ってくる。


「そうだ太刀川、もう昨日みたいに暴れるのは無しな。確かに西川と下坂が言ったことも悪いが、そこは口で平和的に解決しような。百合宮の机、もう壊したらダメだぞ!」


 そうメっと裏エースくんに注意をして、今度こそ五十嵐担任は早歩きで去って行った。


「……」

「……あの。どうやったら私の机、壊れるなんてことになるんですかね?」


 男同士の秘密の一部は五十嵐担任の暴露によって決壊した。


 暴れるって、一体どんな暴れ方したんだコイツ。

 顔だけは爽やかなイケメンのくせして行動は野生児か!


 疑いの目でじーっと裏エースくんを見つめていると、観念したのは彼ではなくまたもやたっくんだった。


「あの、百合宮さん。新くんは悪くないんだ。僕がはっきり言わなかったのが悪くて」

「あ、おい拓也!」


 止めようとする裏エースくんとそんなたっくんの様子に、何やらたっくんも私の机破壊事件と関係があるということが窺える。


「太刀川くん、既に話は露見してしまったのです。こうなったらもう、一から何があったか教えてください」

「……あーっ、もう! よりによって花蓮いる時に注意しなくてもなー」


 はぁ、と溜息を吐いて天を仰ぐ。


「ああけど、今思い出してもやっぱムカつく! あいつら同じこと言ったらマジで許さねー」

「え~と、確か西川くんと下坂くん、でしたっけ? 彼らが何か言ったんですか?」


 彼等と特にクラスで話すということもないので、どんな子達かは知らない。

 そこでたっくんと裏エースくんが揃って顔を見合わせ、たっくんが口を開く。


「その、僕は百合宮さんと多分、一番仲がいいと思うんだけど」

「多分、ではなく本当に良いんです!」


 さっきも教室の中心で叫んでも良いって言ったじゃん。何でそんな自信なさげに言うかなぁ?


「あ、ありがとう。……うん、何でもないよ」

「え?」

「何でもないんだ。ちょっと僕がドジして、西川くん達を怒らせちゃっただけなんだ」


 笑ってそう言うたっくん。

 ……絶対うそだけど、この笑顔は本物だからどう追及したものか困るな。


 ちらりと裏エースくんを見ても彼も口を割る気はないのか、私と視線が合ってもスッと逸らしている。

 何なんだまったく。


「わかりました。そろそろ授業も始まる時間ですし、教室に戻りましょう?」


 この場では難しいかと判断し促せば、二人ともホッとしたように頷いて、私達は元来た道を同じように手を繋いだまま歩き始めた。

 教室に入ると既に私の席は用意されており、五十嵐担任は教壇の前で「遅いぞー」と笑っている。


 あれ、ちょっと待って。

 用意するの早すぎないか!?

 

 五十嵐担任忍者疑惑を抱きながら三人それぞれの席に着くと、丁度そのタイミングでチャイムが鳴った。


「皆おはよう! 今日は――……」


 本日も元気良く話し始める声を素通りし、真新しい机を撫でて考える。


 どうにも怪しいんだよねーやっぱり。

 何でもないことなら話せるだろうに二人して隠すとなると、これは机以外で私に関係あることっぽい気がする。私が休んだ日に起こったことだしね。


 ……よし、決めた。


 私は目の前にあるたっくんの背中を見つめ、ニヤリと笑った。


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