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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode265-2 俺を構え親父! 緋凰家仲直り大作戦!


 パパッと携帯を操作し、出したデータを再び突きつければ、途端に真顔になる緋凰。


「いつ撮った」

「貴方の隙をついてに決まっているでしょう。見つからずに撮影するのに、どれだけ私が苦労したことか」

「憲法十三条に反してんぞ。俺に訴えられる前に消せ」

「私はお目めが潰れそうになる人間の写真を、いつまでも自分の携帯に残しておく趣味なんてありませんので、ご安心下さい。ちなみにこれは、貴方の家のお手伝いさんのご協力も得て行われたことです。ご留意下さい」

「はあ!? ……チッ、入れ」


 家を出る時間が差し迫っていることから、これ以上無駄に言い争っている暇はないと舌打ち付きで中に入れてくれた。

 私も時間がないことを踏まえて鼻高々にならずに、ササッと本題と目的を告げる。


「合宿初日に言ったと思います。この一ヵ月で写真をいっぱい撮りましょうと。撮ってやってもいいと言っていたのに早々に反故にされてしまいましたが、私はこれを日々の日課として密かに続けていました」

「完全に盗撮だな。勝手にスケジュールに組んでねぇことしてんじゃねーよ」

「はい。貴方に見つかればそうやって怒られることは目に見えていましたので、コソコソするしかなかったんです。貴方に見つからないようにと注意を向けていたおかげで、注意を向けていなかったお手伝いさんには早々に見つかって注意されるとともに、理由も吐かされました」


 何だその目は。未確認物体を見るかのような目で私を見るんじゃない。


「理由を聞いて皆さんは、私にご協力して下さいました。……雇用されている家の内情を外部に漏らさないのは、守秘義務として当然のことです。ですが、心がないロボットじゃないんです。皆さんだって緋凰さまが生まれた時から、今日まで貴方のことを見守られていました。……このお家のことを、ずっと見てきたんです」


 緋凰の写真をコソコソ撮る理由を話した時、その人はどことなく悲しそうな目をしていた。

 注意は受けてももうするなとお咎めを受けるどころか、他の人にも呼び掛けて私を緋凰に見つからないように死角に案内してくれたり、背中に隠してくれたりしたのだ。


 私の携帯で撮った緋凰の写真はそのほとんどが気難しそうな顔をしているものばかりだが、中には数枚だけ穏やかな顔をしているものがある。そういう顔をする時の緋凰は、いつもリビングにいた。

 彼が穏やかな顔をしている先にはいつも――――幼い頃に父親と写った、家族の写真があった。


 お手伝いさんの背中に張り付いたのちソファの後ろに隠れ、床を匍匐ほふく前進して飾り食器棚に反射した対象者と、その視線の先にあるものを一緒に撮影するには、そうした特訓後の屍である私の涙ぐましい努力があったのである。

 初期の頃の私はその努力と引き換えに、翌日には筋肉痛が酷くて物言わぬむくろと化していた。


「時間がないからと。私と緋凰家で働かれている皆さんとの血の滲むようなサプライズを、だからこそここで台無しにされる訳にはいきません」


 私はここで携帯の一覧表示している写真データから目星をつけていた画像をタップして、画面いっぱいに表示させる。そして三度みたび印籠の如く、それを緋凰へと突きつけた――!


「さあ緋凰さま。これが『俺を構え親父! 緋凰家仲直り大作戦!』にかかわる必須アイテム! 息子のお父さん大好き顔写真です!!」

「すげぇ。よくそんなダサくてクソなネーミング思いつくな。俺にはぜってぇ真似できねぇわ」

「いいですか緋凰さま! ここ、このアングル! 哀愁漂う視線の先にある写真立て。そこに嵌まる写真がどういったものかまで判別可能なこのアングルは中々のものですよ! これをお父様に見せればきっと息子からの愛を感じ取って、寂しがらせてしまったと悔いた結果、お家に帰宅して『陽翔ごめんね!』って、抱きしめて下さる筈です。……さあ、この天才パパラッチを今すぐ褒め称えなさい!!」

「着替えるから出てけ」

「まだ出ません! ――今からお会いされる方は、お父様でしょう?」


 聞いたのだ。出発の時刻と同時に、誰との用事なのかも。

 はあ、と大きな溜息が室内に落とされる。


「必要ねぇ」

「どうしてですか」


 私が理由を問うと、緋凰は。


「父親とは会社の引継ぎのことで会うからだ。……早くその座を俺に渡したいんだろうよ。もうすぐ高等部に上がるってんでまだ上がってもねぇのに、先の話を今の内から少しずつ進めるらしい。だからンな個人的なモンのために会う訳じゃねぇから、要らねぇっつった」


 ――――まるで“それ”が普通のことであるかのように、そう言った。



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