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空は花を見つける~貴方が私の運命~  作者: 小畑 こぱん
―巡るひととせが繋ぐもの―
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Episode264-2 彼等の間に旗が立つ時


 けれど春日井から話を聞いて、なるほど確かにと思った。

 跡継ぎである緋凰と春日井が紅霧学院に進学する理由は謎だったが、それは秋苑寺にも同じことが言えたからだ。


 秋苑寺家には秋苑寺 晃星の上に、兄が一人いる。歳は離れていてとっくに後継者として仕事に邁進しているのに、次男の晃星が銀霜学院に進学するのはどうしてなのかと考えたが、ここ(現実)での理由はそういうことなのかと納得した。

 まあ私が銀霜学院に通うことはないので、それも大した問題ではなくなったけど。


「ギクシャクしたら生徒に影響が出るからですか?」

「そもそもギクシャクするということがないかな。僕と陽翔だけだったら、僕の方にいま以上の変化が起きないから」

「春日井さまと緋凰さまだけ?」


 他にも人が含まれているようなその言い方に疑問の呟きを溢したら、「何でもない」と言って、春日井が話の終わりを告げてきた。


「それじゃあ僕は帰るよ。連絡がない理由も知れたし。……本当に猫宮さんたちのために気をつけてね?」

「心得ております」

「うん。あと一週間あまりか。猫宮さん来たら楽しそうだし、僕も応援してるよ」

「はい、頑張ります!」


 そうして最後に微笑みを見せた春日井を玄関から見送って、一応報告のために緋凰の私室へ戻れば彼は座ソファにふんぞり返って、何やらタブレットを見ているようだった。


「春日井さまお見送りしてきました」


 声を掛ければこちらに視線だけ投げて、画面に戻る。


「いまお前のインターバル走の姿勢チェックしてる。始めは良いが、後半になると前傾になりがちだ。直せ」

「端的に直せと言われましても。気をつけます」

「…………夕紀、何て言ってた。やっぱ……何か、怒ってたか?」


 やっぱり緋凰も感じていたみたいで画面に視線を固定したまま、そんなことを聞いてきた。


「いえまあ、さっきも仰られておりましたが、負担って言い回しが引っ掛かっておられました。ですがそれもお見送りするまでに春日井さまの中で整理されたようですので、大丈夫ですよ」

「…………」

「……難しいですよね、言葉って。私もよく間違えたり、足りなかったりして怒られます」

「だろうな」


 おいそこ同意するな。ここは「そんなことないよ」で返す場面だぞ。

 人とのコミュニケーションを円滑にするにはこういう時どうすればいいのかをレクチャーしようと口を開こうとするも、緋凰が話を続けてきたため再び閉じるしかなくなった。


「負担ってのは、そのままの意味で言ったつもりだったんだけどな。多分俺が家の事情を先に出したから、そういう風に考えちまったんだろ。夕紀には後で電話する」


 小さく頷いて賛同を示す。

 あの最後だと、やはりどちらかが連絡を取って話さないと次が気まずい。こういうのは早めの行動が肝心である。


 ……しかし緋凰は春日井のあの言葉を、どういう風に受け止めているのだろうか?


「あの、緋凰さま」

「アイツがエゴだって言っても、俺にとってはそうじゃねぇ」

「え?」


 言う前に先に口に出されて目を丸くする私に、フンと鼻を鳴らしてくる。


「気になってんだろ? それで集中力なくされても面倒だから答えてやる。要はこれも受け取り方の問題だ。夕紀にとってはそうでも、俺にとってやっぱりあれは、俺のための言葉になってんだよ。言われなきゃ俺は考えることもしなかったし、変わろうって思考にも至らなかった訳だしな。だから夕紀に感謝してんのは変わらねぇ。――けど、」


 そこで口を閉ざした緋凰。

 何か考えている様子だが、少し待ってみても反応がない。


「けど、何ですか?」

「…………いや。ま、何がどうなっても夕紀は俺にとって親友だ」


 最後は私にではなく、自分に言い聞かせるような感じで緋凰はそう言った。

 この時の緋凰が何を考えていたのかは分からない。


 けれど今日彼が口に出して言った言葉の数々。そのすべてに春日井への思慕があり、出会った頃と変わらず彼のことが大好きなのであると、私は感じていた。



 ――――ちりも積もれば山となる。


 これはごく僅かなものでも、数多く積み重なると高大なものになるという例えである。その例えを踏まえて、そして私は後になってこう思うのだ。



 『フラグが立つ』というのは、こういうことかと。



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